第4話

「はぁ〜…何を用意すればいいんだ?」


俺の言葉にマシュー兄妹は顔をキラキラさせながらくっついてきた。いや、マシュー妹はすでにくっついていたな。


「き、来てくれるのか?」


「お前が来てくれっていったんだろうが。行かなくていいなら行かないぞ。」


良い返事がもらえたことに驚くマシュー兄。


「クスタ、ありがとう。」


背中に抱きついていたマシュー妹は、正面に回り込み、下から俺の顔を見つめキラキラと感謝を伝えてきた。


「はいはい。それで、俺は何を用意すればいいんだ? 武器か? でも戦闘は苦手だからな。それよりも防具か?」


素直な感謝の言葉に照れ隠しもあり、早口になりながら、ダンジョンへと行く準備について尋ねるが、マシュー兄から予想外の言葉が帰ってきた。


「いや、そのままでいいぞ。」


「え? このままか?」


「あぁ。そのままで大丈夫だ。任せろ。」


「クスタ、私達がいる。こっち。」


そう言って、二人は歩き出した。向かっている方向からすると、本当にこのまま街の外へと歩いていきそうだ。


「お、おい! 本当にこのままでいいのか? お前らだって、武器も防具もないじゃないか。ダンジョンに行くんだろ?」


二人について歩いていくが、理解が追いついていない。いくら将来有望な冒険者コンビだとしても、ダンジョンに武器と防具を持っていかないのは自殺行為だ。


「クスタは心配症だなぁ。一応武器は持ってるから、何の問題もない。大丈夫だぞ。」


「クスタ安心して。何かあればこれで守ってあげるから。」


そう言って二人が笑いながら見せてくれたのは、片手で扱えるダガーナイフだった。


……いや、それ! さっき俺の肉を奪ったナイフだよね! そんなんでダンジョン行けるほどダンジョンって甘くないよね!


「……そう言えば、ダンジョンには何をやりに行くんだ?」


「……それはだな。」


「それは?」



「「秘密だ(よ)。」」


「いや、教えろよ。」


理由も分からずに付いていくの怖いんですけど!!


マシュー兄妹は笑いながら街の外へと出ていく。門番の兵士も身軽な二人に魔物には気をつけろよと声をかけるが、止めることはなかった。いつもの光景なんだろうか。


俺? ちゃんと門番に止められましたけど何か? 真面目な門番でしたわ。


それをみてまた笑う二人。いや、お前らがちゃんと門番に説明しろや。


まぁ、無事に街の外へと出て、マシュー兄妹と他愛もない話しをしながら歩いていたら、着きました。


はい、ダンジョンです。街から1番近いダンジョンだからか、冒険者もチラホラ見かける。


入口の周りには幾人か行商人が店を開いていて、冒険者と話し込んでいる商人もいて、なかなかに賑わっているようだ。


「着いたけど、どうするんだ?」


「ん? クスタ、何を言ってるんだ? 中に入るに決まっているだろ。」


「クスタ。着いてきて。」


冒険者じゃない俺には珍しい光景だが、二人は見慣れた光景なのだろう、辺りを見渡すことなく、ダンジョンへと向かっていく。


「お、おい。本当にこのままの装備でいいのか? 周りの冒険者はしっかり装備整えているじゃないか。俺らの格好はおかしいぞ!」


マシュー兄妹に声をかけるが、二人は気にした素振りもなく、ダンジョンへと入っていく。


「あぁ! もぅ!」


俺はこのままダンジョンへと入っていいのか悩んでいた。二人は何も気にすることなく入っていったが、俺はダンジョンの入り口で足を止めていた。


「大丈夫よ、クスタ。」


俺の様子に気がついたのか、マシュー妹が戻ってきて、耳元で囁いてきた。


「実は、秘密のスポットがあるの。そこに行くのよ。」


冒険者は、ダンジョンの中で安な場所やお金になる素材がたくさん取れる場所などを、秘密のスポットとして誰にも教えずに独占していることがある。


きっとマシュー兄妹もその場所を確保しているのだろう。だからこそ内緒にしていて、安全だからこそ軽装なのだろう。


全てが繋がった気がして、俺はゆっくりとだが、ダンジョンの中へと入っていく。


「本当に大丈夫なんだろうな?」


「大丈夫だよ、クスタ。何かあれば守ってあげるし。」


俺はマシュー妹に手を引かれながら、ダンジョンの中を進んでいく。


ダンジョンの中を歩いているが、魔物には会わなかった。魔物に会わないルートがあるのか、マシュー妹の足取りはしっかりしたものだった。


「着いたよ。」


マシュー妹に連れて来られたのは、小部屋のような場所だった。


「ここに何が……がぁっ!」


後ろからの衝撃に俺の身体は倒れていく。


走馬灯のようにスローモーションで倒れていく俺は、後ろを振り返り返った。


そこには笑顔を見せるマシュー兄が、俺の首に当てたのであろう手刀を構えた形のまま、ポージングをして立っていた。


「クスタ、次に会う時までサラバだ。」


……どういうことだ……。 


俺の意識はそこで途絶えた。

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