第4話 彷徨う塔

「なんでしょうか、この建物は……」


 大降りの雨で土砂崩れが起こり、帝国への峠道が塞がれ、迂回したはずの道の先にその建造物はあった。濃い霧に包まれて全容が見えない。


「人が住んで居るのでしょうか?」

「分かりませんね、少しばかり保存食でも見つかれば良いのですが」

「入るのですか!」


 マリアは護衛兼従者である兵士の言葉に仰天する。

 確かに遠回りして食料は心もとない。しかし、この建物に入るくらいなら食べられる野草を探した方がマシだと思った。


「ここで待つか、一緒に行くか、決めて下さい」


 女四人でここに取り残される。そう考えると入った方がマシと思えた。


「一緒に行きます」


 三人の視線が集まるのが分かった。しかし、何も言わずに下を向いた。


「まずは、入り口を探しましょう。建物の中に入ったら私の前に出ないように」


 建物には扉らしきもがなかったので手分けして探すしか無かった。


「本当にこんな物が人の手で造れるのかしら……」


 建物に触ってみようと手を伸ばす。その手が空を切る。


「えっ」


 バランスを崩して倒れそうになって慌てて着いた両手に伝わる固く冷たい床の感触にギョっとする。それは、冬場の水よりも冷たかった。


「マリアンヌ様大丈夫ですか!」

「ええ、なんとか」


 最近、よく大丈夫かと聞かれる、と内心苦笑して立ち上がる。


「こんなところに入り口が……」

「マリアンヌ様、後へ」


 剣を抜いて前に出る兵士の背中を見つめ、何かあったら囮にして逃げようと密かに決意する。従軍経験はあると聞いているが、どうにも頼りない。前線で戦っていた訳ではなく後方で将校達に酌でもしていたのではないか? そう勘繰りたくなる。無骨な兵士よりは貞操の面では安全だが、護衛として起用された理由が分からない。厄介払いという可能性も……、


「何故でしょう、外より……」

「快適ですね。空気も澄んでいる気がします」


 マリアは体が徐々に楽になっていくのが不思議だったが、他の者は違うようだ

「不快よりいいじゃないですか」


 侍女の軽口にそうね、と頷く。


「戦場では油断したものから死んでい逝く、私はそう教わりました」


 内心ここは戦場ではないとツッコミを入れたかったが、言いたい事は何となくわかったので黙っておく。


「マリアンヌ様……」


 軽く肩を叩かれる。本物にしたら不敬罪で死刑ものだが、


「人が倒れてます」

 



 

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天魔の塔の管理人 神城零次 @sreins0021

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