第2話

「はぁ……」


あれからしばらくしてギルドに戻ると、ギルドの入り口に『グズタ(本名はクスタ)のギルド立ち入り禁止』の張り紙があった。ハゲでムキムキの男のサイン入りだ。


こんなことだけ仕事が早いのなら、他の仕事も手早くやって欲しかった。


ギルドの入り口で張り紙を見ていると、冒険者の人たちが僕の顔と張り紙を見ながらニヤニヤした顔つきでギルドに入っていく。


……そうか、冒険者の人たちからも疎まれていたのか……


そう思った途端、ギルドの前で立っているのも恥ずかしい気持ちが湧いてきた。僕は寂しい気持ちと悔しい気持ちと、どこかスッキリとした気持ちで、心の中を乱されギルドから逃げるように走り去っていった。


走っている間、いつもの景色が滲んで見えた。


「ふぅ……」


走り疲れて入った酒場で、一人でお酒を飲んでいると、荒ぶっていた感情が少し落ち着いてきた。


「はぁぁ……あのハゲでムキムキのバルダムが、あんな強引にギルドの変革を進めるなんて思ってもみなかったな。」


僕をギルドからつまみ出したハゲでムキムキのバルダムは、最近になってギルド長になった男だ。冒険者からギルド長になった途端、前のギルド長が行っていた運営方法から、ガラッとやり方を変えた。


どうやら僕はその新しいやり方に合わなかったらしい。


僕なりにも努力はした。


しかし、僕には適性が無かったようだ。


「はぁ〜。これからどうしよう……」


僕はチビチビ酒を飲みながら、あーでもないこーでもないと悩んでいた。


「こんな所にいたのか、クスタ。」


声をかけられたので振り向くと、そこには僕の知り合い達が立っていた。


「……マシュー兄妹じゃないか。久しぶりだな。いつダンジョンから帰ってきたんだ?」


馴染みの冒険者に僕は笑顔で声をかける。声をかけられたマシュー兄妹は呆れた顔を見せてきた。


「おいおい、俺達のことより、お前のことを聞かせろよクスタ。ギルドの張り紙を見たぞ。お前、何があったんだ?」


そう言って僕を間に挟むようにマシュー達が席に着いて、ビールを注文する。


ビールが届き、チンとグラスを合わせて乾杯をした後、僕は話し出した。


「何があったと言うより、バルダムにギルドを追い出されちまっただけだ。」


「普通にやってたら追い出されることなんてないはずだよ?」


マシュー妹が僕の顔を覗き込むように見てくる。マシュー妹の目がクリッとしたかわいい顔が近くにある。自分でも可愛いことを自覚しているのだろう。身体を寄せながらあざと可愛くするポイントを押さえてこっちを見てくる。


「普通にやってたつもりなんだがな……まぁ、バルダムとは色々と対立してたこともあったからな……」


僕は顔を背けつつ、マシュー妹に伝える。すると、今度は反対側に座っていたマシュー兄が僕の顔を見ながら話してきた。


「おい、クスタ。お前それでいいのかよ。あんなにギルドを大事にしてたのに……悔しくないのかよ!?」


ドン! と空になったビールのジョッキを勢いよく置いて顔を近づけてくる。


ええい、寄るな酔っ払い! すぐに酔うクセに格好がいいからと一気飲みとかすんじゃねぇ! マシュー妹もくっつくな! マシュー兄も負けてられないって肩を組もうとするな! 意味不明すぎるだろ。


兄妹揃って絡んでくるんじゃあねぇ!


絡んでくるマシュー兄妹に挟まれてうっとおしく、深刻な話しどころではないなと思いながらも、何処か居心地の良い空間に、僕の顔と心は緩み、怒り、笑いながら、哀しみを吹き飛ばしてくれたマシュー兄妹の人柄に感謝した。


「ハグしてあげるから、ここの支払いはクスタお願いね?」


「仕事辞めたヤツにたかってんじゃねぇよ!」


「妹よ、お前は何を言ってるんだ? クスタをなめるな! こいつは言わなくても払ってくれる男だ!」


「だからお前もたかってんじゃねぇよ!」

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