第50話 小さな嘘
ヒナが乱戦といった通り、私たちの戦いは始まった。
二十人と少し。それが敵の戦力で私たちの戦力が上級者二人と初心者一人。
あ、もちろんその一人が私。正面から戦える力がなくて、草の影にうずくまっているから、戦力としては数えられそうにないけど……。
いやいや、っていうか無理でしょ。
ヒナとかユキミちゃんが苦戦する相手と、正面から戦うなんて!
つまり、ここからやることはおなじみの戦法。
正々堂々と正面からの不意打ちだ!
「うん、やっぱりこのほうが私にはあってるや」
もぞもぞと匍匐前進で、相手を狙える場所へと移動する。
とはいえ、【
しかも相手を一発で仕留められなかった場合も、もれなく居場所がバレてしまう。
さらにさらに、周りで戦う誰かに魔法弾を見られても居場所がバレてしまう。
なにこのスーパーハードモード!
たとえるなら、先生が10人ぐらいいる教室でこっそりお弁当を食べようとしてるみたいな……。
その結果、私はおびえながら……いや虎視眈々とチャンスをうかがっているというわけだ。
こうして眺めている間にも、ヒナやユキミちゃんの体力は削られていく。
何かしたいけど……何もできなかった。
◆◆◆◆◆
頬をかすめるように魔法弾が頭のすぐ側を通り抜けていく。
心臓がキュッとなるのを感じながら、すぐに次の攻撃を回避する。
隙を見て攻撃するも、回避に重きを置きながら戦っている私の攻撃はあっさりとよけられた。
「これは……正直キツイかな……」
さっきはユキミに10人ぐらいならやれるなんて言っちゃったけど、やっぱりみんなうまくなっている。
もしくは、私が下手になったのか、正直目の前の敵から逃げるのも限界という状況だった。
ユキミがプロを目指しているのなら、勝たしてあげたかったけど、これはさすがにキビしいよね。
そして、背中から強い衝撃が来た。
被弾した!?
そう思うと同時に回避行動をとる。連続して飛んできていた二発目三発目は回避できたけど、体力は削られた。
やっぱりキツイ。
「部活を抜けて腕が落ちたみたいねヒナ」
そう言いながら出てきたのは、私たちが探していた張本人ユイだった。
部活動のキャプテンで、選抜クラスを引っ張っている張本人。
「そっちは上手になったんでしょ? 選抜クラスに入ったらしいし」
「まあね。あなたが抜けてからいろいろあったから」
部内が荒れて転校する人まで出たらしい。私はそのことをほとんど知らなかったけど、ユラが言うにはそれをいさめて、もう一度部活として活動できるようにしたのがユイだという話だ。
「周りに言われて、イヤイヤ選抜クラスに入ったってほんとなの?」
ユラが言っていた言葉。
選抜クラスに入るつもりじゃなかったユイが、周りに頼まれて入ったという話だったけど、本当なんだろうか?
「イヤイヤか……それはユラから聞いたのね。どうせ私を倒してほしいとでも言われたんでしょ」
「おぉ、さすがお姉ちゃん。なんでもお見通しって感じだね」
「あの子は私に気を使いすぎなのよ。私にだって理由があるの。選抜クラスに入った理由がね」
そしてユイは真剣な瞳をこちらに向けた。
「ねえヒナ……あなたはどうしてチートなんかに手をだしたの?」
私が転校する前には見せたことのないような、真剣な表情に一瞬言葉が詰まる。
どうして……そんなのは決まってる。
「もっと、強くなりたかったから。知ってるでしょプロ志望だったんだよ」
「ええ、そうね。そして誰にも相談せずに一人で突っ走った」
その言葉には避難するような棘があった。
「悪かったとは思ってるよ。でも今日の勝負にそれは関係ないでしょ!」
そしてステッキを構える。
これ以上の言葉は必要ない。たぶん喧嘩になるだけだ。決着はゲームでつける! 聞きたいことも言いたいことも、全部全部そのあとだ。
そしてユイもステッキを構えた。
「なら約束しなさい! 私が勝ったら質問に答えること!」
「いいよ! なんでも答えてあげるんだから!」
ステッキを振るうと【
牽制の一手。ここから勝負が動き始める!
「マイとメグミは退路を塞ぎつつ、距離をとって牽制! サナとノノは私のサポート!」
ユイが手早く指示を出しながら、私の攻撃を回避する。
正面から馬鹿正直に撃っただけの弾だから、よけられるのは想定内。
でも、その少ない動きだけでも、昔より上手になったのがすぐにわかった。
「って、今の話の流れは一騎討でしょ!」
「残念だけど専門外よ。さっきの約束忘れないでね!」
そしてユイが中距離を保ち【
回避するのは簡単だ。でも、その攻撃はあくまで私が避ける方向を限定するためのもの。そこへ周囲にいるほかのメンバーが攻撃するという、ユイが昔から好んでいた戦法だった。
ユイの実力は私に比べれば劣っている。でも、チームで戦うゲームは個人の戦闘力だけでは勝敗は決まらない。
連携や意思疎通によって、自分より強い相手を倒す、ジャイアントキリングが起きるのもゲームの醍醐味だった。
「ッ……これはキッツイ!」
ギリギリで回避を続けながら、反撃の機会を探すけど、簡単には近づかせてもらえない。距離があると、決定打になるようなものを撃てずジリジリと追い詰められていった。
『ユキミ! こっちやばいかも! フォローできない?』
『厳しいわね。こっちも手一杯よ』
『シズネは?』
『私の周り、五人ぐらいいるから無理そう……』
ってことは、やっぱり自力で突破しないとダメか。
「ねえヒナ。あなたはどうして、この試合に参加したの?」
周りの魔法少女に指示を出しながら、その合間で話しかけてきた。
それだけ向こうは余裕があるってことだよね。
こっちは避けるのに必死だっていうのに。
っていうか――。
「勝った時に質問するんじゃなかったの!?」
「そうだったわね。じゃあこの質問は答えても答えなくてもいいわ。気になっただけだから」
「……」
まあ、答えたからって何か問題があるわけじゃないか。
「ユキミに頼まれたからだよ。プロ志望のユキミが相方なしでこの試合に挑まないといけないのは、私の落ち度だしね」
プロスカウトの人が観戦に来ている試合で、全力で戦えないのはかわいそうだ。 それが私のせいなんだったら、責任はとらないと。
そんな私の答えを聞いたユイは、なんだか呆けたような顔をしていた。
場違いすぎるその表情に、なんだか嫌な予感がしてきた。
そして、ユイが言った言葉は、私の予想通り信じられない言葉だった
「何言ってるの? ユキミはプロをあきらめたのよ」
「え――?」
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