第15話 血塗れ皇帝の妹に転生したようです。
選定を終えた疲れから(イケメン観察の疲れともいう)、昼食前に少しだけ寝るつもりが、そのまま爆睡して起きたのは夕食前。
昼食は身体の休息を重視したアンナが起こさずにいたが、さすがに夕食は摂って貰おうと起こされたクラウディア。
ぐっすりと熟睡してる最中に起こされたのもあり、食欲も湧かないだろうと少なめに用意された夕食を食べた後、お風呂に連れて行かれる。
少なめに用意されたのに意外にもお腹いっぱいのクラウディアは「ちょっと休憩したいかも…(お風呂じゃなくて寝たい)」と零したが、アンナには入浴して温まったらまた休憩出来ます!と、風呂場に連行された。
寝る前にお風呂に先に入らなきゃいけない理由を訊く。
正直、寝起きにお風呂入ればいいんじゃないのぉ? と思ったりするのだ。
たまに寝る前にも起きた後にも入らされる時があり、そういう時は肌の手入れという名の元に徹底的に磨きあげられ、一体どこへ出荷されるのかとぐったりさせられる。
私の質問に、キリッとした顔つきで「俗世に長い時間触れたからです。」というアンナ。
俗世に触れたからという、よく分からない理由でお風呂にはすぐにでも入らないといけないようだ。
(アンナって変わってるよね…)
俗世…アンナは私を無菌室に閉じ込めたいのではないか。
そんなものがこの世界には無いだろうから、あくまでそんな気がする程にアンナは神経質だと思ってるだけだけれど。
(まぁ、アンナがしたいなら何でもいいや。アンナ大好きだし)
クラウディアはアンナが言うことに間違いはないと絶対の信頼を寄せている。
――洗脳済みともいうが。
濃厚な薔薇の花の香油を使い、幼児の体のどこの血流が滞っているのだといつも疑問に思いながらされるリンパマッサージで、いつもよりも徹底的に手入れをされて、体はポカポカしたが、ぐったりした。
クラウディアの事に関しては特に完璧主義者のアンナが施す様々な手入れは勿論の事、ほんの乳児の頃から保湿管理が徹底されている為、クラウディアは幼児独特の珠の肌を更に磨きあげられていた。
それはそれは美しい内側から光り輝く様な素晴らしい肌なのである。
アンナが己の命より大切にしているクラウディア。
それ故、大国の姫としてどこに出しても恥ずかしくない、世界一の美姫にする為に余念がないのだ。
日頃からその思いがひしひしと伝わる為、クラウディアはいつも黙って従っている。
その結果、手入れされる時は疲労回復効果どころか、くったくたなのである。
夕食まで爆睡していたけど、きっとまた爆睡出来るだろう。間違いない。
――――と、思っていたけど寝れないかー。
目を閉じ瞑想するつもりで思考を無に………
――――意外に瞑想っていうのも難しいのね。
目を閉じれば全然余裕と思っていたけど、奥深いんだな瞑想も。
煩悩が多い自分には無理だと思い始めた頃。
誰もいない筈の室内に、自分以外の存在がいるという感覚がする。
これで三度目…
クラウディアが爆睡していただけで、一週間の療養の際にも一度来ていたのだが。
意識が無かった為にカウントされていない。
――――死神が定期的に来る幼児ってどうなの……
今日も目を瞑り静かにしていれば帰るか。と、寝息の様な呼吸を心がける。
いつもならちょっと長く観察するだけで(一度目は見つめ合った?が)何もせず去っていってたし。
私が勝手に付けたあだ名は物騒だけど、幼児を眺めるっていうだけで、
怯える必要もない。
アンナや他の者がそんなことをクラウディアが考えていたとバレれば、肝を冷やしたであろう。
酷い危機管理能力である。
そんな適当な考えだったから罰があたったクラウディア。
キシっ……とベッドが鳴り、ぎょっとした。
今まで2度の訪れで死神が私の寝顔を見下ろす以外の行動を起こした事はなかった。
死神と呼んではいるけど、本当に死神だとは思ってはいなかった。
物騒な言葉を吐いて眠らせ、それがたまたまなのか長い眠りになった為に何となく付けた名だ。
――――真実は暗殺者か深夜に幼女の部屋に訪れる変態か。
そんなとこだろうと思っている。
今までは、少年の様な背格好から、暗殺者かも?どうなの?と思っていたけど…
私のベッドに乗り上げる所から後者な気もしてきた。
まだ少年だというのに、既に幼児に対してそんな嗜好を持っているのか。
勝手な想像だけど、変態だと認識すると空気すら一緒に吸いたくない。
苦しむ姿を眺めたいが為のぶっ飛んだ頭の殺人狂で、幼児を絞殺する予定の暗殺者だとしたら。
背格好たけで判断して少年だと思っていて安心していたけど、ヤバイ奴なのかもしれない……
――――やっばいの来たよ!悪戯されるのも嫌だけど、首絞められるのも嫌だ!
大声を出して騒いで助けを呼びながら扉まで全力ダッシュだ!
キシっ…シーツに布地が擦れる音と共に距離が近づいている。
目をカッ!!!と開いた私を見て、ベッドに乗り上げていた影がピタッと動かなくなった。
――――よし!動かなくなったわね!今よ!
仰向けで寝ていた身体をくるりくるりと反転させ、寝台の端っこに寄り、大きく息を吸った。
「たああああすうぅうけぇぇ」
「ハァ!?」
私を捕まえようと伸ばされた腕を感じ、そのままベッド下に転がり落ちる。
扉に走ろうとした私をガッ!!と掴む強い力。
「馬鹿!!何て声出してるんだ!!」
少年特有の少し高い声で耳元で怒鳴られる。
――――耳キーンってしたよ…キーンっ
「離せぇぇぇ!!!」
死にものぐるいで暴れた。
暗殺者?の少年は両腕で私を拘束する様に強く抱き込み、また怒鳴る。
「暴れるな、怪我をさせたくない!不審者ではない!落ち着け!!」
「幼女の部屋に夜に訪問するのは、暗殺者か変態と相場は決まってます!」
「ハァ!?おい、暗殺者はまだしも変態は取り消せ!」
少年は私を全力で抑え込みながら、また耳元で怒鳴る。
耳がどうにかなったらどうしてくれる!とクラウディアは状況も忘れて怒り心頭になった。
「耳がどうにかなったら、許さないから!」
いや、そういう問題じゃないだろう…と少年は思ったが、
腕の中で狂った猫の様にぎゃあぎゃあ叫ぶ生き物を見て途方に暮れる。
顔だけは引っ掻かれまいと拘束するが、どこにそんな元気があるんだと呆れた。
「姫様…………っ!!!!!」
聞き覚えのある声が室内に響き、パッと目に眩しい照明がつく。
少年は、天を仰いで大きな溜息をついた。
「アンナ……!!変態が…変態が……!!」
変態が!を涙目で連呼する幼女。
その幼女を不本意ながら拘束する少年。
唖然とする姫様付き女官の後ろには、護衛騎士。
軽く視認しただけでも最悪の状況。
自分がこっそり侵入したのが1番悪いと分かっていても、これからの起こるであろう質問攻めとそれの説明にウンザリする。
まさにカオスであった。
▼△▼
「……もう一度聞いてもいい?変態だと思ってたけど、私のお兄様なの?」
アンナが残念な子を見るような目で、先程まで私を拘束していた少年を見る。
「ヴァイデンライヒ帝国、次期皇帝陛下の、シュヴァリエ・ヴァイデンライヒ様、ですね。
ええ、間違いなく、姫様の兄君ですよ。」
わざと区切りながら話すアンナの目が怖い。
――――この男の子が私の兄になる人……
クラウディアがジッと見つめると、クラウディアを見つめていたシュヴァリエと目がばっちり合う。
そして…シュヴァリエが物凄く気まずそうに目を逸らす。
これを何度も繰り返していた。
白金のサラサラした髪。
朝焼けの様にオレンジ色からピンク色の中間色オーロラ・レッドに輝く双眸。
パパラチアサファイアと言われる瞳だ。
別名サファイアの王と呼ばれる稀少な宝石。
その稀少な宝石の瞳を持つ者だけが、このヴァイデンライヒ帝国の皇帝となる為の証。
以前、たくさん質問した時にアンナに教えて貰った知識だ。
その瞳を見つめ、私は……思い出した。
『too much love ~溺愛されて~』
というド直球なタイトルの乙女ゲーム。
それは、タイトル通りに溺愛されたい女子の思いに応えたゲームだった。
友達からそのゲームソフトを借りた私は、激甘の台詞の数々に声優の美声じゃなきゃ電源落としてるな…
とプレイしながら何度も思ったっけ…。
プレイしたからにはと、コンプリートするくらいに遊んだ。
でも、その乙女ゲームの舞台は、帝国では無かった筈。
帝国の隣国のソニエール王国だった。
目の前で私をチラチラ見ては目を逸らす兄は、
高難度のシークレットキャラ“隣国の皇帝シュヴァリエ”
強大な大国であり、若くして皇帝に即位した男の子。
その子が成長して、隣国にお忍びで留学するのだ。
――――皇帝の仕事はどうした!流石ゲーム、ご都合主義満載だね!と画面に突っ込みながらやってたわ。
残虐で冷酷無慈悲から呼ばれるようになった二つ名“血塗れの皇帝”と“戦場の悪魔”とも呼ばれてた筈。
白金の髪にヴァイデンライヒ帝国の後継として、特別な意味を持つパパラチアサファイアの瞳。
名前もシュヴァリエだし………
私、血塗れの皇帝の妹のモブに転生しちゃった………!!
どんどん思い出す前世でプレイしていた乙女ゲーム情報。
――――聡明でお優しいお兄様の評判はどうしたーーーー!
血塗れって…
急激に熱が上がる様に朦朧とする。
クラッと来た私は、目の前のテーブルにドンっ!!と大きな音を立て突っ伏し、気を失ってしまった。
私が意識を失う直前――――
グラグラと頭を揺らした私を見て驚いた様に目を見開いた兄の瞳は、
間違いなくパパラチアサファイアの瞳だった。
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