第43話 楽をして勝つ。これこそ至高だよ。

 翌朝、守護者ガーディアンコースの1年生は集合時間よりも前に全員が揃っていた。


 昨日の疲れは、疲労回復リフレッシュ】で完全に取り除いたから、ライトは今日も存分に戦える。


 ちなみに、ライトはパーティーメンバー全員に【疲労回復リフレッシュ】をかけている。


 この行為は新人戦のルール上何も禁止事項に抵触していないから、ライトに後ろめたさなどない。


 守護者ガーディアンコースの1年生は、昨日と今日の両日ともリタイアした者以外、個人の部、パーティーの部が終わるまで回復系の道具アイテムの使用が禁止されている。


 だが、それはあくまで回復系の道具アイテムの使用が禁止されているだけであって、回復系のの使用は禁止されていないのだ。


 もし、スキルまで禁止してしまえばそのスキルを持つ利点を消してしまうので、禁止されていないという訳だ。


 だから、ライトは胸を張って<法術>を使った。


 ライトはパーティーメンバーと合流すると、気持ちを引き締めることにした。


「さて、昨日はみんな戦った仲かもしれないけど、今日は気持ちを切り替えて優勝しに行こう」


「だな!」


「諾」


「は~い」


「うん!」


 アルバスとザックは昨日ライトと直接戦っているので、思うところがあってもおかしくないのではと指摘する者がいるかもしれない。


 しかし、ライトは真剣勝負で2人に勝ち、その上【疲労回復リフレッシュ】のアフターフォローもしている。


 だから、2人がライトに感謝することはあれど、ネチネチと引き摺るようなことはない。


 さて、パーティーの部は昨日の個人戦の部と同じであり、A~Dブロックの4回バトルロイヤル形式で予選を行い、それぞれのブロックの勝者が決勝トーナメントに出場できる。


 ライト達のパーティーはAブロックに出場し、もう1つのG1-1のパーティーはCブロックに出場する。


 そのもう1つのパーティーのリーダーは入試3位のエルザが務めている。


 午前9時になると、昨日と同様に注意事項が伝達されてすぐにAブロックの予選へと移った。


 ライトのパーティーに加え、G1-2~G1-5まで各クラスから1パーティーずつ参戦するから、5つのパーティーで1つの決勝トーナメントの枠を奪い合う訳だ。


 グラウンドに5つのパーティーが集合していつでも戦えるように準備が完了すると、シスター・マリアが口を開いた。


「Aブロック予選、試合開始!」


「ロゼッタ」


「は~い。【範囲蔓拘束エリアヴァインバインド】」


「つ、蔓が!?」


「絡みつく!?」


「締め付けられる!?」


「動けねえ!」


「もっとキツくして!」


 (なんか1人、変な扉を開いちゃった奴がいたな)


 そんなことを思いつつ、ライトは自分達以外の全パーティーが蔓に拘束されて身動きが取れないのを目で確認した。


「そこまで! Aブロック勝者、ダーインパーティー!」


 蔓によって誰も身動きが取れないとわかると、シスター・マリアがすぐに試合の終わりを告げた。


 開始10秒以内にAブロックの予選が終わってしまった。


 これもロゼッタの<森呪術>のおかげである。


 ライトは昨日の試合でロゼッタが【根拘束ルートバインド】で敵の足止めをしていたのを見いていたから、それを複数名の相手に範囲を広げてできないか訊ねた。


 すると、ロゼッタはMP消費は激しいが可能な技があると答えた。


 それを聞いたライトは予選で使ってくれと頼んだ。


 開始早々発動すれば、まず間違いなくそれだけで勝てると言われると、ロゼッタは自分達がダメージを負わずに勝てるならと二つ返事で引き受けた。


 実際、結果はライトの予想通りとなった。


「ライ君の言う通りだったよ~」


「ロゼッタ、助かった。後は準決勝までゆっくり休んでてくれ」


「そうするね~」


 ロゼッタはライトの指示通りに動いたことであっさり勝てたので、ライトへの信頼を強めた。


 その一方、アルバスとザック、アリサは不完全燃焼というより着火すらしていなくて困った顔になっていた。


「あっけなく勝っちまったな」


「案山子」


「こんな楽して良いのかな?」


「楽をして勝つ。これこそ至高だよ。無駄に疲れを溜めたって良いことなんて1つもないよ。あと2回も戦うんだから」


「それもそうか」


「見学」


「そうだね。優勝するためにできることをしよっか」


「大丈夫。午後は嫌でも頑張ってもらうから」


「任せろ」


「諾」


「OK」


 午後は出番があると聞き、アルバスとザック、アリサは納得した。


 ライト達が決勝参加者の待機場所に移動するのと入れ替わりに、Bブロックの予選に出場するパーティー6組がグラウンドに集まった。


 G1-2とG1-3は1組ずつで、G1-4とG1-5は2組ずつ出場している。


 その勝者はG1-2のパーティーとなった。


 G1-4とG1-5の4つのパーティーが最初にG1-2のパーティーを狙うと思いきや、G1-3のパーティーを狙った。


 そのせいでG1-3のパーティーは負けた。


 ところが、G1-3のパーティーだってただやられただけではない。


 G1-4のパーティー1つ、G1-5のパーティーを2つリタイアさせた。


 残ったG1-4のパーティーもG1-3のパーティーと戦って無傷ではいられなかったので、弱っているところをG1-2のパーティーにあっさりやられた。


 続いてCブロックの予選だ。


 Aブロックの予選と同じく、G1-1~G1-5まで各クラスから1パーティーずつ参戦する。


 グラウンドに5つのパーティーが集合し、戦闘準備が完了すると、シスター・マリアが口を開いた。


「Cブロック予選、試合開始!」


「カタリナ、やっておしまいなさい!」


「は、はい! 【範囲麻痺エリアパラライズ】」


 エルザの指示を受け、カタリナが自分達以外のパーティーに麻痺させた。


 おどおどした様子のカタリナだが、使った技は凶悪である。


 バタバタという音と共に、敵全てを麻痺させることを凶悪と言わずになんと言う。


 <状態異常耐性>系統のスキルか状態異常を防ぐ魔法道具マジックアイテムがあれば別だが、それを持たない者達にとっては防ぎようがないのだから。


「そこまで! Cブロック勝者、オルトリンデパーティー!」


 麻痺させられたことによって誰も身動きが取れないとわかると、シスター・マリアがすぐに試合の終わりを告げた。


 こちらも開始10秒以内にCブロックの予選が終わってしまった。


 この試合を見ていたライト達は、真剣な表情だった。


「カタリナの状態異常系の技は危険だけど、僕が回復させるから心配しなくて良いよ」


「頼りにしてるぜ、ライト。俺はエルザかな」


「ミーア」


「アズ君だね~」


「私はオットーかな」


 各々、マッチアップする相手を確認した。


 決勝でぶつかる本命は彼等なので、どう戦うかのシミュレーションはやり過ぎなくらい行っているし、今日までの実技の授業でも戦い方を何度も調整している。


 その打ち合わせは、Dブロックの予選が始まるために一旦中断した。


 もしかしたら、Dブロックからエルザのパーティーを倒す者達が出て来るかもしれない。


 その可能性がある限り、Dブロックの予選も見ない訳にいくまい。


 DブロックはBブロックと同じくG1-2とG1-3は1組ずつで、G1-4とG1-5は2組ずつ出場している。


 その勝者も同じでG1-2のパーティーとなった。


 しかし、このパーティーが勝利する過程が違った。


 G1-2以外のパーティーが揃ってG1-2のパーティーを狙ったのだが、ロゼッタやカタリナのようにG1-2のパーティー内に範囲攻撃を使う生徒がいたのだ。


 その生徒の名前はテスラ=ガルバレンシア。


 もっとも、使った範囲攻撃とは竜巻の迷路を創り出すといった技であり、直接的な攻撃ではなかった。


 迷路の壁が竜巻であり、触れれば吹き荒れる風でダメージを負う。


 だから、迷路の中心部で竜巻に守られているG1-2のパーティーに手を出せず、それ以外のパーティー同士で潰し合った。


 そして、最後に残ったパーティーにG1-2のパーティーが総攻撃を行って試合終了となった。


 ライトの目から見れば、テスラ=ガルバレンシアはG1-1にいてもおかしくない実力の持ち主だった。


 テスラに統率されたパーティーも個々の実力自体は脅威にはなり得ないが、連携することで十分にG1-1に迫る強さを見せた。


 午後から始まる決勝トーナメントでは、もしかしたらエルザ達が勝ち上がって来ない可能性があるかもしれない。


 ライトはそのように考えると、自分達が準決勝で対戦するG1-2に足元を掬われないように昼休みに戦略を練り直すことにした。

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