閑話 突き抜けろ!!と先生は言った

万年筆の令嬢が自宅の屋敷にて物鬱げにしている。


「あら? 如何したのかしら? 何か有ったの?

私に相談して頂戴な」


編み物の先生がやって来た。


「あ、 もう編み物の授業の時間でしたか・・・」

「いえいえ、 良いのよ、 そんな状況で編み物したって良い物は出来ないわ

良き編み物は良き肉体と精神から生まれるのよ、 技術は些細な問題よ

編み物はスピリットが無ければ上手く行かないわ」

「そうですか・・・ではお話ししましょう、 紅茶を準備させますよ」


紅茶が運ばれ飲みながら万年筆令嬢が語り始めた。


「この前に行った店の事を覚えていますか?」

「お店・・・・・もしかしてあの人間の人のお店?」

「そうなんですよ」

「炒飯が美味しかったわ!! 是非ともまた行きたいわ!!」

「そうですね・・・実はあの店で燻製を作り始めたんですよ」

「ほう、 薫製を!! 薫製は美味しいわよね!!」

「そうなんです・・・私も裁縫の他に何かやろうかなと思うんですが・・・」

「否!! 薫製は調理法に過ぎない!! つまり燻製も料理!!

裁縫が手縫いかミシンを使うか!! それ位の違い!!」

「でも差がつく一方な気がしますが・・・」

「差ねぇ・・・差を感じて如何するの?」

「実は私とあの人は婚約者を取り合う恋敵なんですよ」


微妙に違う気もするが大体合っている。


「なるほどねぇ・・・」


紅茶を一気に飲み干した先生が語り始めた。


「私も学生時代に周囲と差を感じた事が有りましてね」

「そうだったんですか・・・それで如何したんですか?」

「一日考えた結果、 何のアイデアも浮かばなかった

悩んでも答えが出ないなら悩むのは無意味、 こうなったらやる事は一つだけ」

「それは・・・一体」

「裁縫よ、 兎に角裁縫をし続けた、 その道のプロになれる位に」

「・・・・・」


令嬢も紅茶を飲んだ。


「兎に角突き抜けてしまえば良いのよ」

「そうですかね・・・」

「そうよ、 貴方の惚れてる人も他人の眼ばかり気にしている人よりも

突き抜けている自立した女の方が良いわよ」

「・・・・・そうですね」


如何やら気持ちを固めた令嬢。


「私、 頑張ります」

「その調子よ!! 自分に自信を持つ事が一番大事なのよ!!

という訳で今日も裁縫を教えましょう」

「よろしくお願いします」


こうして令嬢は編み物を特訓するのだった。

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