異世界転生、好きな人?が出来たので
太刀山いめ
第1話第二の生
人生ってハッピーな時が一番危ないって知ってた?
上手く行ってるときは山の頂上。後は山を降るだけだ。頂上に居座ってばかりはいられない。
俺は今年21になる何処にでも居る人間、男。
学歴もさして高いわけでもないのだが人に好かれるのか自慢じゃないが告白は在学中良くされた。
だけど人間裏がある。家族と険悪だったのだ。外面だけは良い両親。一人息子の俺には余り期待していないのか待遇には不満があった。
別にゆとりだからじゃない。
両親にバイトで買ったお気に入りの服を勝手に捨てられたり、料理当番とやらが回ってきたら料理も人並みに作った。
だが両親は偏食家で気に入らないと箸もつけない。
しまいには暴力も振るわれた。
(よし、殺すか)
自分の身は自分で守る。
俺は川原に行ったりしてせっせと美味しい毒草を集めた。
特に良かったのが紫色の小さいトマトみたいなやつ。甘くて旨いが立派な毒草だ。野生のトマトの仲間は殆どが毒草だ。長生きしたいなら食わないこと。
それを買ったブルーベリーに混ぜてジャムにする。
我が家は朝はトースト派だったので簡単に市販のジャムに混ぜて食わせ続けた。
そしてめでたく両親は時間差で職場で死亡。
更に持病も有ったので殺人を疑われず。
「両親を一度に亡くすとは不幸な子」
と親戚からも同情された。
腹黒両親に外面をつけられていた俺は見事に悲劇の子供を演じきった。
更に運良く保険金が転がり込んできた。一生は無理だが暫くは遊んで暮らせる額が手に入った。
(一っちょ前に保険金掛けてたのか)
受取人が残った親族となっていたので俺に転がり込んできた訳だ。
それが大学生の時だ。
そこから親族に後ろ楯になって貰って在学も問題なかった。
目の上のたんこぶが落ちた俺は得意の外面を使って両親を亡くしたアンニュイな男を演じた。
それが良かったのか在学中同じゼミの女子から良く告白された。
だがその度に両親の死を理由に断った。
直接刺したりしたわけではないが、俺は人殺しだ。
更に毒親に育てられてきたので男女の仲を幸せとは感じられないのだ。
だから断り続けた。
女子にも打算は有ったろう。保険金が転がり込んできた事はバレていただろうし。
大して顔も良くない俺に粉を掛けるのは金目当てだろうと思っていた。
仲の良い女子も居たが、食事は奢らされるし、家に泊めた時にもブランドものの話や暗に肉体関係を匂わせて来たりと散々だった。
(腐ってやがる。お前は彼女じゃない)
人間関係も疎遠にしようと思った。
明くる日、在学している大学の男性講師が俺に変な話を振ってきた。
「君。随分疲れてるね。ここでリフレッシュしたらどうかな?」
そう言って一枚のパンフレットをくれた。
『流行りの異世界に興味有りませんか?』
(危ない商売か?)
二十歳を越えた辺りからマルチ商法や宗教の勧誘が増える。その類いかと思った。
だが、学校の講師がそれに荷担しているとは聞いたことがなかったから少し気になった。
『随時体験募集中。時間9~20時』
時間には余裕がある。
彼女面の女子に付きまとわれて疲れていたのは事実だったので、異世界イコールマッサージで天国に程度に感じて、早速行ってみようと思った。
場所は大学から電車で二駅位だった。
『駅徒歩五分』
スマホで店名を検索して向かう。
『クラブ異世界…ルート』
スマホに店舗情報が出る。口コミは無い。
人気が無いのか、削除されているのか分からないが、講師が勧めて来た位だから大丈夫だろうと思い直す。
色々考えながら進んでいると『クラブ異世界』にあっさりついた。
『丸々ビル地下二階』とある。
ビルにエレベーターが有ったので地下二階を押す。
一気に地下に到着。テナントはクラブ異世界しか入ってないようで迷わず扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
店員らしい制服を着た四十代位の男性が迎えてくれる。
「パンフレット見て来たんですけど」
「そうですかそうですかようこそ。初回は体験ですので無料ですよ!」
パンフレットの話からテンション高く男が言う。
目の下にくまの有るオールバックの顔をしきりに上下させる。
「ささ、どうぞ奥へ」
そういってカーテンで仕切られた店の奥に案内される。
そして案内されるままに奥に行く。
普通なら怪しさ満点だろう。
だが俺はそこそこ小金も持っていたし、紹介されたと言うのもあって比較的落ち着いていた。外面はアンニュイなまま。
「どうぞソファにお掛けください」
席を勧められる。
特に断る理由も無いのでソファに座る。ふかふかで上質な様だった。
「ちょっと失礼しますね」
男が俺の後ろに回る。
そしていきなり素早く首筋に噛みついてきた!
「なっ!」
体が痺れる。抵抗できない。今の一瞬で体の血液を活動出来ない位抜かれた様だ……
男が首筋から口を離す。
「なるほど…選ばれるわけだ。貴方からは悪の味がしますね」
うんうんと男は頷く。
「合格です。流石は魔将軍…見る目が有りますね」
訳の分からない事を言っている。
「では当店のサービス異世界に送り届けましょう」
男は手品の様に何もない空間から金色の液体の注がれたグラスを手に出した。
そしてそれを痺れて動けない俺の口に強引に注ぎ込む。
「どうですか?蕩ける味でしょう?人間を辞めたくなる位に」
液体を注がれてから体がゼリーにでもなったかの様にふにゃふにゃと心許ない。
「最近は光のサイドがしきりに人間を異世界転生させてましてね。闇のサイドの我々も黙っていられなくなったのです」
くらくらする頭に男の声が響く。
「お、流石悪の素質がある。もう変化していますね。これはこれは」
男は旨そうに喉を鳴らす。余程俺の血が旨かったのか目の下のくまも薄らいでいた。
「紹介が遅れました。私ヴァンパイアロードのキロクと申します。私も元人間です」
キロクと名乗った男は嘘か本当か人間では無いらしい。
「さあ、これから楽しい殺伐とした異世界に参りましょう!」
キロクは未だふにゃふにゃしている俺を抱える。
そして店の更に奥にある古めかしい扉に向かう。
「さあ出発です!」
キロクは扉を開けた。
人間山を登ったら後は降るだけだ。
俺はこれからどう無様に転げ落ちるのだろうか…
そこで俺の意識は途切れた。
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