ある遠き日の記憶(ベッコside)

『えぇい!! この無能者めがぁ!!』


思い切り殴られる。

ベッコは眼を見開いた。

誰だ、 この男は? 父上だ。

いや違うお父様じゃない。 

何者? いや・・・そもそもこれは・・・

ベッコは周囲を見た。

ここは何処だ?

ここは私の家。

違う、 プリン城では無い。

混乱するベッコ。


『お許しください父上!! 私では無理です!!』


口から自分の声ではなく、 自分の意志では無い言葉が溢れる。


『貴様ァ!! ダイン家の長子として恥ずかしいとは思わないのかぁ!?』


誰かが殴られているのを眺めるベッコ。


「これは・・・一体・・・」

「これは私の記憶」


ベッコの傍に現れる老人。


「どうも初めましてグンナーです」

「ど、 どうも・・・僕はカラメル王国第三王子ベッコ・カラメルです」

「王子様か」

「これは・・・一体・・・」

「君の身体と私の身体は融合を始めている

ショコラ公爵の子供・・・いや、 今はビター君がショコラ公爵か

兎も角彼のテンパリングで君と私は融合を始めている

君が見ているのは私の記憶だよ」

「記憶・・・」


尚も殴られる誰か。


「彼は?」

「若い頃の私だよ、 私はビア帝国の内乱が始まるよりもずっと前の

若い頃の私、 殴っているのは私の父親だ」

「父親・・・」


若いグンナーは尚も父親に殴られる。

顔は変形し血も流れている。


「止めないと!!」

「これは私の記憶だ、 止めるも止めないも無いよ」

「っ・・・」


歯噛し涙するベッコ。


「こんな・・・酷い・・・

何で自分の子供をこんなに殴れるんだ・・・」

「それはね」

『ダイン家を継ぐ者が固有魔法【ダインスレイヴ】を使えずして如何するか!!』

「ダインスレイヴ?」

「そう、 ダイン家は九大魔家って呼ばれるビア帝国の魔法の名家だったんだ」

「・・・九大魔家? 十二大じゃなく?」

「当時は三つが没落していたから九大って呼ばれてたんだよ

まぁ内乱が終わってから全部没落したから十二大に戻ったけども・・・

当時は受け継いできた固有魔法を使えないと言うのは大問題だった」

「そんな・・・固有魔法は個人の資質じゃないですか・・・」

「そうだね、 だけども当時は個人よりも家が重視されていた時代だったんだ」

「そんな・・・酷い・・・」


尚も殴られる若い頃のグンナーであった。

そして涙を流すベッコだった。

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