ユミとマコト

幸 茉莉花

ユミ①

朝が好きだ。


薄いレースのカーテンの向こうからもれてくる太陽のやわらかな光に包まれている、マコトの寝顔が好きだ。目は穏やかに閉じられ、口は半開き、身体全体に少しも力が入っていない。赤ちゃんの寝顔と何も変わりやしない無防備な顔をしている。


「おはよう。」


んーと小さな声を出し、マコトの眉間にシワがよった。が、またすぐに元の脱力した顔に戻る。


「おはよう、もう起きなくちゃ。」


マコトの目が半分くらい開き、ふぅー、と小さく息を吐きながらまたまぶたがゆっくり閉じていった。やれやれ、と思った瞬間、目を真ん丸に見開いて上半身を起こすと、マコトはベッドからさっと飛び降りて後ずさりした。


「誰?」


こんなに目線をはっきり合わせてくれたのは、いつぶりだろう。長いまつげ、ぱっちりした二重、茶色がかった黒い目がこちらを見据えている。


「ユミに決まってるでしょ。」


「ユミ、いやユミなんだけど、ユミなの?」


私はユミだし、もう10年もマコトと一緒のベッドで、毎日朝を迎えている。


マコトはゆっくりベッドに近づいてきて、そっと手をのばすと、恐る恐る私の頬を撫でた。


「くすぐったいよ。」


思わず出た私の言葉に、マコトの手がビクッと震えた。マコトはじりじりと後ずさり、私の目をじっと見たまま後ろ手で部屋のドアノブを回し、開いたドアの隙間に身を滑り込ませるようにして部屋の外へと出ていった。


朝の穏やかな光の中で、私だけベッドに取り残された。

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