皇帝フライは愚息に対して物も言えない(皇帝side)
フロートは故郷のビア帝国に帰国した。
フロートは隠していたがビア帝国の第12皇子である。
普通に考えるのならば帝位継承権は低い。
しかし帝国は超実力主義な国、 "力"さえ有れば成り上がれる。
フロートの"力"とは魔力の高さ、 魔法の巧みさ
魔法の知識量、 その"力"を持ってすれば低い帝位継承権でも
皇帝の座は近くなる、 しかしながらここにプラスアルファが有れば
皇帝の座は握ったも同然。
そのプラスアルファを見つける為に国外留学をし
様々な土地を渡った、 深海戦争にも参加した。
そしてそのプラスアルファをとうとう見つける事が出来たのだ。
フロートは皇帝の居城ダンスホールに帰った。
「フロート第12皇子、 御入来です」
貴族達や皇族達が並ぶ中を進みながらフロートは
皇帝フライ・ボウル・ビアの前に立った。
フライは玉座に座っていた
フライは過去に追った傷を隠す漆黒の髑髏の頭蓋と王冠を被る異形の面構えで
フロートを見ていた。
「お久しゅう御座います父上」
フロートは跪いて父に声を発する。
「・・・・・」
フライは何も言わない。
「父上、 この度、 私は妻を娶ろうと思います」
「・・・・・」
フライは何も言わない。
「父上、 私はラビー・ストロングを妻に娶ろうと思います」
皇族や貴族達が騒めく。
「・・・・・」
フライは何も言わない。
「父上、 私はラビー・ストロングを赤の森から救出し妻に娶ろうと思います」
「・・・・・」
フライは何も言わない。
「あの・・・父上?」
「・・・・・あー・・・フロート、 何故俺が黙っているか分からないのか?」
フライが本当にかったるそうに声を出す。
「え、 あの・・・」
「世の中には色んな言葉が有るよなフロート」
「は、 はい・・・」
「馬鹿、 間抜け、 あんぽんたん、 屑、 カス、 ゴミ、 ムシケラ
罵倒にも色んな言葉が有る」
「は、 はい・・・」
「だけどな、 俺にはお前に言える言葉が何も無い
文字通り呆れて物が言えない状態な訳だ」
「え?」
ひょう、 と音が鳴り吹き飛ばされるフロート。
「がっ!!」
フロートは風の障壁を張ってその場に立ち留まる。
「留まるか」
「何故ですか父上!!」
「その気になれば殺せたし、 今でも殺せるのに尋ねるか?」
「っ!!」
恐怖に震えるフロート。
実際本当に殺す場面を見た事が有る
現に皇族や貴族の中には恐慌状態になっている者も居る。
「尋ねましょう!! ここで臆しては皇帝になどなれない!!」
「ほう、 良い根性だ、 根性だけは及第点
だがお前が練った策は全て駄目だ」
「何故ですか!?」
「ラビー・ストロングを娶る、 その着眼点は認めよう
お前では役不足感が有るが立場が良い」
フライが玉座から立ち上がりフロートにつかつかと歩み寄る。
「ラビー・ストロング公爵令嬢
かの令嬢は先の深海戦争では戦勝の立役者になった
かの王国のカルーア王子が敵将を打ち取った事からその影に隠れがちだが
彼女の魔術により海を凍り付かせ敵の逃げ道を塞いだのははっきり言って規格外の力だ
受勲を固辞しなければ間違い無く彼女の胸には帝国大球勲章が授与されていただろう」
帝国大球勲章、 その勲章は帝国でも最上位の勲章である。
他国の者に与えるとは前代未聞である。
倒れたフロートの顔を覗き込むフライ。
「だから妻に娶って皇帝の座に就こうと?」
「は、 はい!! 彼女の魔法は類を見ない物です!!
炎と氷の二つの魔法を扱う等魔術の歴史上類を見ない」
「そこまで、 お前は認識が甘い」
「は?」
錫杖でずいとフロートの顎をなぞり立ち上がらせるフライ。
「炎と氷の魔法? ラビー・ストロングの魔法はそんな魔法では無い」
「え」
「そのラビー・ストロングが追放された時にお前は如何した?」
「しょ、 食料を与えて一旦は逃がしました!!
で、 ですが居場所は分かる様に魔法を付与しました!!」
「呆れて物が言えない、 何故、 追放されて即座に連れて来なかった?」
「それは王国の王子サンライズへの義理立てを」
「無用!!」
ぴしゃりとフロートの顎を錫杖で叩くフライ。
「王国への義理立て等無用だった!!
お前は即座にラビー・ストロングをこの場に連れて来るべきだった!!
さすれば俺はお前に次期帝位を与えただろう!!」
「なっ・・・」
騒めく貴族と皇族達。
「こんな場所で呆けている暇など無いぞフロート
さっさと赤の森に行ってラビーを連れて来い!! もっともラビーが生きていればの話で
お前が赤の森から帰って来れればの話だが」
「い、 今すぐ向かいます!!」
フロートが慌てて玉座の間から立ち去った。
「父上、 フロートに帝位を与えるとは中々のジョークですな」
皇族の一人が野次を飛ばす。
「冗談を言うタイミングを知らんのか?」
フライが睨みつけるとじょろじょろとその皇族は失禁した。
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