誰かに愛されたいと思うのはいけないことですか

津島

一編

追記

 後書きにもあるように「序」は本編とは全く異なる書き口なので、この手の書き方が私と同じで苦手な方は、読まずに次へ行って下さい。作品全体は純文学的なのですが全体の構成はラノベ的なのでどちらの方にも読んで頂けることを望みます。

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……え?


 何か、重量のある物が水面に落ちる音が耳元で響く。音はすぐにくぐもった鈍い波に変わる。冬の川の水はこれ以上なく冷たい。天の光が霞み視界は灰色に染まる。


 どうして……どうして?どうして。どうしてどうして。どうしてどうしてどうして。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして、どうして……


「どうしてよ!」



 ――やっぱりあの方はお嬢様を愛してはいなかったのでしょう。でももう大丈夫ですから……次の方は優しい方ですから……


 ――聞いた?あの棄てられたんですって。いい気味ね。

 ――あの汚い川に落っことされたんでしょう?汚くて哀れね。私なら棄てられたりなんかしなかったけど。

 ――元から魅力なんか無かったじゃない。だから愛想尽かされて棄てられたんだわ。ブスでバカな女。


 ああ、そうか。愛してなどいなかったのか。私は愛されてなどいなかった。あの人は愛してはいなかった。あの人が愛してなんかいなかった。あの人を愛してはいなかった。嘘だった。あの人は私を好きではなかった。あの人が好きではなかった。あの人は好きになってはいなかった。あの人は嘘だった。愛されてはいなかった。愛してはいなかった。好きではなかった。好かれてはいなかった。嫌いだった。嫌いだった。嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった、嫌いだった嫌いだった嫌いだった、嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった、嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌い。嫌いだった、嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌いだった嫌い、だった。









「違う!」










 ――違う。違うんだ。そうじゃない。そうじゃないんだよ……


 誰に許しを乞おうというのか。


 ――あのとき……は、


 馬鹿だった。どうしようもなく愚かだった。


 ――そんなことじゃない、そんなんじゃあない。


 言い訳が愚かなのか。己が愚かなのか。


 ――俺は、ただ……


 全ては己が招いた災禍。


 ――欲しかった!欲しいものがあった!


 これが強欲の罪というなら受け入れるしかない。ただ……


 ――そんなものは嘘だ!価値のない偽物だ!!


 自業自得。因果応報。おまけに性根はいまでも変わらない。


 ――全部自分が悪いのは分かってる!何を言っても無駄なことも!


 本当に分かってる人間はそんなことは言わない。


 ――ただ……


 後悔も懺悔も空虚でしかない。


 ――それさえあればそれで良かった!それさえあれば生きていけた!


 だのに


 ――誰も与えてはくれなかった!誰もそうしてはくれなかった!


 だから


 ――ずっと死んでいた!死にながら生きてきた!


 この身を終了させてしまいたいと何度も願った。


 ――でもいつかはそうなるかもって、明日は違うかもしれないって……


 ずっと誤魔化してきた。


 ――皆そうやって生きてることくらい分かってる!


 でもそんな簡単なことも自分にはできなかった。


 ――もう限界まで耐えたんだ!ずっと耐えてきたんだ!もう限界なんだよ……


 辛い。そう言える相手さえもいない。


 ――お願いだ。お願いだから……


 未来など望まなかった。今そこにあって欲しかった。


 ――誰か。誰でもいい、誰か、


 もう孤独には耐えられない。


 ――生きる意味を与えて下さい


 ただあたりまえに。両親がそうであるように。目の前の他人がそうであるように。自分も、


 ――ただ……


 人並みの幸福を手に入れられるものだと思っていた。人並みに生きていけるものだと考えていた。













 息を吸う。












 ……ぁ「あなたにそれを言う権利がおありですか?」








 あなたが悪いと言うのならその償いを済ませましたか?あなたはそれに見合うだけの行動をしましたか?後悔も反省もしているというのならなぜあなたは変わっていないのですか?ご自身が悪いと分かっていてなぜ謝罪の一つもないのですか?どうしてもっと努力しないのですか?あなたは最善を尽くしましたか?尽くそうという努力はしていますか?誰を愛してもいないあなたを誰が愛するはずがありますか?そもそもちゃんと反省しているのですか?自分が悪いと分かっていてどうして言い訳を繰り返すのですか?本当に自分が悪いと思っていますか?世界でご自身が一番不幸だとでも思っているのですか?あなたより不遇な者はいないとでも?あなただけが孤独だとでも?あなただけが辛いとでも?あなただけが死にたいと思っているとでも?とんだ勘違いではありませんか?皆頑張って生きているのですよ?どうしてあなたはそんな簡単なこともできないのですか?本当にちゃんとやってみようとしましたか?本当は甘えているんじゃありませんか?そのままで良いとでも思っているのですか?変われないのは仕方がないとでも?よくもそんなことで救って欲しいなどと言えたものですね?どうしてあなたは同じことを繰り返そうとしているのですか?どうしてあなたはまたしても愚かなのですか?どうしてあなたは何も成長していないのですか?どうしてあなたは何も学ばないのですか?どうしてあなたはどうしてあなたはどうしてあなたどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして











どうして






















「……どうしてだろうな。ずっと……」


 春の風には匂いがある。冬の澄んだ空気とは違う。生き物の匂い。土の匂い。お日様の匂い。あたたかい匂いがする……気がする。

 空は高く青い。大地は新緑の緑が果てなく続く。しかし我々は世界にはもっと沢山の色彩があることを知っている。


「え?」


「いや……ようやく分かったよ」


「どうしたの」


「……」


「……」


「…………」


「…………」


「………………………………………………………………………………………………ありがとう」


 …………


────────────────────



 一編 序 を書いたのは1.32を書いたあとになります。




  あとがき


 腹の底に何時も理性的で覚めた自分が居ます。どれだけ笑っていても泣いていても、その次の瞬間にはその自我は自身を客観的に見ることを私に強要し問いかけてきます。「それの何が面白いんだ?何が悲しいんだ?お前はそれが感動的だとでも思っているのか?素晴らしいとでも?全て下らない。全く下らない」お陰で私は歪です。

 私は絶対に自分に酔うことができない。常に自己を否定する第二の自我がすぐそばに在ります。そのせいで、「序」は深夜の忘我に身を任せて書き上げ、大変な苦痛を感じながら校正しそれ以来決して読まぬようにしている程です。このようなむき出しの感情を目にするのがこの上ない羞恥なのです。このような文章を衆目にさらすことがこの上ない羞恥なのです。

 ……そんな人間に人の共感を誘う良い物語など書けるのでしょうか……



──────────


 短編を書く積もりで書きましたから、そのままあとがきも書こうかと思いまして。


 実はこの手の書き口はあまり好きではないのです。どうしてもカッコつけすぎに思えまして……

 兎に角書いてみましたがいかがでしたでしょうか。当然の様に書ける方もいらっしゃいますが私にはそんな簡単なことではないのでね……

 これを書いたのは本編のほうが遅々として進まない為です。あれも書きたい、これも書きたい、あれはこれに繋がるから書かなきゃあいけないし……とこんな調子でまだメインの登場人物も揃っていない状況です。

 とは言え文字数はそれほどでもありません。問題はむしろ人にあります。つまり、作品が本題に入る前に飽きてしまうことです。それを防ぐためのこの「序」なわけですが、これがどの程度上手く行くかは未知数……私ではこれがどのくらい上手く書けているかすら判断できません。

 お察しの通り、これを読めば本編なんて読まなくとも……、……とはならないように頑張って書いていきます。

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