地理と通貨と孫娘
「さて、今日からトモキにはこの世界の常識、自分の身を守れる最低限の力を身につけてもらう」
「は、はい」
暗記は得意だ、大丈夫。すぐ覚えてすぐ仕事終わらせてすぐ帰れば夏休みを満喫できるはずなんだ。
頬を叩いて気合いを入れる。ドンとこい!!
「まずは、今いる世界について知ってもらおうかのう。」
「はい!」
「この世界はすべての国が陸続きになっておる。回りを水に囲まれた孤島大陸と言い換えてもいいかもしれんな。
そして、この大陸は四つの国で東西南北に別れておる。北は帝国、西は商業国家、まあいろんな文化が集まった国じゃ。そして南は獣人と呼ばれる、人種で構成される公国じゃ。難しい頭の名前は今は置いておくぞ。
さて、ここから東に位置するわしらの国の話じゃ。まず、わしらの国は国王、公爵、伯爵、侯爵、男爵と貴族の身分が定められている。それ以外は平民として平等じゃ。国王は執政、公爵は金融、伯爵は立法、侯爵と男爵は司法と警備を一挙に、それが各位の貴族に与えられた国のためにする仕事じゃ。」
「すいません、少しだけ待ってください」
ダメだ、一気に口頭で言われると何もわかんねえ。えっと、国王執政、公爵金融、伯爵立法、侯男司警?んで確か北東西に帝国王国商業国家ってあって南に獣人の公国がある......だったな。
「止めてすいません、お願いします」
「わからなくなったら止めて構わんからしっかりと理解するんじゃぞ」
「は、はい」
「じゃあ続けるからの。今わしらがいるのは王国の中心、王都の東方面にある伯爵領。南には侯爵領、西に男爵領、北に公爵領となっておる。これがおおまかな地理についての話じゃ。あとは......通貨かの。」
うーん。なんとなく地図は作れたな。まあ考えるの忘れたらすぐにどっか行っちゃう位ふわっとした地図だけど。
ジャラララっと机の上にコインが並べられる。
「右の銅色の硬貨が1ゼル。銀色の硬貨かが100ゼル。金色のが1000ゼルじゃ」
日本の一円が1ゼルか?いや、こればかりは実際に市場を見て相場を確認してからじゃなきゃ判断できないな。金額はまあ金銀銅の順番なら分かりやすいしなんとかなるだろ。
「この通貨は全ての国共通じゃ」
ユーロ通貨と同じ......。つまり、この大陸の国々は何らかの協定を結び、互いに密接に関わり合っていると考えていいのか?
「とりあえずはここまでじゃ。文字に関してはわしがトモキの寝ている間に記憶に刷り込ませておこう」
「は、はい。わかりました」
記憶の刷り込み......え?この人そんなことできちゃうの?え、異世界凄すぎる。
「せええええい!!!」
中庭から声が聞こえた。女っぽい少し高めの声だ。
「始めたかの。ほれ、トモキも行ってくるといい。面白いものが見れるかもしれんぞ」
「わかりました。では、失礼します」
どういうことだ?面白いものって。今の気合いの声が何かあるのか?
「お爺様の、バカぁ!!」
廊下を出て、スルーレットの案内で中庭へ行くと、アンジュが木剣を案山子に打ち付けていた。
「あんなひょろっちい奴なんかに!」
カン、カン、と軽い木同士がぶつかり合う音が中庭に鳴る。
「あんな奴なんかにー!」
アンジュは両手で持っていた木剣を片手で
振り上げ、袈裟懸けに案山子に叩きつけた。
コン、という今日一番軽い音が鳴る。
それで満足したのか、木剣を案山子の後ろにある壁に立て掛け、笑顔でこちらに振り向いた。
「凄いですね」
小さい子は褒めて上げると伸びる。そう何かの本で読んだことがある。だから、精一杯の笑みで、今の所業を褒めた。
「あんた......なんでここにいる訳?」
怒りを隠そうともしないアンジュの目尻が、どんどんつり上がっていく。これは、地雷を綺麗に踏み抜いたパターンだな。褒めただけなんだが......。
「伯爵様に面白いものが見れると言われましたので、ここにいます」
「そう......」
ん?怒らない?伯爵のこと引き合いに出せばこいつは怒らないのか?そうだ、お爺様のバカとか叫んでたな。なるほどねー。
俺がニヤニヤとアンジュを見つめていると、彼女はどこからか木剣を三本持ってきた。
「これ、あんたのね」
ひょいと投げられた木剣は、片手で持つには重すぎた。仕方ないので両手を使い、軽く振ってみる。
「ん、なかなか、辛い」
持つだけならなんとかなるが振ると遠心力その他諸々のせいで普段よりも重く感じるな。
「なあアンジュ、これで俺は何するんだ?これが俺のって......」
そこまで言ってから俺の目はあるものを見た。アンジュの両手に木剣が握られ、左手を前、右手を後ろ、さらに肩幅以上に足を広げ、腰を落とした姿勢でこちらを真っ正面に睨んでいる。
「お爺様をかけて勝負よ!」
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