【旧版】サクラメントと魔法使い

井ノ下功

プロローグ/2020.02.17.

 今朝のLondon Timesの一面は『名優エイブラハム・ウルフ殺害の犯人、十二年の時を経てようやく一人逮捕』というものだった。ネット上もその話題で持ち切り。テレビでも同じ話をしていた。


「へぇ……そっか、捕まったんだ」


 僕は何とも言えない気分になって、コーヒーカップから上がる湯気を見つめた。


 湯気の向こうに鮮やかな色彩が蘇る。


 このコーヒーよりも深遠な瞳。いつも羽織っていた真っ赤なコート。指先から散らばる金色の光。あのブラックホールの瞳は人より多くを捉えて、あの鎧のようなコートはあらゆる人の目を惹き、あの光はどんなセンサーでも観測できないものだった。


「元気かな、アイツ」


 それは僕がこの大学で、学生をしていた頃の思い出。



 二〇一〇年の冬、僕は魔法使いと友達になった。



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