第11話勇者様の葛藤

私の名前はワタル。

北条渡、ホウジョウワタル。人間、女。


両親が男の子が欲しかったらしく、男っぽいワタルと名付けられた。


その名前をからかわれて高校生になる頃には立派なインドアになっていた。

更に女子高に進学して、男っぽい名前。両親に望まれて短髪にしていたのもあり、学校では男役になっていた。


(男だったら悩まないのかな)

お気に入りの異世界ファンタジーの漫画を読みながら眠りについた。




気が付くと星空を漂っていた。


(明晰夢かな)

等と思っていると、星の輝きが集まり人の形を取る。

光の人形が自分の目の前に現れた。



「世界を救って欲しい」

人形が言った。


世界と言ってもこのリアルの世界ではなく異世界だと言う。



「異世界転生キタコレ!」

思わず叫んでいた。


その世界には凶悪なモンスターが跋扈していて人間を守る為の勇者として転生して欲しいと言う。


現実に希望を持ってなかった私はすぐに了承した。


「太陽の聖剣と膨大な魔力にスキル。強靭な生命力も授けましょう」

(能力キタコレ)

本当にこんなテンプレあるんだなぁと思いながら、次々と契約していく。



「では我が世界の希望とならん事を」

そう言って送り出された。




今度こそ目を覚ますと、魔法陣で召喚されていた。

レガリア王国と言う国が、他国からも魔法使いを集めて勇者召喚を代表して行ったそうだ。


そしてレガリア王国の王族貴族集まるなか、持っていた太陽の聖剣の力を解放。

これをもって勇者と認められた。


そして様々な特権を付けられてレガリア王国に所属する事になった。


「逞しい『男子』の勇者殿。モンスター絶滅の暁には我が娘との婚約も考えて下され」

国王カリギュラが言う。


(ん?男子?)

そこで初めて自分が男として召喚された事に気付く。


(そっかぁ。父さん母さん喜ぶなぁ)

等と考えていた。


「勇者殿には王家に伝わる武具も贈ろう。魔力のある者が纏えば能力が向上する代物よ」

国王が言う。


貴族達も出せるものを様々出してきた。それによりレガリア王国にいる限りは様々な事が許される。特権も与えられた。



「申し上げます!」

騎士が玉座の間に駆け込んできた。


「ヴァンパイアとおぼしきモンスターが国境の村に現れたと報告が!」


(チュートリアルキタコレ)

よく読んでいた漫画の展開のようで、自分が主人公なんだと改めて認識する。



「勇者殿、討伐隊に参加して下され」

国王が言う。


「分かりました。一捻りにしてやりましょう」

そう安請け合いした。



急いだが到着が夜になってしまった。

ヴァンパイアは夜に力を発揮するらしい。

これも漫画の知識と合っていた。


そして襲われて人の居なくなった村の教会にヴァンパイアが居た。

太陽の聖剣が輝く。


抜剣し光の結界を張る。この結界は勇者の能力を格段に上げる。だが基礎魔法なのだ。使いやすい。


ヴァンパイアは中々に手強かった。だが光の結界と聖剣、魔法の鎧に傷を付けれず、一気に首をハネた。

ヴァンパイアの体が消し炭になっていく。ハネた首だけは何処に飛んだか分からなかったが、これで討伐完了だ。


この戦闘で分かったが、勇者の肉体になった事で身体能力も強化されていて、剣術も達人並みになっていた。


(チート最高)

漫画の主人公の強さを苦労無く得られ、チュートリアルは無事に済んだのだった。







「そう。簡単に終わる筈だったのに」

ワタルは独り言を言う。


切っ掛けは第三王子に付いていっての初めての戦争だった。

第三王子はおべっかを使うが、見るからに野心家だった。

そして捕虜の携えた書面に目を通して笑い転げた。

そして副団長のロイに戦支度を早急に整える様に指示し、私にも従軍して欲しいと言ってきた。

王国に所属しているので、王族の頼みを断る権限も実は無く、従軍が決まった。


第三王子…カエサルと共に馬車に乗る。

総勢二千余りの城塞都市のほぼ全戦力投入の大軍団だった。


馬車の行軍は旅のように快適だった。

第三王子は馬車に道化師も招き、私の機嫌を取った。


食事は憂鬱だった。主食は水で練った小麦粉を石焼きにしただけの『ファイヤーケーキ』か乾パンに干し肉にワインが付くか、玉ねぎかキャベツのスープ。出汁も何も無い岩塩で味付けされただけなので、お世辞にも旨くはなかった。


三日の行軍でストレスがたまった。

元々インドアなのに馬車には王子が乗っている。一人ならだらけられるのに…



「勇者殿の光の結界があれば弱体化したモンスター等ひともみでしょう」

そんな事で時間が惜しいとの事で夜襲に決まった。


(いやいや、兵士を休ませようよ)

戦争をしたことの無い自分でも分かる。

だが肉さえ与えておけば士気は下がらないと思っているのか、小休止で追加の干し肉を支給して、戦争が始まった。


馬車での鬱憤を晴らすように、要請が有ってからは大暴れした。


高い身体能力でゴブリンライダーとやらを蹂躙する。


(ゴブリンなんて下級モンスターじゃん。楽勝)

だが最近読んだ漫画では残忍で人間の女子を犯して楽しむと言う事が描写されていた。


「女の敵がぁ!」

太陽の聖剣から光の槍を投影して複数を串刺しにしていく。


やっぱり弱い。

(これもチュートリアル)



だが



「挽き肉にしてやる!」


ビリビリビリビリ…


魔法の衝撃が体を襲う。

だが勇者になるにあたって弱体耐性を付与されていたので難を逃れる。


咆哮の方角を見る。

光の加護のお陰で夜だろうと関係なく見える。


最前線の騎馬隊が何者かに蹂躙されていた。


これはいけないと駆け付ける。


「やらせはしない!」

聖剣を袈裟切りに構え馬より早く突撃する。

相手も此方を認識したようだ。


騎馬隊を無視して駆けてくる。


(早い)

こいつはボスキャラだなと油断を消す。


モンスターと切り結ぶ。

声や体格からしてモンスターは女の様だった。

聖剣相手に拳で打ち合う。

初めて歯ごたえのあるモンスターに出会った。

光の槍を放つ。だがゴブリンの様には行かず躱される。


「光の結界を、重ね掛けで!」

これで弱体化する筈。


モンスターは転けた。そして痛がっている。


これがチャンスと聖剣を上段に構えゆっくりと近寄る。



そこで動きが有った。


大音声が戦場に響きわたり、敵本陣奥に巨大なドラゴンが現れた。


今までの人生で付いていなかった金玉が恐怖で初めて縮み上がった。



そのドラゴンが言葉を発して魔法を連発する。


(あれ、これって負けイベント?)

更には自身の光の結界迄闇に閉ざされた。


「モンスターが喋るなんて」

思った事を口にする。


「人間が喋るなんて」

転げたモンスターが体をひきつらせながら言った。


それからの会話は人間の戦い方が卑怯だとか弱い者虐めだとかそんな事。


「自分は正々堂々…」

自信が揺らぐ。

第三王子の戦い方には自分も納得していなかった。

帰された捕虜を壁に使って戦うなんてやり方…



そうこう思ってるうちにモンスター達が陽炎の様にかき消えた…



一拍置いて


「邪悪なモンスターは逃げた!勝利である!」

王子の勝利宣言がなされた。


だが強化された耳には


「いてぇ」

「俺の腕は何処だ」

「馬に引かれた…動けない」

「早く引き上げてくれ」

「終わったのか」

「飯を食わせてくれ…」


様々な悲痛な味方の声が聴こえた。


夜も関係ない目にもモンスターの死体や、囮にされた捕虜達の惨状が映った。



「これが戦争…」

私は放心していた。

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