割れたスノウドーム
仇 媒鳥
第1話
ある日、スノウドームが割れたんだ。
空が……、そう、音を立てて爽快に割れた……。
欠片は空に吸い込まれていったけれど。
あれは……、雪、薄く積もった雪。灰色の空とアスファルト。自転車、そしてスノウドーム……。
そうだ、僕は焦っていた。吹き込んでくる雪なんて、気にも留めていなかった。ただ自転車を走らせていた……。
ーーこれは絶対に壊してはいけないのーー
スノウドームを抱えて何処かへ向かっていた……。
刹那、轟音がして……、耳を劈く轟音だった。
灰色の空は一変して、そう、……黒色に変わった。
漆黒の物体を、立体的に認識できないように……空は……。
それに気を取られた僕は……よく覚えていないが、何かを切った……。
すると急に世界が回転したんだ。黒色の空が、下にあるのか何処にあるのか分からなくなった……。
黒色の空……?
空ってなんだ。空は何処にある……。
灰か黒か。色の違いしかないまま。
そう、重力も無くなったんだ。深い沼に沈んだような気がした。
本能的に這い出ようとしても、どんどん嵌って落ちてゆく……。手を上から下に下げようとしても、元の位置から手を上に上げる動きで下がってしまう……諦めるしかなかった。
感覚が無い。
自と他の境界も曖昧で……、狭間を漂う。ゆっくりと身体を委ねると……、泡だ。そう、泡が見えたんだ。泡立った……世界が。
急に意識が覚醒してゆく。糸の毛先が纏まるように、……世界が収束したんだ。
僕は数メートル前方に落ちている物を拾い上げた。
割れたスノウドーム。無惨としか言いようが無い。
流れた液体の中には小人が一人……。
指先で摘み、片目でよく見た。
小人は、はっきりとした意思を持った眼光で見返してきた……。
ーーお前は、お前はーー
下せ、早く。
僕は違う。
……放り投げ出された。
でもいずれ此処も……。
ほら、言った通り。また始まった。
世界が回転する……。
僕は放り投げ出された……。
周りの水は冷たかったよ。
壊しちゃだめだと言われたのに……。
加速して昇る……。上へ、そう、……高い。
……目が合った。それは……とても巨大な目玉だった。
さっきまで浸かっていた水は、遥か下方に広がっていた……あの、割れたスノウドームとともにね。
割れたスノウドーム 仇 媒鳥 @Camli-cam
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