第24話 決勝戦前日

「ふっ!はぁっ!」

「ッ!シッ!」

 歩射 五百と屍櫃 大蛇は体育館で模擬戦を行なっていた。いつものように周りにはギャラリーがいるが、彼女達は気にも留めない。

「ッ!」

 五百が氷の矢を連続して放った。大蛇はその矢の間を縫うようにして素早く接近する。

「シュッ!」

 接近した大蛇のクローが横凪に振るわれるが、五百はそれを弓で防いだ。

 お互いが相手の動きを探り合い、膠着状態となる。

 それから数秒後、五百が身体の力を抜いた。

「ふぅ、今日はここまでとしよう」

「………」

 大蛇も力を抜いてクローをキーに戻した。体育館の壁に背を預けて五百に視線を向ける。

「………何を、考えている」

「何がだ?」

「この前から、様子がおかしい」

「あぁ………そうだな」

 あっさりと認めた五百は床に置いておいた水筒を手に取ると、中身をグイッと煽る。

「ウチの妹が、最近帰ってくるのが遅くてな。一体どこで何をしてるのやら」

「………龍虎祭の、特訓か」

「やけに自信満々だよ。正直言って、アイツは何をしでかすのか分からない。ルールには反することはしないと思うが………」

「マナーに反しないかどうかは、分からない、か。別に、珍しいことでもない」

「まぁな」

 彼女達はこれまで何人ものグループと戦ってきた。

 その中には突拍子もない作戦で挑んできたり、ルール違反ギリギリの戦い方をするグループもあった。

「椿も、似たようなことはする」

「アイツの場合は、度が過ぎれば私や二重が止める。しかしあのチームにはそのブレーキが無いからな」

 何せ九十九以外は、基本的にはバトルに無関心だ。彼女のやろうとしてる事を止めるかどうかは分からない。

「来賓の方々も来るから、あまり変な事はしないように釘は刺した。もっとも、アイツはそんなの気にしないがな」

 乾いた喉を飲み物で潤しながら、五百は天井を見上げた。

「どんな事を、すると思う?」

「そうだな………降参したフリとか、情に訴えるとかかな」

「前者はルール違反、後者は効き目が薄い」

「情に訴えるのは、二重には効きそうだがな」

「たしかに、な」

 二人が休憩していると、体育館の入り口から足音がして一人の生徒が入ってきた。

「お、お待たせしました!」

 入ってきたのは、ちょうど話に出ていた海鏡 二重だ。慌てたように靴を脱ぎ捨てて駆け込んでくる。

「申し訳ありません!遅れてしまって!」

 二重らしく謝りながらやってきた。五百と大蛇は目を見合わせてから彼女を見る、

「構わないさ………そんなふざけたことをしければ、な」

「え?何のことですか?」

 ジト目で睨む五百に二重が首を傾げた。大蛇がため息をつく。

「はぁ………いい加減ふざけるのはやめろ、椿」

「いくら慌てていても、二重は靴を脱ぎ捨てるようなだらしないマネは決してしないぞ」

「あぁ………そういえばそうだっけね」

 急に砕けた口調になったかと思えば、二重の顔がぐにゃんと歪んだ。ホログラムが崩れるように彼女の姿が変わり、絡新婦・ケイト・椿の姿へと戻っていく。

「いやぁ、私の変装もまだまだだなぁ」

「まったく………不必要にキーは使うなと言っているだろう。先生に見つかって小言を言われても知らんぞ」

「大丈夫大丈夫、ちょっとしたじょーだんだって!」

「何が大丈夫だ。そういえば、二重はどこだ?」

「ん?ここにいるよ」

 椿が再び二重の姿へと変わりにっこりと微笑む。

「おい」

「やだなぁ、じょーだんだよ、じょーだん!二重なら『単独練習』したいって、近くの路地裏にいるよ」

 大蛇に睨まれて、椿は元の姿に戻り東を指差す。

「二重が自主的に『単独練習』とは珍しいな。一人でやっているのか?」

「いや、さっきまでアタシも手伝ってた。んで疲れたからバトンタッチしに来た」

「なんだ、そのまま続ければ良いではないか」

「無茶言わないでよ〜!あんな練習ついて行けるの五百くらいだって」

「能力面で言えば、一番適しているのはお前だろう?」

「アタシのコピー能力じゃ、キーの能力の質が落ちるの知ってるでしょ?あのレベルのコピーは無理」

「そうか。それならちょうどいい、みんなで行くとしよう。作戦の確認をしたいが、ここでするわけにはいかん」

 チラリとギャラリーの方を見てから、五百達は持ってきた荷物を持って体育館を出た。

 着替えてから学校を出て近くの路地裏へと向かう。

「はぁっ、はぁっ………」

 そこには『単独練習』で疲れたのか、膝に手をついて息を吐いている二重がいた。

「二重、頑張っているようだな」

「あ、皆さん」

 三人がやってきたのを見て、二重は丁寧に頭を下げた。

「お前が『単独練習』をしているというから手伝いに来たのだが、急にどうしたんだ?」

「はい。この前の五百さんと五百さんの妹さんとのバトルを見て、やはり戦える手段は多い方が良いかと思いまして」

「そうだな。お前には、つらいことをさせてしまうかもしれん」

「いえ………去年よりも、確実に扱えるようになってますから」

「そうか、しかし無理はするな。無理をして本番に出られなくなっては、元も子もない」

「はい」

 二重の休憩のために、みんなが路地裏にしゃがみ込んで足を伸ばした。話題は自然と龍虎祭のことになる。

「いよいよ明日本番かー。アタシ達には最後の龍虎祭だし、絶対勝ちたいよね!」

「もちろんだ、初戦は確実に突破する。問題はそのあとだな」

「おっ、念願の姉妹対決?」

「念願ではないが、まぁ十中八九そうなるな。『Ragged Useless』は必ず勝ち上がってくる」

「一年の子から話聞いたけど、めちゃくちゃ強かったって言ってたもん」

 『Ragged Useless』は能力自体はそこまで突出したものではない。ましてややる気もなく、グダグダのチームだ。それでも勝ち上がる可能性があるのは………

「海金砂 瘧。不確定要素だ」

「そうだな」

 これまでタレンテッドキーが使えなかったのにも関わらず、龍虎祭の予選が始まる直前になってキーが使えるようになった少女、海金砂 瘧。

 彼女の能力の全貌はまだ明らかになっておらず、それが彼女達を代表チームにしている大きな要因の一つだ。

「キーのエネルギーで色んな物を作れるんですよね?」

「あぁ、エネルギー操作能力。一体どこまでのものなのか。九十九がその辺は手を回しているらしくてな、情報が集まらん」

「他のメンバーの能力って何だっけ?」

「歩射 九十九、他者の感覚感知。大刀石花 三狐神、ゲートを用いた転移。梢殺 貂熊、あらゆるものの認識度の低下」

「な、何だか、闇討ちでもされそうですね」

 大蛇の説明を聞いて、二重が口元を引き攣らせる。

「実際に私はされたしな。しかし『Ragged Useless』だけではない。今年は強いチームが多いぞ」

「『Memory Melody』か?」

「まぁた、あのチーム出るの⁉︎アタシあのチームとの戦い苦手なんだけど!調子狂うから」

 遠い目をして椿が顔を顰める。みんなもそこまではっきりと表情には出さないが、同じ意見だ。

「彼女達のバトルは、他のチームと質が異なるからな。しかしそれだけではない。一年生にもう一つ、強豪チームがある。『Rabies's Ruin Fang』だ」

「あぁ………あの予選圧勝したってチームね」

「噂を聞く限り、その強さも納得しちゃいますけどね。正直、怖いです」

「そうだな。そして我々を含めた以上の四チームは、初戦で当たることは無い」

「つまり準決勝に上がるのはこの四チームかも、と?」

「まず間違いないな」

「あっはっはっは!うわぁ、センセー達の顰めっ面が目に浮かぶなぁ!」

 椿が可笑しそうに声をあげて笑った。

 いじめを受けて大事になりかけた海金砂のいる『Ragged Useless』はもちろん、『Memory Melody』や『Rabies's Ruin Fang』、そして五百達『月契呪』も先生からはあまり良くない意味で目をつけられているチームだ。

 どのチームも、過去に学校のイメージを下げる起因になっているのが原因である。

 そんなチームばかりが準決勝に残れば、先生達もいい顔はしないだろう。

「素行はともかく、今年は実力者も多い。負けるつもりは毛頭無いが、華々しく勝利を飾れるかは不明だな」

「そう、ですね………」

 不安になってしまったのか、表情が硬くなった二重が拳を握った。

 そんな彼女の肩に、五百が優しく手を乗せる。

「なに、気負うことは無いさ。私達にとって、勝利は掴み取るものでも与えられるものでもない」

 五百の言葉に二重が微笑んだ。大蛇が頷き、椿が歯を見せて笑う。

『月契呪こそ、勝利そのもの!』




「オラァッ!」

「ふぎゃあぁッ!」

 一人の少女の放った拳が、チンピラの男の顔にめり込んだ。男は大きく吹き飛び、泡を吹いて倒れる。

 その男以外にも、彼女の周りには死屍累々と倒れている十人近いチンピラがいた。全員の手の中にはタレンテッドキーがある。

 ほとんどが意識を失っているものの、中にはかろうじて意識のある者もいる。

 彼女はその意識のある者に近づいて、彼の頭を掴み上を向かせ睨みつける。

「おい、どうしたんだ?私のことボコって犯すんじゃなかったのか?」

「ひ、ヒィッ⁉︎す、スンマセン!」

 チンピラを殴り飛ばした少女の歳は高校一年生ほど。ショートカットの髪を金髪に染めており、耳にはピアスが複数開けてある。

 そして何より特徴的なのは身体に描かれている刺青だ。半袖の制服を着崩しているが、腕や首元、さらには右頬にまで動物や植物の刺青があり、上半身全体に彫られていることが察せられる。

「そこまでです」

 彼女が再び拳を振り上げると、少女の後ろから声がかけられた。振り向くと、そこには彼女と同じ制服を着た女子生徒が二人いる。

 一人は今拳を振り上げた少女を止めた、細身で凛とした印象を受ける少女だ。目は少しだけ鋭く、長い黒髪をハーフアップでまとめている。

 もう一人はやや背の低いツインテールの少女だ。彼女の右の袖からは本来伸びているはずの腕が存在せず、袖は萎んでいる。左腕しか存在しないのだ。

「問題は起こさないようにと言われているはずです。これ以上は騒ぎになります」

「明日のこともあるし、一旦戻ろうよ」

「んなモン知るか、コイツら残らず塵に変えて………」

「やめてください」

 少し語気が強まった黒髪の少女を見て、拳を振り上げた少女は舌打ちする。それと同時に上半身に描かれていたはずの刺青とが霞のように消えていく。

「チッ!」

「ヒィィッ!」

 彼女に解放されたチンピラは慌てて駆け出すと、何度も転びそうになりながら二人の少女の横を通って逃げていった。

 余程慌てていたのかツインテールの少女にぶつかったが、そんなこと気にせず一目散だ。

 それから彼女は倒れているチンピラ達を踏みつけながら、路地の隅に顔を覗かせた。

 そこにはさっきまでの一部始終を見ていて、怯えながら震えている女子中学生がいる。

 制服が無理矢理破られて乱れており、それが倒れているチンピラ達の仕業なのはすぐ分かる。

 彼女はチンピラに強姦されそうになっていたのだ。

「おい、お前もとっとと失せろ………真っ直ぐ、家に帰れ」

「は、はい………ありがとう、ございました」

 未だに怯える女子中学生を置いて、彼女はやって来た二人の少女と共にその場を去る。

「まったく。私達はただでさえ動きにくいんですから、これ以上面倒は起こさないでください」

「………ふんっ」

「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん。ほら、財布手に入れたし、その辺で何か買って帰ろうよ」

「ちょっと待ってください。いつ手に入れたのですか?というかそれ誰のものですか?」

「さっきのチンピラのだよ。隣通った時にスッたんだ」

 ツインテールの少女はスッた財布の中身を確認した。

 そのお金でオヤツや飲み物を買った彼女達がやって来たのは、小さなアパートの一室。

「おーい、連れてきたよ〜」

「ん〜」

 玄関でツインテールの少女が声をあげると、部屋の奥で相槌が聞こえる。部屋に上がると声の主が見えた。

 それは制服の上からパーカーを着ている一人の女子生徒だ。短めの髪は所々ハネており、目の下には若干のクマがある。ニヤニヤ笑いながらパソコンを眺めている。

「もうちょい待っててよ。これで………お〜わり、っと」

 パソコンを操作していた少女は作業を終えると、近くに置いておいた缶コーヒーを飲んで立ち上がる。

「また小遣い稼ぎ?今度は何してるの?サーバーダウン?データ暗号化して脅迫?」

「産業スパイ。ちょい暇だったから、金になりそうな企業の情報パクってライバル企業に売ってた」

「はぁ………ですから、あなたも問題は起こさないでくださいって」

「あんなあるか無いか分からないような雑魚いセキュリティで、私が問題になるようなヘマすると思ってんの?あれで情報守ってるつもりとか、マジで頭ラリってるって」

 パーカーの少女は缶コーヒーを飲み干して、台所のシンクに投げ捨てた。

「万が一というものがあるでしょう?何かあったら出場停止どころか、またあそこに戻ることになりますよ?」

「ったく、他のチームは無条件で出れてるってのに、何で私らだけあんなめんどくさい条件つけられなきゃならないんだか」

「言ってやんなって。脳内ミジンコ以下の先生サマ達じゃ、私達を出場させないようにするにはそれが限界っしょ?『私達が決勝に出て目立ったら学校のイメージがどうのこうの〜』ってくっだらない魂胆が透けて見えるわぁ」

 拳を握りしめる金髪の少女に、パーカーの少女がヘラヘラ笑って返した。

「言い方気をつけてください。それに、私達のこれまでことを鑑みれば、こうしてプライベートでキーを持てて、大会に出場できてるだけでも奇跡ですよ」

「でも、全然骨のあるヤツと戦えねぇ。これじゃ出た意味ないだろ」

「だよなぁ。あのゴミカスレベルの実力で私達に自信満々で立ち向かってくるとか、脳内の配線イカれてんじゃないの?もしくはヤクキメてるかじゃね?」

「決勝戦じゃそれなりに強いチームもある、って話だけどねぇ。果たしてどんなものなのか」

 四人は買ってきたお菓子をつまみながらグダグダと話していた。

「ってかさぁ、今更だけどウチのチーム名決めたの誰?」

「私だけど。不満?話そうとは思ったけど、あの時いなかったから」

 パーカーの少女の問いに、ツインテールの少女が手をあげて首を傾げる。

「不満しかないわ。なんだよ『Rabies's Ruin Fang狂犬の破滅の牙』って。狂犬はウチに一匹しかいないっての」

 隣にいる金髪の少女を見てパーカーの少女は文句を言う。

「えぇ〜?一応チームリーダーの許可は得たよ、ねぇ?」

 左腕しかない彼女は、お菓子とコーラを左手で持ちながら、黒髪の少女の方を見る。彼女はお茶で喉を潤してから、外の景色を眺めて言った。

「世間からしたら、私達全員が五十歩百歩の狂犬ですよ」




 夕方の音楽室。そこでは四人の女子生徒達が楽器を奏でている。

 パンチのある美しい音が響き渡り、近くを通りかかる人達は度々足を止めてその音に耳を傾けていた。

 演奏が終わると全員が小さく息を吐く。

「どうだったかな?」

「うーん、ちょっとドラム走りすぎじゃない?」

「そうかぁ?」

「録画しておいたから見てみましょうか」

 そう言ったのはベースを弾いていた女子だ。大人びた雰囲気で、長い髪を三つ編みにして右胸の上に垂らしている。

 彼女は自分達の前に置いてあったスマホを手に取った。通しの練習の映像をみんなで見返す。

「あ、やっぱりちょっとズレてるよ」

「マジかぁー、合わせるのムズイ〜!」

 中性的でボーイッシュな印象のある少女が、弾いていたギターを下ろして指摘する。長身であるためみんなの後ろからでも動画が見れる。

 彼女の指摘に髪を掻きむしって悶えているのは、ドラムを叩いていた少女だ。短い髪をサイドテールで結っており、勝ち気な性格が窺える。

 制服で下がスカートなのにも関わらず、座ったまま足をだらしなく広げている。

「もっぺんやってみる?」

「いやいや、ちょっと休むわよ。かれこれ一時間近くぶっ通しで練習してるし」

 そう言ったのは、キーボードを弾いていた少女だ。ウェーブのかかった髪の上に乗っている可愛らしいデザインのカチューシャがトレードマークだ。

 自分の近くに置いておいた水筒を手に取り中身を飲んでいく。

「ぷはぁっ………あぁ、冷える〜」

 みんなも一旦休憩することにして、音楽室の隅で並んで足を伸ばす。

 するとスマホを眺めていたキーボード担当の少女が声をあげた。

「ねぇ、見てよ見てよ!SNSに明日の応援コメントがすごい来てるわよ!私のどれくらい来てるかなぁ」

「え?うわ、本当だ!個人へのコメントもあるじゃん」

「『私絶対に応援行きます!』ですって。嬉しいわ」

「まぁ、比喩抜きでみんなの応援がボク達の力になるからね」

 龍虎祭は学校関係者でなくても誰でも観戦できる。もっとも会場に収まる人数に限られるが。

「というか、こんなに応援されて明日本番なのに、ボク達ちっとも練習しなくていいのかな?」

「何言ってんの、今してるじゃん。これが私達の練習でしょ?」

 ドラム担当の少女が自分の近くにあるスネアをポンと叩いた。

「いや、キー使ってないけど………」

「まぁ、仕方ないわよね。この学校は体育館以外じゃキーは使えないんだもの」

「ホントホント、音楽室だけでも使えるようにしてくれればいいのにねぇ」

「他のどこでもなくここに、というかボク達のために学校がリジェクターの範囲を融通することは無いと思うよ」

 ギター担当の少女の苦笑いにみんなが頷いた。

 それはみんなが思ってることだ。学校側がこれ以上彼女達の活動を手助けすることは無いだろう。

「けどそう考えると、よく今年は龍虎祭に出させてくれたわよね。私出れない可能性も考えたのに」

「そりゃ、世間的に見ればアタシらのやったことはいいことだもん。学校も表立って罰しはしないって」

「それに、私達そこまで悪いことはしてないじゃない。噂によれば他の決勝進出したチームも中々の問題児がいるとか。いじめや傷害事件に比べれば、私達の行いはずっとマシよ」

「いや、相対的に見ればそうだけど………あれは停学とか退学とか言われても文句言えなかったと思うよ」

 学校が彼女達を毛嫌いしているのは、過去に起こした騒動が問題だ。結構な大事にはなったが、彼女達は特に罰を受けていない。

「とにかく、せっかく出られたなら今度こそ優勝しようぜ!あの生徒会連中にリベンジだ!」

「もちろん!衣装もとびっきり可愛いの用意したんだから!みんなのもちょっと手加えたわ」

「あら、それは楽しみね」

「いや、ボクはそこまで派手なのは………」

「アンタのはシンプルにスタイリッシュなものにしたから安心しなさい。リーダーらしく堂々とすればいいの」

「いや、うん、まぁ………それならいいか、な」

 首を傾げながら頷いたチームリーダーは、音楽室の窓から外を眺めた。みんなも同じように眺めてから、そっと目を閉じる。

 耳を澄ませば外で部活動をしている生徒や、今から下校しようとしている生徒の声が聞こえてくる。そしてその中に混じり合う風や木々、虫の音が人の声に変化をつける。

「いい音だね」

「うんうん。今日の音も、いい感じ。いつやっても、これは飽きないよなぁ」

「当たり前でしょ?同じ音は存在しない。同じ曲でも、昨日と今日じゃ違って聞こえる」

「だからその一瞬一瞬の音を記憶に刻み込む。それが私達『Memory Melody』」

 周りの音に耳を傾けながら彼女達は言葉を噛み締める。

「明日のボク達は、どんな音を奏でるのかな」



 こうして翌日、いよいよ龍虎祭が始まる。

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