ねーちゃんは上の空

モリナガ チヨコ

第1話 聞けよねーちゃん

マジか…。

朝、俺が出てった時は、こんなに散らかってなかった。

土日で片付けたのに、どうして1日もたたずに、こんなにきったなくなるんだよ。

「おい姉ちゃん」

返事は無い。

まだ帰ってない。


くっそアネキは、とにかくだらしない。

家族で一緒に住んでる時は、気が付かなかった。母さんが、片付けてあげてたんだろうか?

洗濯も料理も、母さんがやってくれてたからな…。っつっても、それはオレも同じだし。

これは…、やっぱりあいつの問題だろう。


まずは、ソファにグッチャグチャに放り投げられた服を片付ける。姉ちゃんはハンガーから一度外した服を戻さない。

うわっと。湿ったタオルが混ざっていた、、

あいつ、頭洗って、髪の毛拭いて、そのままここに置いたな。ん? この落ちてる靴下は…

一度はいたやつに決まってる。あいつはまたこれを履くのだろうか。

オレはそれを持って洗濯機へ。

ん? まただ。なんで使った後にここに戻さないの? 瓶の蓋は空いたまま…。

うわっあいつ、オレのブラシ使ったんじゃね?? 朝と微妙に位置が違うのよ。

も〜、やめてほし〜。


ぅ。キッチン。なにこれ。

あいつ、朝からカップラーメン食ったの?

インスタントコーヒーと、カップラーメンの朝食って何? 意味わかんないんだけど。

コップ、何個使ってんだよもう!!


オレは自分の部屋からダイソンのコードレス掃除機と、コロコロを持ってリビングに戻る。


会社から帰ってまず、掃除って…。

家は安らげるところじゃないのかよ…。

「ぁー、疲れた」ってソファーに座るもんだろう。そのためのソファーだろう。

なんでうちのソファーにはいつも何かが置かれているんだろう。

アネキだな。

あいつのせいだ。


キッチンを片付ける気力はない。


先に着替えだ。

着替えよう。

スーツが汚れる。

あいつの脱ぎ散らかした服を片付けただけで、スーツにホコリが付く気がする。

ジャージに着替え、スーツをハンガーにかけて、ついでに軽くコロコロで、スーツを撫でた。


あらためて手を洗って。

ため息をつく。


なんだか倍疲れた。

仕事、通勤、家、

家が一番疲れる。

いっそ、この家を出よう。

よっし。スマホを手に取り、賃貸物件を物色。

「そうだよなー、家賃」

そうなのだ。

このマンションは、家賃がいらない。

それが最大のメリットだ。

だからオレはこの生活を受け入れているのだ。


オレの姉ちゃんっていう人は、超がつくほど怠け者。いや、これで美人だなんて言うなら、テレビドラマにでもなるんだろうけど、

見た目は特に特徴もないし、仕事は「わたし。失敗しないんで」なんて言う医者なんかならカッコイイけど、残念ながらここ何年もドラッグストアでバイトだ。


高校、大学と、そこそこのところに行ってたから、頭は悪くないはず。

でも、なんつーか、生き方がひどい。

感性がどくとく。

あいつ、はっきり言って、意味不明。


ガチャ。


ぅおっと。帰って来やがった。

「おかえり」

「あ、うん」

「ねーちゃん、 ただいま って言えよ」

「あ、うん」

「ただいま って!」

「あ、おかえり」


ぅわぁ、、あいつ、ぜんぜん人の話し聞いてねぇ。


「聞けよねーちゃん!!!!」


ねーちゃんは右手にバーキン下げたまま、ゆっくりこちらを振り返る。

「ん?」



「もういい。なんでもない」

こんなふうに、ねーちゃんは上の空で生きている。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る