第3話「鬼を殺す夢」
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そこは、いつもの森の中だった。
俺は、鮮血に染まった刀を手に立ち尽くしていた。
もう、何十人……いや、何十匹もの鬼を斬ったんだろうか。
二十匹目からは、数えることをやめた。
人ならぬ存在といえど、鬼は人と同じ形をしている。
表情も人間のそれと同じで、言語も話す。
最初は使命感に燃えて斬りまくっていたが、今では鬼を斬殺することに抵抗があった。
まるで、自分が殺人鬼にでもなってしまったかのような錯覚に襲われるようになっていたのだ。
だから俺は、鬼を一匹、二匹と数えることで、鬼を虫と同じ扱いに落とした。そうすることで、自己肯定を強め、葛藤を抑え込み――今日も鬼を殺していく。
鬼も、必死だ。
俺の姿を見るや、先手を打って棍棒を振るってくる者、一組になって挟み撃ちしてくるもの、中には戦う前に悲鳴を上げて逃げ出す鬼もいた。
その全てを、俺は無感情に……いや、感情を押し殺して、斬り捨てていった。
奴らも最初は残酷そのものだった。
村人を皆殺しにしたり討伐隊を壊滅させて全員の首を撥ねて血祭りにあげたりと、手がつけられない状態だった。
だから、生家で鬼の残虐非道極まりない話を聞いたときに、絶対に許すことはできないと思った。
元は高名な武人だったという育ての親から家宝の刀『桃切』を拝借して家を出たのが一年前。それからひたすら戦い続けている。
ちなみに俺はもともと人間ではない。芝刈りに行っていた育ての親が、川から流れてきた巨大な桃を拾って、それを切ったら俺が出てきたという。そこで、桃太郎と名付けられた。まぁ、そんな出自はどうでもいい。
最初は使命感に燃えていたが、もう今は、鬼を殺すための道具のようになり下がっていた。
ひたすら鬼を殺すだけの日常に、疲れ切っていたのだ――。
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