第32話 sideシン 5


 事情を話すと、案の定ものすごく嫌そうな顔をされた。

 まあ、ですよね。

 俺のせいじゃないけど、申し訳ない。

 そしてすぐに兵士を手配してくれる。


「百朝で王都の民が特に引きこもりがちなこの時季に……」

「!」


 なるほど、そういえばこの国は闇の聖霊神の加護で覆われていて、百朝という日の昇る時季以外はずっと夜なんだっけ。

 そういえば騎士団の人も「百朝の時季が過ぎれば人が増える」って言ってたな。

 冬眠ならぬ百朝休眠モードになる魔族がいるから、って。


「…………っ。……あの、もしかして百朝の時季って闇の聖霊神の力が弱くなるとか、そういうのじゃないですよね?」

「っ!? なんでそれを……」

「!」


 やっぱりそうなのか!

 だから『ヒカリ』がこの国に……!

 待て、それじゃあもしかして……?


「……っ! ……み、ミゲルさんに会いに行ってもいいですか!」

「え、は、はい。執務室にいらっしゃると……」

「ありがとう、プリンさん!」


 姉の書いた物語と、酷似した世界。

 でも俺はここがその物語の中で、物語の通りに物事が進んでいるのだとしても、姉の書いた通りの結末にはならないと思っている。

 別に『アンドウヒカリ』という本来の『主人公』の名を騙る偽者が『主人公』をやってるから、とかではなく。

 俺というイレギュラーがいるからとかでもなく。

 ただ、この世界にはこの世界の人たちの意思や感情がちゃんとあるから。

『ヒカリ』はそれがわかってない。

 あの人たちは、ただの『登場人物』などではないのだ。

 コニーの妹が姉を案じている姿を見て確信した。

 一番側にいる割りに、『親友』の気持ちもわからないなんてちょっとどうかしてるよね、あの人。


「ミゲルさん! 大事なお話があります!」

「お、どうしたの?」


 とりあえず執務室で仕事中のミゲルさんに、彼女たちのことを話す。

 さすがに訪問が急すぎて、陛下の予定を調整するのは無理だと言われた。

 まあ、それはそうだよね。

 国王陛下に会うってのは、予約一ヶ月待ちって感じだもん。

 俺はミゲルさんに「会う?」って聞かれて「いいえ」って言ってる。

 コニーがまだ、この国でどうしたいのかを決めかねていたからだ。

 でも、つい先日この国でやっていきたい、と言ってたし……ミゲルさんとしても、陛下に俺とコニーを会わせたいみたいだし。


「とりあえずその人たちは一等の宿に泊まって待っててもらおう。今から予定の調整は厳しい。というか、曲がりなりにも王族が王族に会いにくるのに使者もない、護衛もないとはどういうことなんだろうね」

「……多分、その“使者”もどきの女の子——ヒカリさんっていう人が俺と同じ『招き人』だから、危害を加えられることはないと思ってるんじゃないんでしょうか」

「! ……へえ……例のコニッシュを国から追い出すきっかけになった子、だよね? 招き人だったのか。なるほど……それなら確かに聖霊神たちは力を貸すだろうな」


 なんか解せない。

 俺は確かに魔力量がこの国の常人以上。

 ミゲルさんと同等ぐらいあり、それをすべて身体強化に回すと魔人族と大差ない動きができる。

 剣の扱いも、まだミゲルさんや騎士隊長には敵わないけど、覚えた。

 でも聖霊神召喚、俺は覚えてない。

 城の鑑定士さんに見てもらったけど「ないですね」と一蹴。

 解せぬ。

 なんでだ、同じ招き人なのに。

 男だから? 俺が男だからなのか?男女差別だ、エコ贔屓だ……。

 俺は妖魔や妖霊神を倒したい。

 ここが姉の書いた物語の中なら尚更、奴らを倒してコニーを守ってあげたい。

 姉の書いた筋書き通りに、とか、なんかムカつくし。


「上手く転げ回してシンの目的に協力してもらおうか」

「…………。はい!」


 ミゲルさん、本当に悪い大人だなぁ。

 でも頼りになる!


「ではちょっとおめかしして行こう。女を誑かす時は形から入らないとね」

「じゃあ俺、あの人たちを宿に連れて行ってきます」

「あ、それもいいけど、まずはコニッシュに彼女たちが来ていることを伝えてきてくれないか? 多分会いたくはないだろう。鉢合わせしたら嫌な思いをするんじゃないか?」

「あ……そ、そうか」


 俺は明後日、魔物の討伐に行く。

 コニーにはそれを伝えているし、なにか護符を作ってくれてたから、もし城の前に見送りに来てくれたりとかしたらうっかり遭遇するかもしれないんだ。

 見送り……見送りとか、きてくれるかな?

 きてくれたら俺すごくはしゃぎそう。

 だってコニーって普通に可愛いじゃん?

 俺、ステータスに[状態異常耐性・高]っていうのがあるから、マジで魅了は通用しない。

 それでも彼女のことを「可愛い」「優しくていい子」って思う。

 っていうか、実際すごく可愛くていい子じゃん?

 人の気持ちを、とても深く考えてくれる子。

 だからこそ、『ヒカリ』との対比が激しい。


「俺、ちょっとコニーに声かけてきます」

「必要ならば城の東の方の離れに移るといい、と伝えてくれ。客人ならばある程度行動をこちらで制限できる。勝手気ままに出歩くようなら追い出すしね」

「ありがとうございます!」

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