第12話 模擬戦が始まるよ!

 金網越しにキラキラオーラが眩しい近衛騎士団の騎士達を眺める。


 1時間程続いた素振りを止め、今度は模擬戦の様だ。


 1時間も休む事なく素振りを続けて、この後の模擬戦で腕に力が入るの!? と素直に不思議に思い、カルヴィンさんに質問した。



「きしさんたちは、ずっとうでをうごかしていたのにいたくないのですか?」


 幼さを強調する為にわざと幼稚な話し方をする、私。

 正直、話ずらい事このうえないが…

 不安定な立場だというのに妙に勘ぐられて注意が向くのは怖いし、このまま幼くてちょっと言葉に不自由そうな幼女を演じ続けるつもり…多分。


 んー、よしよし。

 これでカルヴィンさんにも幼さをアピール出来た。

 話すのも拙い幼い皇女、庇護欲を掻き立てられても、どうこうしようとは思わないだろう。


 カルヴィンさんとアンナと三人娘の表情が、非常に微妙なものを見ているような、複雑な表情になった。


 ――――ナゼ?


 クラウディアが急にまた頭の弱い子の振りをした事に対する謎について、思う事がある顔なのだが、クラウディア本人は至ってバレてないと思いこんでいる。


 ????を並べた表情のクラウディアに、


「姫様は……急に独特な話し方をなされるのですね。

 不肖カルヴィン、姫様にそのような顔をさせてしまい、大変申し訳ないです。

 聡明さと幼さ、その2つを合わせもつ方だと、しっかりと認識致しました。

 以後、このようなお顔を姫様にさせる事のないよう精進致します。」


 と、胸に留める事をしない実直なカルヴィンが謝罪する。


 周りは「えっ、そこ突っ込むの!?」である。


 ますます意味がわからないといった顔をするクラウディア。


「ああ、先程の質問ですが…騎士達は全く疲れを感じておりません。

 あの程度の鍛錬で疲れる様では、まず実戦では使い物になりませんので。

 実戦に休憩などは無いのです、常に動き続けその間も思考はクリアにしつつ相手の動きの次の次を読み動く、それが騎士ですから。

 その為の毎日6時間の鍛錬し、衰える事のないよう研鑽していますので、

 姫様がご心配なさる事はないのですよ。」


 カルヴィンの熱い説明をふむふむと頷きながら真面目に耳を傾ける。


 ――――それもそうか。実戦ではずっと打ち合う事もあるし、斬りつけ続ける事もあるもんね。

 その中でただ打ち合うだけではダメってこと。

 脳が判断する動きに身体がすぐに反応するように鍛錬してるんだ。

 そして、そんな体力も反応速度もない騎士は敗ける。

 命を扱う職業は、本当に厳しい。

“腕が疲れないんですかぁ?”なんて愚かな質問だった…

 が、愚かなところが幼さを感じるだろうし、気にしないでおこう。




 張り巡らされた金網越しではあるけれど、クラウディアの目の前では模造剣で打ち合う逞しい騎士の姿。

 躍動するしなやかな筋肉、剣と剣が触れ合うリズミカルな打撃音。

 剣と剣が触れ合って高い音を立てる。

 距離を取り、また近づき。背後に周って斬りかかるのをすぐに反転して剣で受け流す。


 凄いなー、カッコイイなー、絶対ダメだと言われると分かってるけど私もやってみたい。剣とか習うのダメだよね? 皇女だもんね?

 残念だなー、転生するなら皇子がよかった。

 あ、皇子だったらお兄様に殺されてたかもしれないから、皇女で良かったのか。

 うんうん、命があるだけラッキーと思う事にして剣を習うの強請るのは止めておこう。


 打ち合う両人も、美貌の青年二人。

 1人は艷やかな胡桃色の髪を後ろでひとつに束ねた青年、もう1人は短めで癖のあるサックスブルーの髪を無造作に流しただけ。

 ――――どっちもいいな。



 チラリと3人娘を見る。



 3人とも模擬戦を見ていたけど、目に熱っぽいのは無し。


 素敵だと思うんだけど…もっとムキムキがいいのかな。

 ゴリマッチョ的な?


 3人娘よ。私は細マッチョの方が好きです…。


 護衛は目の保養出来る人が1人居れば我慢出来るかなぁ…後の二人がゴリマッチョでも。


 そういえば、そもそも何人選ぶんだろう?


 私、3人の予定だったけど…何にも人数の事アンナには言われてなかった。


 もし1人しか無理なら、私好みの細マッチョにさせて貰う。


 異論は受け付けるけど、認めない!



 神妙な顔になったクラウディアにアンナが尋ねる。


「姫様、誰か気になる方はおりましたか?」


「ねぇ、アンナ。何人までならだいじょうぶなのー?」


 丁度いいタイミングでアンナが話しかけてきたので、ついでに気になったことを聞く。



 ワッ!と歓声が響き、青に少しのグレーを混ぜたような落ち着いたサックスブルーの髪色の青年? 少年…? が勝利したようだった。


 汗に濡れた頬を肩側にあるシャツでぐいっと拭う仕草が色っぽい。

 持ち上がったシャツにつられて、鍛えられた腹筋がチラリと覗いた。


 ――――ごちそうさまです。


 胡桃色の髪色の敗けた方も悔しそうだがいい笑顔である。

 拳と拳で打ちつけ合って気安い仕草で肩を組んだ。

 胡桃色の少年?も流れ落ちた汗を襟元を引っ張って拭う。

 またまた美しい腹筋が見えてクラウディアの小さな心臓はドキドキした。

 チラリではなく堂々と晒された美しい腹筋……。

 胡桃色の髪が何筋か頬に触れるのを鬱陶しそうに払い、戦いで乱れてしまった髪を解くようだ。

 その仕草の色気もだけど、戦いの後って凄い運動量だろうから血行が良くなったことで頬も蒸気していて色っぽいよね……。


 ――――ご、ごちそうさまです……。



 勝利に喜び片手を空に向かって突き上げた勝者。

 あどけない笑顔は太陽のように明るく、キラキラと輝いていた。

 キュン!と鳴る胸を小さな手で押さえ、視線はサックスブルーの彼からぴたりと離れない。


 アンナはクラウディアの目線を追い、あの方ね…と候補の1人として頭にインプットする。


「護衛人数は多すぎても少なすぎてもいけませんが、交代制で6名程を取り敢えず予定してますよ。」



 アンナの声でサックスブルーの騎士様にお姫様抱っこをされる妄想から現実へとハッと戻る。脳内お花畑から引き戻されたクラウディアは、


「わかりました。その人数以内で選んでおきます。」


 ふにゃふにゃした顔を、皇女とはこんな顔とキリッと引き締めて答えた。


 アンナは、クラウディアが釘付けになっていた騎士は必ず入れてあげよう。

 実力が足りないならば、こちらが鍛錬させ力の底上げを図ればいいだけの事だと思うのだった。


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