アウトーム伯爵家
「中世ヨーロッパの王朝?」
泡の中から見た景色は、教科書でみたことのある世界の風景とすごく似ている。
世界史はよく覚えていないが、建造物はこんな感じだったはずだ。
『まもなく、到着、します』
それにしても、この泡はなんなんだ?人を包み込んで浮かぶわ、音声が聞こえるわ。こんな技術がこの時代にあったのか?
泡は空から見た景色の中で孤立した、崖に隣接する巨大な屋敷へと俺を連れて行く。
「お待ちしておりました」
ポンッという軽い音と共に泡が割れ、俺の目の前に白髪白髭、黒いスーツを着こなした少し細身の人が現れた。
「すいません、どちら様でしょうか?」
初対面の人とは話しにくい。相手が年配であればあるほど。だが、相手が待っていたと90度に腰を折って言っているんだ。何も言わない訳にはいかない。
「私はアウトーム伯爵に使える一介の執事でございます。異邦人であるあなた様を丁重に迎えるよう命を受けたため、ここにおります。」
アウトーム伯爵?世界史では習わなかったなぁ。
「は、はあ。あの、今は西暦何年ですか?」
年代さえ分かれば今がどんな時代かわかるだろ。見た目は1200年以降......。だが、しっかりと正しいことを知っていた方がいいだろう。
「西暦......。そうですか。あなた様のおられた世界ではそう暦を表すのですね。残念ですがここでは西暦という暦ではなく大法歴という暦を使っております。大法歴でいうと今は4年になりますね」
大法歴。地球には紀元前もそんな暦を使っていたという話はないはず。いやまああったのかも知れないけど。間違いなくこれだけ建築の技術が発展していた時じゃないはずだ。
すると、ここは......。
「ご丁寧にありがとうございます。えっと、伯爵様の元へ案内をお願いしてもよろしいですか?」
「かしこまりました。どうぞ私に付いてきてください」
そう言って執事は荘厳に飾りたてられた高さ3m程の扉を音もなく開けた。中は、貴族であることを誇示するかのように煌めき、床一面に赤いカーペットが敷かれ、シャンデリアの柔らかい炎の灯りが屋敷内を暖かく見せていた。俺は、老人執事の背を追って扉を越え、屋敷の中へと入る。
「綺麗......」
「ありがとうございます。メイド達が日々掃除を怠っていない証拠です」
自分の主の屋敷を誉められるのは嬉しいものなのだろう。執事の横顔は少しだけほころんでいた。
「ここでございます。」
正面の巨大な階段を上がった後のまっすぐの廊下の最奥に木製の扉があった。そのドアノブには何かの文字が書いてあったが、俺には読むことができなかった。
執事はドアを三回ノックし、俺を連れてきた旨を伝えると「では後は旦那様とお話を」と言って一礼し、廊下を戻っていった。
執事が見えなくなってすぐ、扉がギィと小さな音を鳴らして開いた。
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