第52話 エリア外ダメージ
戦闘エリア外に充満するガスの中をひたすら走り抜けていた。
このまますぐ戦闘エリアに戻ったら、さっきのタヌキ魔法少女や、ユイたちの待ち伏せに合う可能性がある。だから、今はできるだけ離れた位置から戦闘エリアに戻らないといけなかった。
「な、なんか体がピリピリするんだけど……」
「それが戦闘エリア外にいるダメージだよ。回復アイテムは常に使っておいて」
後ろからシズネがパリンと石を砕いて、回復する音が聞こえた。
念のため、自分の体力を確認する。
う~ん、これはやっぱり厳しいよね……。
「このまま戦闘エリア外を通って、ユキミの近くまでいくよ」
「わかった。結構回復アイテムを使っちゃうけど、大丈夫かな?」
「後何個持ってるの?」
「えっと……4つ」
そもそもユキミが持っていた回復アイテムの数は、五つだったはず。
ここまでの戦いで基本的に隠れていたユキミは、まだ回復アイテムもかなりの数を持っていた。
「それだけあるなら大丈夫。念のためこれも持っておいて」
そして、私が持っていた回復アイテムをユキミに渡す。
「え? でも、これもらっちゃったらヒナが回復できないんじゃない?」
「うん。っていうか、私は限界だね」
戦闘エリア外にいることで受けるダメージは、ゲームが進行するほど大きくなっていく。終盤に回復アイテムが潤沢な状態で、エリア外にずっと隠れるという戦法を封じるためだ。
今のエリア外ダメージは、回復アイテムでギリギリ相殺できないぐらいのダメージ。
もともと体力があったユキミなら、なんとか長距離の移動をすることもできるけど、さっきの戦闘で体力を減らされている私じゃあ、長くは持ちそうもない。
「私は回復アイテムを使っても、戦闘エリアに戻れそうにないんだよね。だからユキミが使って」
「ヒナ……えっと、すぐに戦闘エリアに入っちゃうのは?」
ユキミのいう通り、今すぐ戦闘エリアに向かえば、私が倒れることはないだろう。
でも――。
「この辺りは、ユイたちやさっきのたぬきが待ち伏せしてるかもしれないからね。私が生き残ろうとしてシズネも倒される方が避けたいの」
「でも、いないかもしれないよ?」
「きっといるよ。私とユキミを分断したんだから、なんとしてもどっちかは倒したいって考えるでしょ」
シズネは仲間が倒されることを嫌がるけど、こういうゲームは誰かが倒されるのなんて日常茶飯事だ。というか、全員揃って勝つ方が珍しいぐらいだし。
体力ゲージが残り少しになって、視界が赤く色づいていく。
「本当にそれだけ? いつものヒナなら、それでも戦いに行ったでしょ? 回復は敵から奪えばいいって」
シズネが私の手をとって走るのをやめた。引っ張られるように私もその場で止まる。 回復は敵から奪えばいい……確かに普段の私だったら言ってそうだなぁなんて思っていると、なんだか胸が熱くなってくる。
どうして、試合をあきらめようと思ったのか、そんな理由は簡単だった。
「だって、もう戦う理由がなくなっちゃったしさ」
ユキミがプロを目指すために優勝する。
そんな単純な目的で始めたこの戦いなのに、ユキミはプロを目指してなんかいなかった。
どうして私に嘘をついたのか。どうして顔も見たくない部活の人たちの前に、私を引っ張り出したのか。
わからないことが多すぎて……でも間違いないのは、戦う理由がもう無いということだった。
「結局ユキミは、私のこと嫌いだったのかな? だからこんな回りくどい嫌がらせをしてきたのかな?」
チートに手を出して、色々な人に嫌われて、それでも仕方ないと思っていた。
どこかであきらめていたけど……やっぱりこうしてその事実を目の当たりにするのは――。
辛かった。
そしてシズネに回復アイテムや魔法のカード、それこそ持てるだけのアイテムを渡すと。
私の視界が赤に染まった。
◆◆◆◆◆
目の前に転がるお墓を見つめる。
仲間が倒されたことは自分でもびっくりするぐらいショックじゃなかった。
私もこのゲームに慣れてきたってことなのかな?
でも、なによりもショックだったのが、ヒナの辛そうな顔をみたことだ。
いや、ダメダメ! こんなところでクヨクヨしちゃ!
せっかくヒナが生かしてくれたんだから、まずは生き延びなくちゃ!
お墓からヒナのソウルリングを抜き取ると、そのまま言われた通りの道で戦闘エリアを目指す。まずはユキミちゃんと合流して、そのあとヒナを復活させる。
ユキミちゃんがプロを目指していないという話は、そのあとだ。
今は何とかして、みんなで集まらないと!
よし、頑張ろう!
そして、移動すること五分。
ようやく私は戦闘エリアの中へと入っていった。
「…………」
戦闘エリアに入って最初にすることは、大急ぎで近場の草むらに隠れて、周囲を警戒することだった。
今いる場所は、森の中。
さっきまで戦闘エリア外のガスが充満する場所にいたのに、一転して太陽の光が草の隙間から差し込んでくるきれいな場所にいた。
いや、本当にすごい変わりようだよね。
「敵の気配もないし、隠れる場所もある。ふー、大丈夫そうかな?」
「はじめての戦闘エリア外はどうでしたかマスター!」
「わぁ、パルちゃん!?」
静かに周囲を警戒しているところに、突然パルちゃんの声が響いたせいで、びっくりしちゃった。
これまでゲームをしていてわかったことだけど、パルちゃんは私が一人になると積極的に会話に入って来てくれる。
逆に二人以上で一緒にいるときは、声をかけないとなかなか出てきてくれない。
もしかして、一人で遊ぶプレイヤーが寂しくないようにしてるのかな?
「さあ、仲間を倒された復習の魔法少女として戦いましょう! 闇落ちする魔法少女! いいですね! そういうのも私は大好きですよ!」
「闇落ち? なにそれ?」
パルちゃんのよくわからない言葉は放っておいて、歩き出そうとしたとき、通信の声が聞こえた。
『シズネさん、そっちは大丈夫?』
『あ、ユキミちゃん! 大丈夫だよ。ヒナはやられちゃったけど』
『そう……。ならまずは合流を目指しましょうか』
そしてマップが表示されると、そこに赤い印がつけられた。
「マスター、ユキミさんがマップにマーカーをつけてくれましたよ」
「へぇ、こんなこともできるんだね」
「あと、この通信は個別設定にされています」
個別設定? なにそれ。
「ユキミさんとマスター、二人だけの会話という意味ですね。普通の通話はパーティ全員に聞こえてしまうので。これは……愛の告白とかされちゃうかもしれませんよ! 魔法少女同士の恋愛! 賛否分かれる展開ですが私はすべてを受け入れます!」
「いやいや、受け入れるとかそんなのないから……」
でも、私だけに連絡してくるのって、ヒナと話辛いからだよね。
『ひとまずそこを目指しましょう。途中戦闘はできるだけ避けて、何かあったら連絡してね』
『うん、わかった』
お互いに連絡が終わり、通信が終わろうとした時、どうしても聞いておきたいことをユキミちゃんに投げかけてみた。
『ねえ、どうしてヒナをゲームに誘ったの? プロ目指してるって言ってたの、嘘だったんでしょ?』
『それは……ごめん』
そして連絡は途絶えてしまった。
「…………ねえ、パルちゃん。味方に魔法弾って当てられる?」
「ダメージは入りませんができますよ。衝撃や吹き飛ばしなどは再現されます。フレドリーファイアなんて言われる行為ですね」
よし、決めた!
これは再開したら、一発ぶつけてやろう!
ヒナもユキミちゃんもウジウジウジウジ。
これまで一緒にいて、どっちも悪い人じゃないってわかってる。
だからきっと、何か理由があるんだと思う。
ならそれを、私が聞きだしてやる!
思ったことも言えずに、ケンカ別れしちゃうなんてこと、絶対させない!
「そのためにも、今は生きてユキミちゃんと合流するよ! よーし、気合いれていこう!」
「おぉ、マスターやる気ですね!」
そして、久しぶりにパルちゃんと二人の冒険が始まった。
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