第30話 sideシン 3


 まあ、確かにあのストーリー展開は急すぎたもんなあ。

 でも、それはそれで主人公が可哀想な気もする。

 いやいや、でも主人公はコニーのことを見捨てて追い出したんだし……。

 とはいえ、それはそれでやっぱり可哀想なような。


「お風呂入ってたらすっかり遅くなっちゃったなぁ……。お城のお風呂気持ちいいんだもん……あれ?」


 そんなこんなでまた数日後。

 魔物討伐の話をもらい、それが明後日に迫った日の朝。

 まあ、俺のいう朝は文字通りの日が昇った朝の意味だけども。

 そういえばそろそろ『百朝』が終わる時期だなー、ってミゲルさんが言ってたな。

 いや、それよりこんな早朝に、この国で見かけない洋風の馬車が大通りを進んできた。

 そして城の前まで来ると、止まる。

 なんだ?

 ものすごく胸がぞわぞわする……。


「あ、人間!」

「!」


 馬車から女の子が出てくる。

 学生服だけど、ずいぶんスカートが短くて足が出ているな。

 自信に満ち溢れ、まるで世界の中心が自分って言ってるみたいな……黒髪黒目の女の子。


「はじめまして! ねぇ、ここに偉い人、います? 私、『レイヴォル王国』から来たの! ねえ、あなたは? なんで魔族の国にいるの!?」

「…………」


 来た……。

 この子、見たことある。

 姉原作の漫画の絵で、この子……黒髪黒目の、俺の世界のブレザーみたいな制服姿。

 コニーから『ヒカリ・アンドゥー』と聞いてまさか、とは思ってたけど。


「……名前くらい名乗れば?」

「え? あ、うん? そうだね? 私はヒカリ・アンドウ!」

「……俺は上坂心かみさかしん

「え?」

「安藤さん? 君も日本人?」

「…………うそ」


 口を覆い、一歩下がる少女。

 目を見開いて表情をどんどん険しくしていく。


「あなた、私と同じ地球の……日本人、なの……!?」

「やっぱりそうなんだ……。じゃあこの世界『フェスティ・レイヴォ』が、マンガアプリで連載されてる『異世界転移聖女は神に愛され無双する』のことも知ってる?」

「えっ! なんでその題名のこと……女性向けだよ!?」


 溜息が出た。

 やはりこの女の子は姉の出した書籍が原作のコミカライズ……漫画を見ている。

 だが、それならばなおさら。


「俺の姉が原作者だから読んでるんだ」

「え! 原作者の弟!? すご!」

「知ってるならなんでコニ……コニッシュさんのことをストーリー通りに追放したの? 助けてあげることだって、できたんじゃないの?」


 コニーに『ヒカリ・アンドゥー』という名前を聞いた時からもしかして、と思ってた。

 そして、その予想は正しかったと証明される。

 この『主人公ヒロイン』は俺と同じ世界から転移してきた……多分、俺と同じ『招き人』。

 正直姉原作のコミカライズ、全部読んだけど内容うろ覚え。

 覚えてるのは最新話だけ。

 でも、うろ覚えだから全部忘れてるわけじゃない。

 だからそれをすり合わせて考えた結果、この人……安藤さんという人はストーリー通りに物語を進めてる。

 改変することはできたはずなのに。


「え? なんでそんなことしなきゃいけないの? っていうか、変えるところ別になくないですか?」

「!」

「私、WEB掲載時代からファンだったんですよー! 『異世界転移聖女は神に愛され無双する』の! 主人公の名前は、勝手に名乗らせてもらってるんですけど!」

「は?」

「ここだけの話、本名は中島ミキっていいます! うふふ!」


 なにが楽しいのだろう。

 不快感が増していく。

 曰く、「あんなに素晴らしいストーリーを、改変するなんて冒涜ですよ!」らしいが、それは彼女を救わない理由になり得るのだろうか?


「でも意外〜。私以外にも『招き人』がいるなんて」

「『セレンティズ竜王国』にも招き人が来てるらしいけど」

「え、なんですか、その国! WEBにも書籍にもコミカライズにも出てない!」

「…………そう」

「?」


 多分、ここは……なんとなくそんな気はしていたけれど……。


「じゃあやっぱり、ここは姉さんが出版した書籍の世界とか、そのコミカライズの世界とかじゃないんだと思うよ」

「え?」

「似た世界、なんだと思うよ。ここは。姉さんは言ってた。『人が思う分だけ異世界があったら面白いよね』って。『自分が考えた異世界が本当にあって、その世界に死んだ後行けたらなぁ』って。まあ、本当に姉さんが考えた異世界があって、俺はびっくりしてるんだけど」


 そしてそんなことを言った姉に対して「じゃあお前がもっとたくさん物語を書けば、その分死後転生する転生先が増えるなー」なんて言ってた兄。

 いや、物騒じゃない?

 俺は長生きしてほしいよ、二人に。

 なんでそんなこと言うの、って悲しかったよ。


「え? なに? 私が『かみめで』の主人公と名前が違うから、『お前は本物の主人公じゃない』って言いたい感じ? それなら君もこの物語と無関係なんじゃないの? この国で“男の招き人”なんて『かみめで』出てないんだから」

「?」


『異世界転移聖女は神に愛され無双する』……だから、略すると『かみめで』なの?

 はぁ、題名長いもんね……。


「君の目的がわからないよ」

「そんなの、主人公としてこの世界をに決まってるじゃない! 私、ストーリーは全部覚えてるの! WEBから見てるもん!」

「……!」


 俺は姉の書いた小説を読んだことない。

 さすがにお互い恥ずかしいし。

 でも、なんだその言い方、カチンとくるな。


「私はこの国で闇の聖霊神にも認められて、妖霊神を討伐することになるのよ。そしてミゲル様と結婚♡ するの!」

「…………」


 そう決まってるのよ、と嬉しそうに笑う。

 ミゲルさんと、君が?

 思わず笑いそうになった。

 まあ、ミゲルさんの思惑を書きいたあとだと……迂闊なことは言えない。

 邪魔したくないし。

 ただシンプルに俺が不快。

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