30――転移能力

帝国東部には、峻厳な山々に囲まれた遺跡がある。

その遺跡の地下には迷宮が広がっており、かつてそこに侵入したある冒険者パーティーが、そこで幻想種と遭遇したという報告がギルドに上がっていた。


俺とサラはその情報を元に、迷宮内を探索している訳だが。


「やっぱ簡単には行かないな」


もう既に3日ほど迷宮内を探索しているのだが、幻獣とは遭遇できていない。

迷宮は相当広いらしいので、ただ入り口となる場所に辿り着いていないだけかもしれないが、実はガセだったんじゃないかとそろそろ思い始めて来ていた。


「本当にこんな場所に、幻獣なんか居るのかねぇ。ま、他に手もないから続けるしかないけどさ」


俺は軽くぼやいて肩をすくめる。


鳥の幻獣に帝国に行けと言われたが、別にそこで幻獣を探せとは言われていない。

それでも態々探しているのは、他に関連しそうな手がかりが無いためだ。


「ごめんなさい……」


「ああ、別にサラのせいじゃないから気にするなって」


サラは自分がちゃんと幻獣から情報を聞けていない事を気に病んでいる様だが、どう考えてもあの鳥が悪い。

彼女のせいでは無いだろう。


「ま、急ぐ用もないし。二人を待ちながら気長にやればいいさ」


帝国へは俺とサラの二人で入国している。

実はエルフの村からはエマとドマの双子も護衛としてついて来る筈だったのだが、二人はまだ王国にいた。


何故か?


それは帝国に入国できなかったからだ。

エルフは森にすむ事を許されてはいるが、微妙な立場であるため、身分を証明する物が無かった。

当然身分証が無ければ、他国からの入国許可は下りない。


サラに関しては、ハイエルフが実質エルフの貴族や王族に当たる為、出生時にその身分を示す物が特別に国から発行されていた。

彼女はそれを使って帝国へと入国している。


「うん、美味い!サラこれ凄く美味いぞ」


俺は店の給仕さんがテーブルに運んできた、一口サイズの肉をフォークで刺して口に放り込む。

進めると彼女も食べ始めた。

この後も迷宮の探索があるのだ、しっかりと食べないとな。


ん?

なんで迷宮探索中なのに、食事処にいるのかって?


簡単な事である。

鳥から貰った転移の力で、食事の為に最寄りの街へと帰って来ているからだ。

食事だけではなく、寝る時は宿を使用している。


まあ快適とまでは言えないが、お出かけ気分で迷宮探索できるのは本当に有難かった。


それにこの能力があれば、やばい状況になった時即退散する事も出来た。

本当に便利な能力である。

後、転移だけでなく飛行の方も使いかっては悪くない。


今回の遺跡は険しい山々に囲まれている場所で――その為冒険者もほとんど訪れない――本来なら向かうだけで一苦労の場所だった。

だが鳥に変身する事で、俺は易々とそこへと辿り着けている。


貰った能力は本当に素晴らしい物だ。

これであの鳥が情報もきっちり与えてくれていれば、100点満点だったんだがな。

ま、ない物ねだりしてもしょうがない。


俺達は食事を終わらせ、少し休憩してから再び迷宮へと向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る