閑話 かつて立派だったあの子へ

アーモンド家の稽古場にてエムズが

新しくアーモンド家の養子にしたガルボに稽古をつけていた。


「今日も精が出ますな、 執事長」


使用人の中でも古参でエムズと同年代のアンドがやって来た。


「おや、 アンド、 如何したんだ?」

「そろそろ坊ちゃまのお食事の時間だと言うのを伝えに来ました

ささぼっちゃま」

「うん、 分かった」


とたたたたとガルボが稽古場を後にする。


「御飯の前にシャワーを浴びて下さいよー」

「分かってるー」


ガルボとエムズのやり取りに微笑むアンド。


「如何したアンド?」

「いや、 ウィノぼっちゃまを思い出してな」

「懐かしい・・・ウィノ様が子供の頃にも稽古をつけていた・・・」


遠い目をするエムズ。


「アンド・・・私はウィノ様をきちんと育てられなかったのだろうか?

騎士として必要な事は教えて来たつもりだったのに・・・」

「騎士として完璧だ、 しかし人間としては如何だろうか?」

「人間としてもウィノ様はちゃんとしていた筈だ、 エムを覚えているだろう?」


エムとはアーモンド家で昔飼っていた猫である。

今はもう寿命で亡くなってしまったがウィノは大層可愛がっていた。


「覚えているとも、 エムが初めて家に来た時はウィノ様は泥まみれだった

御付きの者が目を離している隙に犬に虐められていた猫を助ける

人としての優しさはもっていた」

「そうだ、 その筈なんだ・・・・・なのに、 何故」

「エムズ、 ワシが言いたいのはそう言う事じゃないんだ

人間として大事な優しさは持っていた、 しかしその優しさに漬け込まれた」

「・・・・・あのアスパルとか言う男爵令嬢か」


苛立ちながらその名を口にするエムズ。


「女で転ぶのは良くある話だっただろう

アンタも現役時代そういう輩を多く見た筈だ」

「確かに・・・でもここまで酷い事になるか?」

「女は男を狂わせる・・・と言う事か」

「・・・・・ウィノ様はこれからどうなるんだろうか」

「なぁにウィノぼっちゃまは鍛錬をサボっていたが

それでも腕っ節は強いし魔法も使える、 市井での仕事には苦労しないだろう」

「だと良いのだが・・・」

「もうウィノぼっちゃまはアーモンド家の者じゃないんだ

我々に出来るのは彼の今後を祈る事だけだ」

「そうか・・・メイジ様に申し訳が立たないな」

「旦那様も辛いんだ、 息子があんな事になってしまったから・・・

・・・ワシ等も飯にしよう」

「そうだな」


エムズとアンドが鍛錬場を去った。

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