第37話 sideシン 10
「それもだけど、もっと右の方」
「え? ……あっ!」
ミゲルさんが指さした先にいたのは蜘蛛の巣に絡まったかのように、鎖に捕らえられたコニーだ。
妖霊神の左目の上、だろうか?
速攻で見つかるし、迂闊な攻撃をすればコニーにも害が及ぶ。
なんで厄介なんだ。
「妖霊神は僕たちがコニッシュを助けにきたことに、もう気がついているだろう。その上でああして見せつけている。シンたちが招き人だと気がついていて、わざとだな」
「そんな……!? どうやってコニーだけ取り戻せばいいんでしょうか……!」
「…………。正直に言って術がない。あの鎖に触れるとたちまち妖魔にされるだろう。君達招き人が触れれば、即座に妖霊神の口の中に運ばれる。コニッシュはまさしく『餌』だな」
「っ」
そんな……なす術がないというのか。
『ヒカリ』の方を見てもブンブン顔を左右に振られるし……本当に——。
「なにも、できないのか?」
「僕の魔法では届かないし、ここは妖霊神のフィールド。四大元素の聖霊神は弱体化している」
「そ、そうですよー。どうしょもないです。帰りましょう」
「…………」
思わず『ヒカリ』を睨みつけてしまう。
少なくとも姉の物語の主人公『ヒカリ』はそんなこと言わない。
「でもここまできて尻尾を巻いて逃げるのは癪だよね。ヒカリ様、光の聖霊神の力は借りられないのですか?」
「え、えぇっとぉ……偶然、たまたま遭遇した、というか……」
「どうやって呼び出すんですか」
「え?」
「教えてください。俺が試します」
ここで諦めてなるものか、と思う。
だって、コニーは……君は、きっと色々なものを諦めてきたんだろう?
生きることさえ諦めようとしていた。
「な、なんで? あなた関係ないじゃない」
「は?」
「だって、登場人物でもないのに」
この人マジでなに言ってるんだろう。
俺はかなり冷めた目で見てしまっただろうな。
「なんであの“悪役霊嬢”のためにそこまでやろうとするの」
コニーって悪役令嬢なの?
いや、お化けみたいって言われてたし、コミカライズのルビが『悪役霊嬢』だった気がする。
空気みたいなのに、主人公の邪魔をするっていう。
ひどい話だな。
「そんなの……、……君はわからないよ」
「っ!」
コニーは笑うと可愛いんだ。
正直、かなり可愛い。
可愛すぎてびっくりして変な声出たこともある。
できることなら俺は——コニーに普通の女の子として生きてほしい。
『それがあなたのこたえですか』
「!」
『では、我らは君の願いに答えましょう。どうか私の神子を助けてください』
「えっ」
白と黒の小さな光が落ちてくる。
それが急速に光を強め、辺りを瞬く間に花畑に変えてしまった。
俺の眼前には『ヒカリ』が召喚した四大元素の聖霊神。
彼らに囲まれるように、一本の剣が刺さっていた。
なんだこれ、まるでアーサー王伝説の——……。
『これを使えるのは一度だけ』
『それでもつかいますか?』
「…………妖霊神を、倒せるんですか?」
『『はい』』
二つの声が重なる。
そして、なんとなく『招き人』が招かれる理由を理解した。
多分、これを使えば俺は…………。
「……はい。わかりました。俺を選んでくれて、ありがとうございます!」
剣を引き抜く。
四大元素の聖霊神の力。
そして、光と闇の聖霊神の力。
六体の聖霊神の力がすべて込められる。
それは、かつてこの世界を産み出した創世神——聖霊神王に極めて近い——。
「コニー、聴こえる? 君を助けたら、俺は元の世界に帰るね。……帰って、君が幸せになれるように働きかけてみる」
剣の力が高まっていくのを感じる。
ちゃんと聞こえてるかな。
聞こえてるといいな。
元の世界に戻ったら、俺は、姉さんにコニッシュ・スウが幸せになる未来にしてもらえないか、頼んでみる。
難しいかな?
でも、難しくても諦めたくない。
俺は……。
「俺、コニーの笑った顔が好きだよ。すごく可愛くて、ずっと見ていたかった。コニー、俺に……たくさん笑いかけてくれて、ありがとう」
両手で握った剣を振り上げる。
神々の力に、俺が
「幸せになって」
もう会えないけど。
俺は、君が………………。
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