ハウスクリーニング!!!

こば天

第1話 新たな道へ!!

季節は4月。


桜が舞い散り、暖かな日差しが心地よい。


くぬぎリゾートホテルで迎える、10度目の春がやってきた。


俺はこのホテルで、住み込みで調理師見習いとして働いている。今年で10年目か、いやが上にも気合いが入るぜ!


今年の4月から元号が変わり、日本は新たなスタートを切ったのだ!


「おはようございます!」


料理長に笑顔で挨拶!挨拶は基本だぜ☆そんな俺に、料理長はさらっと言いはなった。


「悪ぃーんだけどさ。うちのホテル、経営難で破産するんだわw倒産倒産w」


季節は春。桜舞い散る。元号変わる。


俺は、33にして職と住む場所を失った。




ワゴンRの狭い後部座背をフラットにし、寝袋をしいて横になる。そう、車中泊ってやつだ。


今や、このスペースが俺の部屋である。


俺は寝袋にくるまって、車の天井のシミを数えながらため息をついた。


車の中で、寝袋に『くるまって』、か。うまいダジャレだ、はははははは。涙が出てきた。


実家?なにそれ美味しいの?んなもんねーよ?物心ついた時から家庭崩壊していましたがなにか?


寮を追い出されて、一週間がたった。


最初のうちは漫画喫茶に行ったり、サウナに行ったり、映画館に行ったりと、休みがなかったぶん遊び倒した。


なにせ、調理の仕事は休みがない!週に6日働き、朝から晩まで仕事だ。親方から、「悪ぃーんだけどさ。休み、週一でいいか?」と言われ、七連勤したあとに八連勤したときは、あれ?休み、週一ですらなくねw

とか思ったり、夏の繁忙期になると、朝の6時から夜の12時までほぼ休憩なしで休みもなしで食事もなしでボーナスもなしで料理長からの怒声ありで部屋に戻って横になるだけで・・・流す涙すら枯れて。


とにかく!今までのうっぷんを晴らすために、遊びに遊び倒した。


あれ?いま思うと、なんで俺そんな仕事を10年もやってたんだ?


使えば、金はなくなるよね?調理の仕事は、とにかく給料が安い。金はある程度はためていたが、無限ではない。


俺は次の仕事を探したが、なかなか見つからなかった。調理師見習いをやってはいたが、調理師免許を持っているわけではない。調理師免許をとって、また1からやりなおすかな、とか思いながら、携帯で求人サイトを検索して、なにげなく見ていた。


「寮つき・求人」


とりあえず、住むとこが欲しいなー。車中泊やだなー。寝袋やだなー。布団で寝たいなー。毎日コンビニ飯やだなー。あれ?目から汁が止まらないを。


「日給8000円、寮・相談可」


ん?寮、だと?!俺は飛び起きた。頭からすっぽりと寝袋に包まれた状態で飛び起きた。道の駅のはしっこに止めていたワゴンRの後部座背で飛び起きた。


私の住所は『道の駅』。


求人は、ハウスクリーニングの仕事だった。


俺は調理の仕事を思い返してみた。汚い厨房。手が空いたとき、俺は率先して掃除をした。


油カスまみれのフライヤー、足跡だらけの床、ホコリだらけの棚。そういった汚い場所を綺麗にし、料理長から何度も誉められたっけ・・・。


てか、ホテルや旅館の厨房って、まじで汚いからね?いや、まじで。てか、掃除とかしてる時間ねーしまじで(裏話)。


やってみるか、ハウスクリーニング!てか、住むとこが欲しい(目先の欲のみ)。


俺は、求人サイトに電話をし、3日後に面接の予定をとりつけることに成功したのだった!


朝早く起き、温泉スパで髭をていねいにそって、俺は面接場所である「笹山塗装店」へ向かった。


笹山塗装店は個人経営のお店で、街中の住宅地にあった。


10年ぶりの面接。俺は履歴書を握りつぶしそうなほどに緊張していた。


心臓から口がとびだしそうだった。汗から皮膚が止まらないを。


面接の脳内シミュレーションはばっちりだ。ガタイのいい、いかにもウホッ☆ないかつい社長相手に「うちの職場は甘くねーぞ?」ってガンくれられるんだろうな。面接官様、小指とかちゃんとあるんだろうか?背中に鯉とか龍とかの落書きがびっしりなんじゃないのだろうか?


なんでこんなにびびってるかって?


求人サイトをよく見ないで電話しちゃったんだけどね?ハウスクリーニングだから、おばちゃんばっかりの職場かと思っていたのね?でも、塗装屋さん(完全に職人、男の職場)じゃん?塗装屋さんが、ハウスクリーニングのお仕事も請け負っておられるみたいですよ?


面接したいんですけど~、求人サイト見たんですけど~(´ω`)って軽い感じで電話したらね?野太い声でね?


「笹山塗装店です、ご用件をどうぞ」


ってね?津田健次郎さんみたいな声でね?なんでもありません、って電話きれずに面接したいって言っちゃったのさwwwww


だって、携帯電話だよ?履歴残るじゃん?間違えましたとかいえねーじゃんw


はい、長々と長々しましたが、わたくしは十年ぶりに面接をいたしますよ、と。あぁ、事務所の前に軽トラとか軽ワゴンがたくさん止まっちょるばい。やっぱ完全なる職人の作業場じゃん、怖いを(;´д`)イヤァァァァ


事務所に笹山組とか、看板とか代門とかかかげてないよね?日本刀とか飾ってないよね?従業員のみなさま、ちゃんと小指あるよね?


俺は、恐る恐る事務所の扉を開けた。


ええええええい、ままよ!!!!男は気合いだ!


「おはようございます。本日面接に参りました。神島栄治です、よろしくお願いいたします」


俺は、頭をさげた。さげまくった。なんなら一生、このままでいたかった。


「おはようございますぅ~。神島さんですね?ようこそおこしくださいました。わたくし、笹山塗装の代表の、笹山美優ですぅ~」


間延びした、おっとりとした優しげな女性の声がした。


ん?


俺は頭をあげた。


目の前には、スーツ姿でタイトスカートをはいた、栗色の長い髪を後ろでくくった、丸メガネがチャーミングなお姉さんが、名刺を差し出して微笑んでいた。


ん?え?代表?代表って?社長?ん?


とりあえず、名刺を受け取った。名刺には、『笹山美憂、笹山塗装店代表取締役』と書いていた。


あれ、もしかして・・もしかしたら、この方が面接官?


「神島さん、お座りください。面接をいたしましょう」


優しそうなお姉さまに促され、俺は席についた。テーブルを挟み、対面に座ったお姉さんに、俺は履歴書を差し出した。


「神島、栄治さんですね。前職は、ホテルで働いていた、と。お辞めになった理由はを聞いてもよろしいですか?」


「ずっと調理師見習いをしていたのですが、経営不振で倒産してしまいました・・・」


「あらあら、調理師さん!お料理がおとくいなんですかぁ~?」


「はい、まぁ。簡単な和食程度なら」


「お料理が得意なんて羨ましいですぅ~。今度、お料理教えてくださいねぇ~」


「はい。機会があれば」


ん?これが面接か?怖い人が出て来て圧迫面接するんだろうなって思っていたのに、ホワホワとした癒し系美人お姉さんとの二人きりの会話。なにやら良いカホリがする。スーツの上からでも、はち切れんばかりのバストにタイトスカートからのぞく白くて柔らかそうな太もも。


あぁ・・・・ここは天国だ。


俺は、膨大なプレッシャーから解き放たれた解放感にひたっていた。


思えば、一週間以上、人と会話してなかったっけ・・・。


言葉を発するときといえば、コンビニ弁当買うときに、店員さんから「お弁当あたためますか?」と聞かれ、「はい」←これだけ。


漫画喫茶に行った時、店員さんに「禁煙のフルフラットで」←これだけ。


映画館に行った時、店員さんから、「座席はどちらになさいますか?」と聞かれ、パネルを指差して「ここで」←これだけ。


日本語忘れるわwwwww


表情筋衰えるわwwwww


あぁ、来てよかった・・・。


あれだね、天使っているんだね?


10分ほどお姉さんと語らっていたら、ふいに事務所のドアが開き。


「失礼します」


電話で聞いたことのある、あの、野太い声がした・・・・。


俺は、恐る恐る振り向いた。


事務所のドアから現れたのは。


身長は軽く180を超え、細い眉毛に坊主頭。眼光鋭く、紺色のつなぎを着た、いかにも、その筋の人。しかも多分、若頭クラスだ。


そのかたの紺色のつなぎの胸元が、真っ赤に染まっているではないか。


あ、終わったな。


あれですよね?今まで俺が天使だと思って話をしていたかたは、いわゆるそのあの、「極道の妻」的な人ですよね?変だと思ったんだ~、「こんな綺麗なお姉さんが塗装店の代表なはずがない」。まるでラノベのタイトルみたいだ、ははは。


このお姉さんは天使ではなく『アネさん』とか呼ばれてる人だ。


俺が鼻の下を伸ばしていたから、俺をヤリにキタノデスネワカリマスチョウシコキマシタスイマセンウマレテキテゴメンナサイ。


俺は死を覚悟した。走馬灯を見た。とくに思い出したいと思うような素敵な思いでなどなかったw


「社長、昇太のやつがペンキこぼしちまって、変わりのペンキ買ってきます。作業が2時間くらい遅れちまいそうです、すいません」


坊主頭の若頭さんが、礼儀正しく頭を下げた。


「あらあら、作業服が汚れてしまいましたね?」


天使がかけより、胸元からハンカチをだして、真っ赤な返り血(ペンキ?)をふこうとしていた。


「し、社長、そんなもんでペンキをふいたら落ちなくなっちまいます」


「でも、早く落とさないとシミになっちゃいますよ~?はやく脱いでください、お洗濯しますから~」


「い、いや、自分でやりますんで!」


「ほら、はやくはやく!はやく脱いでください~」


顔を赤く染め、あたふたしている若頭、可愛い。


意外と、うぶなんだな、若頭。


天使は、頭ひとつぶん以上背が高い若頭のつなぎを脱がそうとやっきになっているが、若頭はペンキが天使につかないように、あと美人巨乳に密着されそうになり、必死に身を引いている。あれ?AVの撮影かな?あたふたしている若頭可愛いwww


「し、失礼しました!ペンキ買ってきます!」


若頭、逃亡。


天使の勝利。


絡みのシーンは、また今度。


「あらあら、私、嫌われているのでしょうか?」


天使が、困った顔でこちらを見てきた。


あなたが、美しすぎるからいけないんですよ?なんて言えなかった。


天使がイスに座り直し、面接が再開された。


「さっきのかたは、従業員の須藤さんです~。塗装を専門にやってもらっていて、新人さんの教育をかねて、隣の空き家を物置にしてもらっていたんですよ~」


あ、従業員さんだったのか。そうだよね、若頭がつなぎなわけないし。小指はちゃんとありましたし。


「うちはもともと塗装屋だったのですが、クロス張りやハウスクリーニングなど、業務拡大をしているのです~」


「あ、それで求人をだしていたんですね?たまたま求人サイトを見て面接に来たんですが、未経験でも大丈夫ですか?」


「もちろんですよ~!ハウスクリーニング専門の従業員さんが、まだ二人しかいないので、神島さんのお力を貸していただければ~」


「はい、体力には自信があります!未経験ですが、頑張って仕事を覚えます!」


「頑張ってください~!ちなみに、いつからお仕事はいれますか~?」


ん?いつから?いや、いつでもいいけど。


「いつでも、大丈夫です」


「では、明日から~」


ん?明日から?


「いきなり明日からは無理ですよね~。神島さんのご都合にあわせますよ~」


あれ?これって・・・。


「あの~、明日からでも全然大丈夫なのですが、すぐに働けたりするんですか?」


「はい~。神島さんがよろしければ、すぐにでも~」


どうやら、受かったみたいだ。


俺は、調理師見習いから、ハウスクリーニング見習いにジョブチェンジした。


チャラチャラッチャラ~♪


ちなみに、じっさいに個人経営のお店だと割りとこんな感じで採用されたりするよ。あっさりとねw


面接を終え、ホームセンターにて長靴と上履きを買いそろえた。


明日からの仕事で必要な物で、道具などは全て会社持ちらしい。


しっかし、あの須藤さんて人、礼儀正しい人だったけど怖そうな人だったな~。いかにも肉体派!って感じで。俺は背が高い方で178くらいあるが、俺よりも高いし、ガタイよかったな~。


須藤さんは塗装専門だって言ってたから、須藤さんが俺の教育係になることはないだろう。そういえば、新人さんの教育してるって言ってたな。新人さんって言っても、怖い人なんだろうな・・。須藤さんが若頭なら、新人さんはヤクザの舎弟みたいな・・。やだ、怖いを。


なんだか怖くなってきた。


とりあえず、今日は早く寝よう。明日は仕事だ。天使と若頭、か。


俺は寝袋に包まれ、目をつむった。


あ・・・・寮の話してね~じゃん。


とか思いながら、俺は10秒ほどで意識をなくした。


朝早く起きて、洗面をすませて、いざ新たな職場へ!


一応、刃物対策として腹に漫画雑誌いれといたほうがいいかしら。


「みなさん、おはようございます~」


笹山塗装店の朝のレクリエーションは、美憂社長の挨拶から始まった。


「今日はみなさんに、新人さんを紹介します~。ハウスクリーニングを担当してもらう、神島栄治さんです!拍手~!」


「おはようございます。今日から働かせていただきます、神島栄治です。未経験ですが、よろしくお願いいたします」


俺は天使の横に並び、しっかりとあいさつをした。


従業員は俺をいれて、全員で八名だった。


「こちらから、塗装担当の須藤さんと、新人さんの昇太君です~」


「よろしくお願いいたします」


天使が、須藤さんと新人さんの紹介をした。俺は、必要以上に頭を下げ、あいさつをした。


「おはようございます、須藤です。」


「おはようございます。佐久間昇太です」



須藤さんは昨日と同じつなぎ姿で、返り血は付いてなかった。


須藤さんの横で、爽やかな好青年が笑顔を浮かべていた。


佐久間昇太、さん。若いな。


須藤さんは、俺より上で40歳くらいだろう。佐久間さんは、20くらいかな?背は俺より少し低いくらい。明るめの髪を無造作に立て、目の下に絆創膏を貼っていた。塗装屋というよりも、バーで働いていそうな感じ。


「次は、クロス張りを担当してもらっている、安達さん、目黒さん、鈴木さんです~」


「よろしくね!ハウスクリーニングは俺やりたくないから、しっかりたのむよ~!」


「亮さん、あんまりプレッシャー与えちゃダメですよ~!俺、神島さんとたぶん同い年っす!よろしく!」


「鈴木です。ハウスクリーニングからクロス張りに移ったんで、教えれることはあると思いますから、なんでも聞いてくださいね」


安達さんは、50くらいだろうか?長年この仕事をしているベテランって感じの渋いおじさまだ。


俺と同い年と言った目黒さんは、ニッカポッカに作業服姿。頭にはバンダナを巻いていた。確実に元ヤン、だなw


元ハウスクリーニングらしい鈴木さんは、安達さんより年上だろう。安達さんと目黒さんよりだいぶ小柄ながら、体はたくましく、オールバックの髪型が特徴的だ。



「そして、ハウスクリーニングを担当してもらっているのが、純奈さんと友梨香ちゃんです~」


「よろしくお願いします。未経験なんで、いろいろと教えてください」


俺は、二人にあいさつをした。この二人から仕事を学ぶことになるだろう。ハウスクリーニングは、二人とも女性だった。


純奈さんと呼ばれたほうは、年は28くらい。女性にしては背が高く、170くらいのモデル体型。明るくて髪い髪を後ろで無造作に束ねている。胸元が開いたカットソーの上からジャージを羽織っている。目のやり場に困るぜ。


友梨香ちゃんと呼ばれたほうは、年は20らしい。若い。しかも、かなり小柄だ155くらいだろうか。若い。


黒髪のロングをポニーテールにしている。目がくりっとしていて、小動物園系の愛らしさがある。


「男性のハウスクリーニング担当来たねー!よろしくね、栄治くん!あたしは純奈、純奈でえーよー。ゆり~、やったじゃん!男だよ、男!」


「もう、純ねぇ!失礼だよ!」


「失礼もなにもないじゃん!あたしらの後輩だよ?可愛がってやらんと~」


「年上でしょ!後輩とか関係ないよ!」


「んなこと言って~!ゆりも嬉しいだろ?お・と・こ。嬉しいくせにー」


「んもう、変なこと言わないでよね!」


モデル体型の美人さんが、小柄な小動物系美少女をからかい、きゃっきゃうふふな百合百合パラダイス。ごちそうさまです!!!


「今日は、友梨香ちゃんと現場に行ってもらいますね~。はい、ノート」


俺は、天使からセ○ンイレブンで買ったとおぼしきノートとボールペンを受け取った。家宝にしよう。実家ないけどw


「今日は、とりあえず友梨香ちゃんが作業しているのを見て、ノートにメモしながら流れを覚えてくださいね~。では、いってらっしゃ~い」


天使からのお見送り。ご褒美だ。


とりあえず、今俺がなにを言いたいかと言うと。


どちゃくそ怖い人しかいないんだろうなって思ってたからめちゃくちゃ怖かったけどなんとか挨拶も無事すませられて


良かったぁぁぁぁああああ!


女性がいる職場、最高だぜ!!!


そして、俺はセブ○イレブンのノートとボールペンを持って、軽トラの助手席に乗り込んだ。


運転席には、小柄な女性。


軽トラと小柄な女性。


ミスマッチ!!!


「とりあえず、美憂さんの言っていたように、今日は仕事を見ていてください。」


「あ、はい。わかりました」


「ふふっ。緊張してます?」


「そうですね。ハウスクリーニング、したことなくて・・」


俺、未経験なんです・・・。


「私はこの仕事を初めて2年になりますけど、私ができるんだから神島さんなら余裕ですよ、余裕!」


2年、ということは、高校卒業してすぐかな?などと思った。俺は、高校卒業してから、無駄にプラプラしてたな~無駄にね。


「まずは、現場の確認をしてください」


紙を渡された。今からいく現場が書かれていた。住所と部屋番号と間取りと、物置やポストなどがついているかいないか、などなど。


「確認したら、今からいく現場の住所を携帯で調べてナビしてください。神島さんの、初任務です!」


やばい、仕事をふられたぞ。携帯を取り出して住所を打ち込む。ここから車で30分。


「とりあえず、まっすぐ7キロです」


「了解しました。神島さん、運転得意ですか?」


「恥ずかしながら、軽自動車くらいしか運転したことなくて・・」


33の成人男性が、恥ずかしいこと言ったった。


「私も最初はおっかなびっくりでしたよ。軽トラと軽ワゴンは運転できないと現場いけませんよ?」


「が、頑張ります・・・」


運転、ちょっと苦手なんだよな。ゴールド免許だけど。


「神島さん、私年下なんですから、そんなに固くならないでくださいよ~」


「いえ、先輩ですから」


「え~。友梨香でいいですからね、友梨香で」


「いやいや、下で呼ぶのは勘弁してくださいよ!」


「いいじゃないですか!みんな下の名前で呼びますよ?」


「いやいや、まじで勘弁してくださいよ。とりあえず、名字教えてください」


「嫌です」


「じゃぁ・・・先輩で」


「年上から先輩って呼ばれたくありませんよ~!佐藤です、佐藤。」


「はい、よろしくお願いいたします。佐藤さん」


「神島さん、なんだか意地悪ですね」



仕事初日、女の子と楽しくドライブ。


まったく、最高だぜ!!!!!!!


現場につき、バックで一発駐車をきめた佐藤さん。


うわ、俺たぶん無理だな。ださいとこ見せたくないな。って思った、切実に。


現場は、アパートの一室。住人がいなくなった部屋を綺麗にするのが、主な仕事らしい。


軽トラの荷台から掃除機や脚立、道具を降ろしたら、ハウスクリーニング開始!


佐藤さんは無駄な動きがいっさいなく、てきぱきと仕事をこなしていく。


汚れのこびりついた小物は洗剤を吹き掛けて浸けおきし、脚立に登って手際よくハケでホコリを落としたらエアコンのパネルを外して洗剤を吹き掛けて。


掃除機をかけたらベランダや玄関、窓やトイレやお風呂場も。


素人が見ても、すごく手際がいいように思えます。


佐藤さんが動くたびに、揺れるポニーテール。


まったく、最高だぜ。


ノートをとりながら佐藤さんの動きを追っていたら、あっという間にお昼になった。


「さて、ご飯にしますか。なに食べます?」


佐藤さんが、水道を止め、電気を消しながら聞いてきた。お昼ご飯か、なんでもいいや。


「あ、コンビニでいいですよ」


「ダメです!!!」


お、怒られた。


佐藤さんは俺にブラシをつきつけ、上目使いで俺に詰め寄ってきた。


「神島さん、もしかして毎日コンビニのお弁当ですませてます?」


「あ、いえ、いや、その・・」


「ダメです!!!ダメダメです!!!」


佐藤さんは、俺の喉元にブラシをつきつけ、さらに詰め寄ってきた。


「神島さん、自炊しないんですか?というか、美憂さんから調理師やってたって聞きましたよ?家で料理はしないんですか?」


「家、ないです・・・。今は、車中泊してます・・・」


「・・・・車中・・・え?家がない?」


佐藤さんの目が点になり、喉元のブラシが下ろされた。


「すいません、今から美優さんに電話しますから。お昼ご飯はもう少し待ってください」


「ちょ、ちょっと待って!佐藤さん、ダメ!ストップ!」


俺は、佐藤さんの携帯を奪い取った。住所不定なんて知られたら首にされるかもしれないし、身元保証人とか聞かれたら答えられない。


「あ、携帯返してください!電話できないじゃないですか!そっちがそうくるなら!」


佐藤さんは、自分の携帯を諦め、俺のズボンのポケットをまさぐりはじめた。


ちょ!まっ!


「神島さんの携帯どこですか?後ろポケットですか?」


いや、やだ、そんなとこ触っちゃらめぇぇぇぇええ!


佐藤さんが、小柄な20の女の子が、俺の尻をまさぐっている!!!!


俺は、佐藤さんに携帯を返した。素直に返した。この状態は非常にまずいだろう、と。


「佐藤さん、住所不定で身元保証人がいないなんて知れたら、俺くびになっちゃいますよ!勘弁してください!」


俺は、必死に頭を下げた。初日から首とか笑えないw


「うちの会社は大丈夫ですよ。私も、同じようなものですから」


え?


「私、孤児なんです。両親や親戚いなくて。だから、身元保証人とか、そういったものはぜーんぶ、問題なしです!」


佐藤さんは、笑顔だった。会ったばかりの俺に、そんなことを。


「あ、美優さん。お疲れ様です。あのですね」


佐藤さんが電話をしているのを、俺はただただ呆然と見ていた。孤児、か。なんだか、聞いてはいけないようなことを聞いてしまった。だが、佐藤さんは、変わらず笑顔で、楽しそうに話をしていた。



電話が終わり、軽トラでファミレスへ。ファミレスの駐車場に、軽トラ。ミスマッチ!


お昼休憩は、わざと混雑した時間帯は避けてとるらしい。だいたい11時30分ころが望ましい。12時を超えると、いっきに客がなだれ込んでくるらしい。今日は電話の時間で押したから、時刻は12時。


満席である。


あれだけ騒いだが、けっきょくはセブ○イレブンへ行き、お弁当ですませましたとさ、チャンチャン♪


「神島さん、まだ隠してること、ありませんよね?」


「前の職場が倒産して、寮を追い出されてからは、毎日車中泊。求人サイトで、寮相談可って書いてあったから面接を受けました。まさか、面接の次の日から働けるなんて思ってなかったから、寮の話とかなにもせずに、とりながら今日出社いたしました。以上であります」


「よろしい。美優さん、怒ってましたよ?そういう大事なことは早く言いなさいって。」


「車中泊してる、なんて恥ずかしくて言えませんよ。33で寝袋生活ですよ?」


「寮相談可、なんですから相談しなきゃこの職場に来た意味ないじゃないですか。私も、寮暮らしですよ。美優さん、面倒見がいいから、すぐにでも見つけてくれます。あぁ見えて、顔広いんですよ?うちの社長」


「助かります。あぁ、布団で寝たい」


コンビニの幕の内弁当を食べ終わり、ペットボトルのお茶をすすった。あぁ、染みるぜ。


「今日、住むとこ決まらなかったら、美優さんのお部屋で寝れますよ?」


俺は、すすったお茶を吹き出した。


「はぁ?なに言ってんの?なに言ってんの?」


「ちょっと、早く吹いてくださいよ!冗談ですよ!もう、なにしてるんですか、もう!神島さん、ズボン濡れてますよ?」


なんだよ!冗談かよ!俺は、窓に吹き付けたお茶をセブン○レブンでいただいたおしぼりでふいた。吹いたお茶を、ふいた。なんちゃって。ズボンのシミは、もういいや、自然乾燥で。


「・・・・神島さん、本気にしましたか?今の話」


「いえ?!全然?!まったく?!これっぽっちも?!」


「じゃぁ・・今日は、私の部屋、来ますか?」


下を向き、顔を赤らめる佐藤さん。横目でちらちらと俺を見てくる佐藤さんに、俺は・・・。


「はい、また冗談ですね。わかります。」


「美優さんのときとリアクション違いすぎませんか!」


はい、お昼休憩終わりーーーーーー。


午後になって、佐藤さんの作業スピードはさらに上がった。


窓や天井の小さな汚れも、注意深く探しては、布に洗剤をつけて拭き取っていく。


落ちる汚れと落ちない汚れ(経年劣化によるシミなど)の線引きが早さの秘訣だとか。


最後に、丁寧に掃除機をかけたらワックスをかける。


小学生のときに、校舎のワックスがけしませんでした?放課後やらされた思い出がよみがえる。


ワックスをかけたら、もう部屋には戻れない。忘れ物がないように、荷物はあらかじめ軽トラの荷台へ。


玄関に汚れを残さないようにドアを閉める。


「お疲れ様でした。どうでしたか?」


佐藤さんは疲れなど見せず、笑顔だった。


「はっきり言って、一人とか無理ゲーだと感じました」


「今日のお部屋は1部屋だったのでまだまだ楽な方ですよ。一人でも二部屋とか、エアコンが2台とか、窓が六枚とか」


今日の部屋は、1部屋で窓は2つ。エアコンは1台。これが、単純に倍になる?それを一人で?無理ゲーw


「まぁ、実践あるのみです!では、事務所に戻りましょう。」


時刻は4時30分。定時は5時。移動時間は30分。軽トラは、定時ぴったりに事務所の駐車場へと止められた。もちろん、バックで。もちろん、一発駐車である。


佐藤さん、恐ろしい子(;´д`)スゲェェェェ


事務所に戻ると、笹山社長が詰め寄ってきた。


「神島さん!友梨香ちゃんから聞きましたよ!お家がないみたいですね?なんで早く言ってくれなかったんですか?」


ぷりぷりと怒る笹山社長。怒っても全然怖くはない。むしろ、可愛らしい。こんな美人に怒られるとかご褒美である。コアリクイの威嚇のポーズ、に近い可愛らしさがあるなって思いました。


「いや、車中泊してます、なんて言えませんよ。黙っていてすいません」


「社員を車の中で寝泊まりさせていた、なんてありません!しかも、友梨香ちゃんには言えて私には言えないなんて、ありません!」


「美優さんより、私の方が言いやすいってことですよね?神島さん?」


佐藤さんが、笑顔で爆弾落としやがった。それ、いらなくねw


「そうなんですか?私には相談できないことも、友梨香ちゃんになら言えると?私、そんなに信用ないですか?話しかけづらいですか~?」


「今日1日で、神島さんのこといろいろ知れましたよ?いろいろ、ね?神島さん☆」


「なんですかなんですか!私にもいろいろ教えてください神島さん!友梨香ちゃんだけ、ずるいですぅ~!」


その後、ぷりぷりとしたコアリクイの威嚇が30分ほど続いた。従業員のみなさまが戻ってきたので、挨拶をし、それぞれにタイムカードを押して帰っていった。


みなが帰り、残ったのは、俺と爆弾とコアリクイ。


早く帰りたい。帰る場所ないけどw


「あの、俺たちもそろそろ帰りませんか?みなさんお帰りになりましたし・・・」


「美優さん、神島さんは早く帰りたいみたいですよ?初日から小言は聞きたくないみたいですし、早く帰らせてあげてください」


それ、いらなくない?なんで爆弾落とすの?佐藤さん、恐ろしい子(;´д`)イヤァァァァ


「そうなんですか?早く帰りたいんですか?こんなとこにはいたくないと?辞めたいと?神島さん、辞めたいんですか?」


佐藤さんの一言に、笹山社長は涙目になり、俺の裾をひっぱりだした。ラブリー。


「いや、辞めませんよ!続けさせてください!とりながら、とりながら今日は帰りましょ?ね?」


「ま、神島さんは帰る場所ないみたいですけどね☆」


「あ、そうでしたぁ~!どうしましょ~!お部屋はまだ見つかってませんし!」


このアマ(佐藤さん)、俺のこと帰らせる気ね~な!


「神島さん、今日はとりあえず私の部屋に来て下さい!車中泊なんてゆるしません!」


「は?え?なに言ってるんですか!無理ですよ、無理です!社長の部屋なんて泊まれませんよ!」


「神島さんは、美優さんのお部屋は嫌だって言ってますよ?」


このアマ!!!!!!


「・・・・。やっぱり嫌なんですね?私のことが嫌なんですね?だから、相談したくないんですね・・・?」



「ですから、それはないですよ!女性の部屋に泊めてもらうなんて、できませんて!」


「今日は、私の部屋に泊まるんですもんね?神島さん、では私の部屋を案内します。歩いてすぐですから。」


「やっぱり、私より友梨香ちゃんのほうがいいんだぁ~。私は従業員からの信用がない、相談もできないようなダメな経営者なんだぁ~」


「あぁもう!とりあえず帰りますから!明日もよろしくお願いいたします!失礼しまぁぁぁぁぁぁす!」


俺は、ダッシュで事務所を飛び出し、車に乗り込み、いつもの寝床(道の駅)に向かった。


入浴施設がある道の駅。今日はいろいろあったな、と思い出しながら湯に浸かる。


疲れた。


なにもしてないけど、疲れた(主に心労)。


湯から上がり、コーヒー牛乳を飲み干す。


あぁ、この一杯のために生きてるんだなぁ。


体をふき、車に戻る。


ふと携帯を見てみたら、知らない番号からの着信が20件。やだ、なにこれ怖い!!


着信あり。(懐かしいよね、着信あり)。


かけなおすか?いや、怖いよね、なんて思っていると、また。


着信あり。


(;´д`)イヤァァァァ


着信あり。


わかったよ、でるよ!こんな調子でかけてこられたら、携帯のバッテリー無くなるわ!ちなみに、俺は高額な大容量バッテリーを2台車に積んでおる。お高いやつね。


「もしもし?」


「がびじまさんでずが?やっどでんわにでてぐれたぁぁぁぁ~」


「・・・社長?」


「しゃじょうでず、がみしまざん、やめまぜんよね? 」


あぁ、鬼電の犯人はコアリクイか。しつこいな、メンヘラの彼女かよ。24のときの元カノ思い出すわ。


「社長、さっきはすいませんでした。ただ、社長のような綺麗な女性のお部屋に泊めてもらうわけにはいきません。あと、仕事は続けさせてください。なにも言わずにやめたりはしません。寮のことを相談しなかったのも、言うタイミングがなかっただけで、相談するつもりでした。」


「ほんどでずか?ほんどでずね?」


しつけーな。


「はい。また明日も、よろしくお願いいたします」


「ちゃんど、ぎでぐれまず?」


しつけーな、行くって言ってんだろ。


「はい。ちゃんと、出社いたしますから、泣かないでください」


「ないでまぜん」


いや、その嘘なんだよ。


「わかりました。社長、おやすみなさい。失礼いたします」


「おやずみなざい」


巨乳美人経営者、笹山美憂の仮面が剥がれ、メンヘラコアリクイの一面を知った、神島栄治だった。チャンチャン♪



次の日。


出社してみたら、目を真っ赤にした笹山社長がいた。


ウサギか!!!!


従業員さんたちが、とまどっておられる。


とりあえず、今日は佐藤さんではなく、純奈さんに同行させてもらうことになった。


純奈さんに名字を聞いたら、「なんで?名前でえーやん、あたしも名前で呼ぶし」と真顔で言われたから、そうします。サバサバとした女性は苦手である。


俺は、今日も助手席だ。


軽トラではなく、黒のアトレーである。


「んじゃ、行くよー。栄治くん、ナビよろー」


紙に書かれた住所を携帯で調べて、ナビを起動。


「この道を、まっすぐ七キロです」


「あいよ。昨日は、ゆりの作業を見るだけだったっしょ?今日は、バリバリやってもらうから」


「はい、よろしくお願いします」


「固い、固いよ栄治くん。敬語は無しで行こうよ、年も近いんだからさー」


女性に何歳ですか?は聞けない。ま、30よりは下だろう。


「いや、一応先輩だし・・」


「いいじゃんいいじゃん!んなもん関係ないって!みんな敬語なんてつかってないよー?」


やはり、こういった女性は苦手だ。なんとなく恐縮しながらの会話をしつつ、現場についた。ちなみに、純奈さんの運転は、かなり荒かった。


現場の駐車場に停めた車が、微妙に斜めってるし。


今日の現場は昨日よりも広いアパートで、二部屋あった。


後部座背から荷物を降ろし、作業開始。


「よし、まずはホコリ落としから。栄治くん、これあげるからやってみて」


俺は、純奈さんから小さなホウキを渡された。


「それは、ラスターっていうから。覚えといて」


ラスター、ホコリを払うための道具で、豚の毛100%らしい。ペンキを塗るときのハケみたいなやつだ。


「まずは、天井からホコリを落として、上から下に落としていってね?これ、基本だから」


純奈さんは、脚立に登って手際よくホコリを落としていった。実際にやってみたが、たかがホコリ落としとあなどるなかれ、見るのとやるのじゃ大違いだ。難しい。


「んじゃ、次はエアコンのカバー外してみ?これで、エアコンのネジをはずしてみてよ」


純奈さんから、インパクト(自動ねじ回し機)を渡された。レバーを押すだけでドライバーが回るやぁーつ。


エアコンのネジは、だいたい四ヶ所らしい。脚立に上り、インパクトを使ってネジは外せたが、エアコンのカバーがなかなかはずれない。


俺は、五分くらいエアコンカバーと悪戦苦闘した。それを見かねた純奈さんが、俺の真横に脚立を立てて。


「いいかい?この位置から、横に指をずらしてごらん?」


純奈さんが俺の手をつかみ、エアコンカバーの接続部分をなぞっていく。


「ここと、ここと、ここ。わかるかい?」


純奈さんの柔らかな手の感触。耳元でささやかれ、かかる吐息。密着しているせいで、かすかに当たる、胸の感触。


「はい、あと五分以内にエアコンカバー外せなかったら、昼飯抜きねー」


あ、やっぱりこの人、元ヤンだな。


俺の今日の昼飯は、ペットボトルのお茶だけであった。チャンチャン♪


実際にハウスクリーニングの仕事をしてみると、かなりハードだった。休んでいる暇はないし、動きっぱなし。立ったり座ったり、中腰だったりと、体全体を使う。


腕はぱんぱん、足と腰が痛くなり、洗剤が目に痛い。


「よし、なんとか時間内に終わらせれるね。はい、頑張ったご褒美」


時刻は3時。俺は純奈さんからオニギリをいただいた。セブ○イレブンのツナマヨだ。うわ、まじ嬉しい。


「栄治くん、どうよ?疲れるっしょ?」


「そっすね 。かなりの肉体労働ですね」


「まーねー。でも綺麗にすると気持ちいいよね。晴れた日のベランダ掃除とか、最っ高」


それはわかる気がする。ベランダの泥やゴミをホースの水で流し、洗剤をつけたブラシでひたすら磨く。エアコンの室外機も同時に綺麗にするのだが、目に見えて綺麗になると、気持ちがいい。


「よし、ラストスパートいこうか!」


俺と純奈さんは、それぞれに役割を分担し、定時までに作業を終わらせて事務所へもどった。


二日目、終了。



















































































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ハウスクリーニング!!! こば天 @kamonohashikamo

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