6――冒険者

「身分証明書をお願いします」


「はい」


俺は王宮から発行されている特殊な身分証を提示する。

王族時代は必要が無かったので持っていなかったが、王宮から追い出されるにあたり、手渡されていた。


それが示す身分は――当然只の市民だ。


「カオス・マックスさんで間違いないですか?」


受付の女性が身分証に記された名を確認してくる。

俺はもう王家の人間ではないので、シタイネンの性は名乗れない。

そこで折角なので、苗字を変える序でに名前も変えておいた。


カッコいいだろ?


「ええ」


「少々お借りしますね」


身分証は、魔法で情報が刻み込まれた名刺サイズの薄い金属版で出来ている。

受付の女性は、それをさっとスキャン用の魔法器具の上に翳した。

すると器具が身分証に記されている情報を読み取り、カウンターの奥にある特殊なモニターがその内容を映し出す。


受付嬢はその内容を確認して、俺に身分証を返した。


「では、登録いたしますのでしばらくお待ちください」


ここは冒険者ギルド。

その受付だ。

俺は冒険者登録の為に此処へやって来ていた。


「よっこらせっと」


おっさん臭い掛け声とともに椅子に腰かけ、手持ち無沙汰な俺は何となく周囲を見渡す。

辺りには、ガラの悪そうな連中が散見される。

とてもではないが、この冒険者ギルドはお上品な場所とは言い難かった。


まあそれも仕方のない事だろう。

冒険者ギルドは何でも屋に近い業態だ。

畑仕事から護衛や討伐まで、多種多様の業務を幅広く請け負っている。


とは言え、メインとなっているのは魔物の討伐系だ。


この世界には魔物が大量に存在しており、国もその対応に当たってはいるのだが、如何せんその数が多すぎて対応しきれていない。

そういった部分を補うのが、冒険者ギルドの役割のメインとなっている。


そのため冒険者には、腕っぷしに自信のある――ガラの悪い連中が者が多いのだ。


今もちょっとキョロキョロしていたら、目の合ったモヒカンのマッチョに睨まれてしまった。

ぶっちゃけ、居心地は死ぬ程悪い。


何せこちらは元王族上がりのボンボン――前世も平凡なサラーリマン――なのだ。

こういうアウトローっぽい場所には当然慣れていない。

早く登録と初仕事を受けて、さっさとおさらばしたい所である。


「カオスさん、お待たせしました」


落ち着き無くソワソワしていると、程なく登録が終わり名を呼ばれる。

カウンターまで行くと、受付のお姉さんは笑顔で赤銅色のプレートを差し出してきた。


これは赤銅カッパーの冒険者証で、この色は駆け出しを示していた。


仕事には役職がある様に、冒険者という仕事にも役職代わりにランクという物が存在している。

下から赤銅カッパーアイアンシルバースチールゴールド白金プラチナ金剛石ダイアモンド魔法金属ミスリル幻想金属オリハルコンの9種類に区切られており、ランクは高ければ高い程仕事面で優遇され、ギルドからの信頼も厚くなっていく。


「ありがとうございます」


冒険者証を受け取ると、今ならガイダンスと試験を受けられると受付のお姉さんから勧められた。

ガイダンスは冒険者の仕事の受け方や礼儀などの細かい説明で、試験とは実力を示す事で赤銅カッパーを飛び越え、強さに見合ったランクが与えられる昇格試験の事だ。


通常、試験は事前に申し込む必要があるそうだが、初登録者だけは優先的にそれを受ける事が出来る様だった。

きっと実力のある者をカッパーの仕事で腐らせず、一早く活躍して欲しいという狙いからだと思われる。


「一応、試験だけ受けさせて貰えますか」


冒険者の知識に関しては、1夜漬け程度ではあるが事前に調べて来ている。

そのため、講習を受ける意味はあまりなかった。


だが昇格試験は受けておく。

そうでないと、暫く赤銅カッパーとしてのしょぼい仕事しか受けれなくなってしまうからだ。


もちろん実力が伴わなければ試験を受ける意味はないのだが、王宮で教育を受けていた俺は、最低限の剣術や魔法を扱う事が出来た。

しかも強力な宝玉を取り込んでいるのだ。

正直、アイアン位は楽勝じゃないかと踏んでいる。


上手くすればシルバースタートも有り得るぞ。


「分かりました。では奥の扉にどうぞ」


受付嬢はカウンターの横にある扉を指し示した。

俺はその指示に従い、扉の奥へと進む。

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