第24話 護符作り


 翌日、私はケートさんに護符作りを教わるべく朝食後に魔法ギルドへ向かった。

 なお、ジェーンさんはご飯を作り終えると「今夜偉い人の誕生日を祝う宴のお手伝いなんで、カット行ってきます」と毛並みを整えに行った。

 頑張ってきてください。


「……よ、よし、私も頑張る、ぞ……」


 シンに、無事に戻ってきてほしいから。

 私は、頑張る。

 魔法ギルドに入り、受付に話をしてケートさんのお店に移動魔法で上がっていく。

 苦手だけど、今日は一人だから仕方ない。


「!」


 ケートさんのお店がある三十二階に着くと、対面側のお店に赤い竜人の人が見えた。

 あの人、昨日ケートさんのお店から出てきた人、だろうか?


「おはよーぅ、ごっざいまぁす! 一人でこられて偉いですねぇー。グフフフフ」

「……あ、あの、あの方……」

「んー?」


 店に入るとすぐに対面のお店の方に立つ竜人の人をこっそり指さす。

 なんだろう、とても気になる。


「あの方、し、知り合いなんですか? 今日も魔法ギルドに来ていて……」

「さあ? 昨日は護符を買いに来られたので。……なにか思うところがあるんですか?」

「え、ええと、よくわからないんですが、その……なんとなく……」

「ふぅむ……?」


 ふわっふわで申し訳ないけど、自分でもなんと表現したらいいのかわからないの。

 困っていると、「とりあえずお席にどうぞ」と言われる。


「実はあの人、コニッシュさんたちがうちに来るようになってから顔を出すようになったんですよ」

「えっ」


 とても小さな声で、そう教えてくれた。

 昨日は、ケートさんに「あの人間二人はなにしにあなたに会いに来たのか」と聞いたらしい。

 そ、それって……。


「わ、私たちのことを……調べてる……?」

「顧客情報は基本的に教えないんですけど、私もあの人は少々奇妙な“なにか”を覚えます。なんでしょうね、あれ」

「っ……」

「悪いことを言わないです。一人で出歩くのは避けなさい」


 声の質が、変わった。

 包帯の下はおそらく朽ちた死体。

 そういう“魔人”。

 でも、ケートさんは私の身を案じてくれている。

 他の魔人の人と、同じように。


「は、はい……」

「さあ、気分を切り替えて護符作りをやりましょうう。護符作りに必要なものは初心者のコニッシュさんのためにこうして、キットにしてみました〜! んぐふふ」

「あ、…………ありがとうございます……」


 そうして箱に入った『護符作りキット』を手渡される。

 あれ、なんか小馬鹿にされて……?

 いやいや、それはさすがに卑屈すぎるわ、私。

 ええと、箱に入っているのは紙が五枚。

 インク——星砂インクね。

 筆——竜髭りゅうひげの筆かしら。

 そして水……?


「さてさてさて。コニッシュさんが作りたいのは、魔物討伐に行く彼の無事を祈った護符ですね」

「は、はい」

「それならおすすめはこちら」


 そう言って差し出された書籍には、一ページごとに護符とその効果、値段が書いてあった。

 多分普通の護符見本誌。


「まずは『自動回復』の護符。体力を自動で少量ずつ回復する。次に『火起こしの護符』。僅かずつ、燃えて火を起こす。遭難した時や居場所を知らせる時の狼煙を炊く時、食事の時の火起こし、洞窟、夜歩く時など用途は幅広い。あとは防御力上昇の護符と……『蘇生の護符』」

「『蘇生の護符』……!?」

「でもこれはランクAの護符だから初心者のコニッシュさんには無理ですね〜! くふふふふふふふ!」

「くっ」


 値段を見れば金貨一枚。

 確かにそんな護符、私には無理。

 うう〜、ならなんでそんなの見せるの〜!

 まさか買わせようとした?

 くっ、なんて姑息な。


「……でも、この『火起こしの護符』というのは魔法紙にもありそうですね」

「ありますが、スペックがまったく異なります」


 じゃじゃん、と取り出されたのは小さな紙。

 魔法紙だ。

 チッと音を立てて魔法紙が燃え上がる。

 五秒で消えた。


「…………。え!? 終わりですか!?」

「終わりでーす。これが魔法紙の『火起こし』になりまーす。対して護符はこちら」


 同じくチッという音を立て、護符が燃え始める。

 とてもゆっくり燃えていく。

 驚くほどのんびり燃えて、面積が小さくなることがない。


「だいたいこれ一枚で六時間くらい燃えます」

「六時間!?」

「あと一度消して、そのあとまた着けて、とかもできる」

「とても優秀……!?」


 そういう魔道具もあるけれど、壊れてしまった場合の予備にも使えるそうだ。

 それになにより、護符だと水の中でも発火し続けられる。

 ええ、護符とても優秀。

 そう聞くと迷うなぁ。


「護符は基本的に魔法紙よりも強力で、保守的なものが多く呪符ができないことをする、みたいなものです。うーん、簡単に言うと攻撃型の魔法紙の強力版が呪符で、サポート系の魔法や防御系、回復系の強力版が護符って感じですかねぇ」

「? 呪符?」

「おや、呪符は聞いたことありませんか? こんなのですよ」


 と、差し出されたのは護符見本誌と似たような書籍。

 黒い紙に白い星砂インクで呪文が描かれた護符……?


「攻撃力を有しているのが呪符です。ただ封印などを行うのなら呪符の方が優れています。ちょっと危ないので、買う方にも資格が必要です」

「は、はわわ」

「さて、では改めて聞きますね。どれを作りますか?」

「あっ」


 危ない、本来の目的を忘れるところだったわ。

 私は今日、護符を作りに来ているのよ。

 改めて見本誌を眺める。

 私が作れそうな護符は——……。

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