異世界先生 ~転移教師、辺境の森で魔法学校始めます~

たかた

第1話 プロローグ:10年後 英雄教室

 この会合にお供として参加してしばらく経つが、やはり、いつみてもありえない顔ぶれだな、と思う。


「久しぶりだな、『帝国騎士団団長』どの。どうです、最近は?」


「お前は相変わらず元気そうだな、『ドラゴンテイル』。あと、その話しかたをやめろ。それに俺はもう団長じゃない。がついた」


「はいは――っておい、今の話本当か? 副、ってお前もう抜かされたのか。誰だ?」


「……俺たちの後輩」


「マジか」


「マジだ。俺もお前もまだ若いが、お前でも果たしてどうかな」


 鮮やかな青の光を放つ鎧を来た騎士と、古龍のひげで編まれたムチを腰に巻き付けた冒険者風の男が、久しぶりの再会を喜んでいる。


 話しの内容だけ切り取ると、もうそれなりの歳のように思われるかもしれないが、彼らはまだ二十代の半ばを過ぎたあたり。これから円熟期を迎えようかというところの、未だ伸び盛りの若手だ。


「まあ、『先生』が育ててるんだから、仕方ないんじゃない? あの人、歳を重ねるごとに教え方が上手になっていく感じだから。しかも指導能力も青天井っぽいし」


 ため息交じりの笑みを浮かべたのは、シックな黒の魔法衣に身を包んだ『魔導聖女』。


 彼女もまた、彼らと同い年で、五人いるうちのメンバーの一人。


「ところで、ジンとアリサはどこよ? 手紙、ちゃんと送ったんだろう?」


「送ったけど、相変わらず追っかけっこしてるみたい」


「どっちも負けず嫌いだからなあ……いい加減結婚しろよアイツら。両想いなんだから」


「そういうあなたはどうなのよ、マルス。四つ上の里のリーン姉さんは? 私宛に手紙来てたけど……あなた、最近家に帰ってないらしいじゃない? 姉さん、もうすぐ臨月だって」


「げ……あーもう、うっせーな。これから帰る予定なんだよ。ってかお前は『先生』とどう――」


「は? なにか言った?」


「――いえ、なんでも」


 帝国騎士団現副団長『聖騎士』ジョルジュ。


 世界三大冒険者の一人『ドラゴンテイル』マルス。


 神聖国の国立魔導研究所所長『魔導聖女』ミルミ。


 そして、この場にはいないが、通称『天下の大義賊』ジンに、そんな彼を追う賞金首狩り専門の秘密組織『秩序と天秤』の主要構成員アリサ。


 顔を合わせれば、昔に戻ったように無邪気な会話を繰り広げる彼らだが、五人とも、それぞれの場所で、それなりどころではない地位を得ている。


 それも、『学校』を15歳で卒業して、わずか10年というスピードで、だ。


 同じ年、同じ故郷くに、そしてから輩出された『一期生』の彼らのことを、彼らに近しいものたちはこう呼ぶ。


 英雄教室、と。



「――そういえば、最近『先生』に請われて久しぶりに『学校』に行ったのですが」


 私がそう口を開いた瞬間、三人の注目が一気にこちらへと向く。


「「「……いた?」」」


「ええ、まあ」


 苦笑して私が答えると、三人が『やっぱり』といった感じでため息をついた。


「つい先日、三年で俺を団長の座から実力で引きずりおろした『天才』のお前よりか? ビル」


「……ええ。剣の稽古をつけてやってほしいと『先生』に頼まれたのですが。逆に手も足も出ずにやられてしまいまして……」


 私の名はビルフォード。


 『先生』のもとを巣立ち、三年で帝国騎士団団長に就任した、『一期生』の先輩方と同じ学校を卒業した魔法剣士だ。


 この人たちとももちろん同郷である。


「ビルくん、ちなみにその子の学年は……」


「……一年生。まだ『学校』に入ったばかりの十二歳の子です」


「「「「…………」」」」


 呆れてしまう。


 英雄教室とまで呼ばれる三人、それから、その彼らに勝るとも劣らないはずの私の意見は、ほぼ一致していた。


 一番やばいのは、教えを受けた子供をほぼ例外なく立派に成長させる『先生』なのだと。

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