閑話 航海日誌

静かな午後、 レストラン・スコヴィルで小説家が紅茶を飲んでいた。

手元には町長でぶ妖精から貰った航海日誌が有った。


「かなり枚数が多いですけど如何でした?」


ラビーが小説家に尋ねた。


「胸に迫る物が有ったよ、 全体的に重苦しかった

話は端折るが環境破壊が行き過ぎた故郷を捨てて新天地を求めて旅立ち

当ても無く彷徨っている間にでぶ妖精になって行くクルー達

でぶ妖精化は自然の摂理だと諦めたり、 病気だと排斥し合ったり

物語としてはホスト・アポカリプス、 つまり文明滅亡後の物語と言った所か」

「読んでいて楽しい物じゃ無さそうですね・・・」

「あぁ・・・書いている人間は船の船長なんだが・・・

彼はでぶ妖精になりそうな体を律して最後まで人で有り続けて

人間として死んでいった・・・船長が死んでからは船長のペットだったでぶ妖精

つまり町長でぶ妖精がリーダーになって新天地、 つまりここに来るまでの

航海日誌を書いているんだが、 まぁ何も無い」

「何も無い?」

「今日も平凡な日だった、 が物凄い沢山並んでいる」

「いちめんのなのはな、 みたいな感じですか?」

「何だいそれは?」

「何かの詩か何かで『いちめんのなのはな』と言う文字列が

大量に並んでいる文章が有ったんですよ」

「力技だなぁ・・・だが面白い表現だ、 覚えておこう

話は戻すがここに来てからは航海日誌は書いていない様だ」

「そうですか・・・」

「人類開闢とか知りたかったが仕方の無い話だな・・・

だがこの日誌の最初の方を書いていた人間の船長は

人間としてのプライドを持って死んでいった漢だと思う、 中々に熱い奴だ」

「でも死んじゃったらやなにょー」


でぶ妖精達が悲しみ始めた。


「確かに・・・ペットのでぶ妖精が悲しみ、 先に逝く事を詫びていたな・・・

でぶ妖精は死ぬ事が有るんだろうか?」

「幽霊のでぶ妖精を見た事が有るにょ

でもお供え物食べて復活したりとかしてるにょ」

「謎だなぁ・・・兎も角、 フィクションとして書いている途中だ」

「作品になるのを楽しみにしています」

「うむ、 楽しみに待っていたまえ」


そう言って紅茶を飲む小説家だった。


「冷めてませんか?」

「心配無いさ、 と言いたいが寧ろアイスティーの方が良いかな?」

「氷用意しますね」

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