卯月幻は、旅をする。
満月凪
序章
それまでは「和」しかなかった世界に、少しずつ、けれども確実に「洋」が混ざり込んでいく。
和と洋が着々とまじわっていく明治の時代に、なんとも奇妙な男二人組の旅人がいた。
一人は異人の血を引いた、主に西洋のものを売り歩く商人。もう一人は、その用心棒を名乗る日本人でも珍しいほどの黒髪と、黒曜のような瞳を持つ男。
二人にはそれぞれ、噂があった。
商人の方は、頭の回転が速く、とんでもない嘘つき。彼が口に出すことは全て嘘だと言っても過言ではないという。けれども、人を貶めるようなことはしない。ただただ、意味のないホラ話をして、客や立ち寄った村のものに広めて、最後に「嘘だよ」と笑って言うだけだ。不思議なことに、それで話を聞いたものはみんな笑顔になるとのこと。
用心棒の方は、いつでもどんな相手にもへらへらと何も考えなさそうな顔でほけらと呑気そうに笑って商人の隣にいる。けれども、商人の身に何かあればたちまち人が変わったかのように顔つきが変わり、鬼の如き強さを誇るという。
この二人、一見するとなんの共通点もなさそうに見えるが、それは違う。どちらも「人助け」というものがとても好きで、旅をしながら様々な人を助けていた。
人々は、そんな二人を敬意を込めて「化け物二人組」と呼んだのだった。
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