時間からのハゲ

「なんと、いったいこの星はどうしたことだ……」


 銀河連邦ぎんがれんぽうから派遣はけんされ、時空探査の任務をおこなっていたマ・スベ大佐は、荒廃こうはいした惑星に降り立ち、驚愕きょうがくした。


「文明のあった形跡けいせきがある……しかし、形跡だけだ……なにもかも、瓦礫がれきの山と化しているぞ……」


 にごった小雨こさめの降りしきる中、大佐はさっそく調査をはじめた。


 そして一時間ほどそうしていたとき、彼は鋼鉄のかたまりのような廃墟はいきょの中に、うつむいて座っている老人を見つけた。


「ご老人、この星はすっかり荒廃しているようだが、すぐれた文明があったようだ。いったい、何があったというんです?」


 ボロボロの宇宙服を着た老人は、ハゲ頭を揺らしながらおもむろに話し出した。


「……ここは、銀河連邦の本星ほんせいじゃ。お前さんはつまり、『浦島太郎』というわけじゃな……」


「な、なんと……」


「お前さんが時空探査のためここを出たあと、知的生命体の侵略しんりゃくがあったのじゃよ」


「……」


「やつらはおそるべき兵器を使い。たちどころにこの星を掌握しょうあくしたのじゃ」


「その、兵器とは……」


「これじゃ……」


 老人はかたわらから、一冊の分厚ぶあつい本を取り出した。


「これは――」


「エロ本じゃ。やつらはこれを大量にき、わしらはすぐさま腑抜ふぬけにされた。わしもマスをかきすぎたあまり、ほれ、このザマじゃ」


 老人は自分の頭を指して苦笑した。


「じゃが、お前さんなら、何とかできるかもしれん。時空探査の技術を使い、過去に戻って、このおそろしい事実を書き変えてくれんか?」


「しかし、いったいどうすれば……」


「これを使うのじゃ」


 老人は別の本を取り出した。


「これは……」


「BLマンガじゃ。タイムリープしてその知的生命体の本拠地ほんきょち侵入しんにゅうし、エロ本と差しかえるのじゃ」


「なるほど。しかしそれは、たいへん危険な任務になるでしょう」


「わかっておる。じゃが、お前さんにしかできんことじゃ。どうじゃ、やってくれんかの?」


「……わたしも銀河連邦のはしくれ……ぜひ、やらせてください……!」


「そうか……では、これを……」


「はっ!」


 大佐はうやうやしく老人に敬礼した。


「頼んだぞ……」


 こうして大佐はタイムリープの旅へと出た。


「……しかしあの老人は、わたしのことをどこか知っているような感じがあった……いったい、何者だったのだろう……」


 浮上ふじょうする探査艇たんさていを見つめながら、老人は涙を流した。


「こうなってはならんぞ、若き日のわしよ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る