第6話選択肢C

今回の「ラブレター事件」が相当堪えた私たちは、しばらく軽い気持ちでホラーを観たり肝試しをしなくなった。


廃病院へ行っちゃだめ。

廃病院で鳴った電話に出ちゃだめ。

更に、その電話にかけ直しちゃだめ。

更に更に、電話の近くの万年筆なんて持ってきちゃだめ。




後日、私は知り合いのストーカー相談を受けた。

不気味な手紙が来るんだって。どこかで聞いた話だと思って手紙を開いたら、彼に送られて来たラブレターとほぼ同じ内容。


お嬢さんや。どこかの病院に肝試しに行きはしませんでしたかい?


チベットスナギツネは知り合いである彼女に尋ねた。


はぁ?行ったけど…?

そこで万年筆とか、拾ってきませんでしたかい?

拾ったかもだけど、それが何?


私は自分たちに起こった「ラブレター事件」を彼女に話した。

話したけど。

「はぁ?そんなことあるわけないじゃん。

相談して損した」


彼女は私を信じなかった。


多分、万年筆はあるべき所に戻らなかったんだろうね。

それから1週間もしない内に、彼女は行方不明になった。

そして、発見された。


見るも無惨なバラバラな形で。


鼻の形が可愛かった彼女。

鼻がなかった。

長い髪が綺麗で自慢だった。

バサバサに切られ、ショートになっていた。

足がすらりと伸びていた。

片足なかった。

彼氏に指輪を貰ったと幸せそうに話していた。

指ごと指輪はなくなった。

ヘビースモーカーであった彼女。

肺がズタズタに切り裂かれていた。

妊娠したと最近報告をされた。

…赤ちゃん…


私はあの気持ち悪い「ラブレター」に込められた意味に気づいた。

万年筆を返して欲しい。結局最後はそうなのかもしれない。

でも、私がずっと感じていた得体の知れない気持ち悪さ。


この「ラブレター」を送った医師の「ラブ」は、「体の部位」に対して。

心中事件の医師は、外科医だった。

知り合いの彼女は、手紙で指摘された部分を持っていかれ、気にくわない部分は潰された。


「あなたは素敵だ」の言葉の裏には、「あなたの身体は物体として素敵だ」という闇が潜んでいた。


可哀想に、こんなことになるなんて。

彼女の葬式に参列して私は涙を流す。


「私のこともっと信じてくれてたら」

こんなことにはならなかったのかもしれない。

「ダメよ。あの子は貴女を信頼してなかったもの」

アタシみたいに手を伸ばすことも、繋ぐこともしなかったわ。


私の隣には、彼が手を握って一緒に立ってくれている。


貴方を守れてよかった。

貴女を信じてよかった。

貴方が隣にいてくれてよかった。

貴女がアタシを見てくれてよかった。


あなたがあなたでいてくれてよかった。

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