第25話 一騎打ち
シズネがチーターを倒したいといった時、正直言うと驚いた。
気弱なシズネがああやって、自分で進む方向を決めたこともそうだけど、逃げ続けていた相手に立ち向かおうとした姿が、かっこよかったから。
だから私もシズネの想いを応援してあげたい。
初心者のシズネに変わって、私が戦ってあげたいと思えたんだ。
シズネの願いを叶えるためにも、ここで逃がすわけにはいかない!!
「これでどうだ!!」
私が放った【
目の前にいる騎士姿のチーターは、もう一人とあきらかに動きが違う。
相手の射線を切り、孤立させ各個撃破している。
今も一人の魔法少女が、魔法の矢に射抜かれてお墓に変わった。
この人を急いで倒さないと、手が付けられなくなる。
勝負に勝つために、こいつを倒すのは避けて通れない!
「じゃあ、無理してでもやるっきゃないでしょ!」
そして私は危険を承知で突っ込んでいった。
そこへ、後方からシズネやほかの魔法少女たちが援護射撃をしてくれる。
これならいける!
この人数で囲めば、チーターだって倒せるはずだ。
「まず倒すべきは、あなた」
チーターは魔法の矢を構えると、私目掛けて発射した。
その魔法の矢に、後方から飛んできた魔法の矢がぶつかり、パシンと音を残して消滅する。
『い、今のサンディーさんだよ! すごいね!』
いや、すごすぎでしょ。
魔法の矢に魔法の矢をぶつけるとか、どんな魅せプよ!
「これは……ダメそうかな」
そしてチーターは一瞬表情を曇らせると、攻撃のターゲットを私から周囲の魔法少女へと切り替えた。
「って、あんたの相手は私でしょ!」
「ムリ。あの人にまた防がれそうだし」
そして手あたり次第に魔法の矢を発射する。
狙いを様々なところへ分散した結果、サンディーさんが撃ち落とすこともままならず、一人、二人と次々に倒されていった。
「それなら、速攻で終わらせる!!」
【
追いかけながら【
「ちょっとあんた! チーターなのになんでそんなに上手なのさ!」
【
とはいえ、私なら半分ほどはしっかりと当てられる自信がある。
それなのに、目の前のチーターへ当たる弾はせいぜい一~二割ほどだった。
チート能力で回避しているとか、そういうのじゃない。
単純に打ち合ってきた経験や、回避行動の技術が高いんだ!
これだけの動きができれば、チートなんて使わなくても戦えそうなのに……。
「私はお姉に勝ってほしいだけ」
「ならチートなんか使わずに戦えばいいでしょ! あなたがフォローすれば、優勝だって狙えるんじゃないの?」
「チヨダ……私の名前」
そして名乗るのと同時に、またチャージを終えた魔法の矢を後方の魔法少女へと放つ。
「あなたにはわからない。どれだけ練習しても上手になれない人もいる。お姉は勝ちたくてゲームをしたのに、どれだけ頑張っても勝てなかった」
「練習したらうまくなるって! っていうか、だからチートを使うってダメでしょ!」
「別になんて思われてもいい。私はお姉を勝たせるために頑張るだけ!」
そしてそのまま、逃げるチヨダを追いかけ続け、その間もどんどん後方の魔法少女たちが倒されていく。
シズネは無事みたいだけど、たぶんさっきからシズネの魔法弾が、全然検討違いの場所に飛んでるから、危険じゃないと思われて放置されてるだけだと思う。
結局私がチヨダを仕留められたのは、相手のマナが付き、【
「これで、とどめ!!」
◆◆◆◆◆
ヒナが【
チーターがお墓に変わり、地面に落ちていく。
大きすぎる犠牲があったとはいえ、私たちはようやくチーターを一人、倒すことができたんだ!
小さな達成感を感じていると、もう一人のチーター、チトセがステッキを振るった。
「ヒナ! 危ない!!」
『ッ!?』
飛んできた魔法弾が直撃したヒナは、すぐにお墓へと変わってしまう。
ヒナが倒された。
空から落ちてくるヒナのお墓を眺めながら、そのことを理解すると同時に、ヒナの声が聞こえてくる。
『来るよ!!』
声にハッとする。
最後の一人、【
ゆっくりと私を見下ろす彼女の顔には余裕の表情が見て取れた。
私たちがもう一人のチーターを追い詰めている間に、チトセを抑え込んでいた魔法少女たちは全滅していたんだ。
気づかなかった……もう少し早く気づけてたらヒナは……。
「あなた、さては初心者ね? 初期アバターだし、チヨダからあなたの攻撃はめちゃくちゃなところに飛んでいったって聞いたわよ」
「だったら何だっていうんですか!」
「なんにも。ただ、楽に勝たせてもらえると思っただけ」
そしてステッキをこちらに向ける。反射的に物陰へと飛び込むと、遮蔽物にした壁に魔法弾がぶつかる衝撃音が響き渡った。
魔法が途切れた瞬間を狙い、【
でも、距離が離れているせいで攻撃はあたらない。
「反応はいいわね。でも狙いはまだまだ」
そして、次から次へ魔法弾を発射してくる。
こちらから相手の場所は見えないけど、魔法攻撃が背後の瓦礫に当たる感覚が短くなっている。
たぶん近づいているんだ。
距離が近ければ、今までのように魔法弾を回避することはできない。
そして瓦礫の方も、ゆっくりと削り取るように壊れていく。
あまり時間が稼げないことだけは私にでもわかる。
でも、どうしよう……。
ヒナはいない。サンディーさんもいない。協力してくれるほかの魔法少女もいない。
私一人……。
『シズネ! 大丈夫!?』
「ヒナ……どうしよう、私一人で勝つなんて無理だよ」
初心者プレイヤーの私一人で、だれかを倒すなんてできっこない。
でも、助けてくれる人はもういないんだ……。
『あはは、私たちの目的忘れたの? 楽しむことだよ。楽しめたのなら負けてもオッケー! 気楽にいこうよ気楽に!』
「負けてもいいの?」
『そりゃ、勝てるのなら勝ちたいけどさ、負けたって頑張った結果なら楽しかったって思えるでしょ? 次はどうすればいいのかとか、こんにゃろー! ってまた次の試合に挑戦する。そういうのが楽しいんじゃん。だからシズネが思いっきり頑張れたなら負けてもいいんだよ』
確かに、頑張った結果負けるのはいいのかもしれない。
全力で遊んで、全力で勝ちに行ってその結果負けるのなら、それは十分ゲームを楽しんでいる。
「いわれてみれば、そうかもね」
『うん。シズネは初プレイなんだし、一騎討が怖いなら回線引っこ抜いちゃえばいいからさ!』
「ヒナさん! マスターに変なことを教えないでください! マスター、回線の切断は褒められたプレイではないので、忘れてくださいね!」
回線? 引っこ抜く?
うん、わかんない! けど、まあ言いたいことはなんとなくわかるかな。
「ありがと、ヒナ。やれるところまでやってみるよ。負けちゃったらごめんね」
『うん! オッケーオッケー! っていうか、私がサポートしてあげられないことのほうが申し訳ないんだけどね~』
あはは、とお互いに笑いあってから私は気持ちを固めた。
やるだけやってみよう!
初心者の私がチーター相手にどこまで戦えるのかはわからないけど、もしそれで負けちゃってもゲームは楽しめる。
ここであきらめたら、やりきったって胸を張れない気がする!
【
相手の場所、状況、すべてを把握する。
「あら、そっちから出てきてくれるなんて、手間が省けたわね!」
チャージを終えて、攻撃に転じるチトセ。
何をすればいいのかわからない、でも戦うための手札は多くない。
まずは一歩でも、相手に近づくんだ!
一歩前にでる。
私の頭をかすめて敵の攻撃がすり抜けていった。
「えっ?」
今、私とチーターは数メートルまで近づいている。
この距離で相手の魔法弾を見てから回避するのは無理だ。
でも、今避けられた。
偶然相手の攻撃のタイミングと、私の歩き出すタイミングが重なっただけ。
そんな偶然の産物のような回避だったけど、攻撃を見てからの回避じゃなくて、攻撃する瞬間の回避ならよけられる!
普通、そんなタイミングを把握するのなんて無理だと思う。
でも――私ならきっとできる。
お店の人に声を掛けられる瞬間、学校の先生から授業中に当てられる瞬間、そういう誰かの意識が私に向く瞬間には、人一倍敏感なんだから!
「初心者が! 偶然よけられたくらいで!」
さらに数度攻撃が飛んでくる。
でも、その目を見ていれば攻撃のタイミングがつかめる。それなら十分よけられる!
弱気な人間の底力、見せてあげる!
『おぉ~、すごいすごい!』
ヒナの歓声を聞きながら、今度は私がステッキを構える番だった。
「戦える。倒すよ!」
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