第12話 チーム結成
「おーい二人とも、遅いぞー」
「お昼休みなんだしのんびりさせてっての」
体育が終わり四時間目の授業が終わった後、私と海金砂、そして歩射は四人目のチームメンバーを誘うために集まった。
本当はすぐに誘おうとしたが、さすがに体育の後は自由時間が少ないから諦めた。
「それで。最後の一人はどこにいるの?他所のクラス?」
「まぁそう焦るなって、ウチのクラスだよ。私から見てもかなり腕の立つヤツ………って言って良いかは分からないけど、見方によってはウチのクラスの中でもトップクラスだよ」
貴重なお昼休みを潰されてちょっと陰鬱になりながらも、私は歩射について行って教室の中を蛇行する。
「いや、別に強くなくてもいいから。それに、そんな人なら既に誰かに誘われてるんじゃない?」
「んにゃ、アイツに限ってそれは絶対無いね。それに万が一どこかに入ってたらこっちに引っ張り込む」
「いや、そんな強引な事しなくても………」
「アイツならそんなこと気にしないから大丈夫だよ。それに、私達のチームの最後の面子はアイツしかいない」
そこだけは絶対的な自信があるとばかりに歩射は断言した。それと同時に教室の端に着く。
「おーい、
「ん〜?」
歩射が呼ぶと、教室の一番端の席から間伸びした女子の声がした。
当たり前だけどそこに座ってる女子の声だ。座ってるというか机に突っ伏して寝てるけど。
しかし私は驚いて思わず身体をビクッと震えさた。
別に特に何の特徴も無い普通の声だった。私が驚いたのは彼女の存在感だ。
私は彼女が声を出すまで、彼女がそこにいると気がつけなかったのだ。
別に急に現れたとかそういうわけでは無い。ずっと前から目の前にいたのも頭では理解している。
しかし私はそれに気がつけなかった。無茶苦茶だけど、そうとしか言いようがない。
ふと隣を見ると海金砂も私と同じようで目を丸くしている。
「驚いたっしょ?」
私達の反応を見透かしたように歩射が笑った。どうやらこうなるのは分かってたらしい。
「この人が四人目のチームメンバー?」
海金砂は眠気まなこの彼女を手で示して首を傾げる。
「おぅ。梢殺
梢殺と呼ばれた彼女は大きなあくびをしながら顔を上げた。
第一印象はのんびりとした人、だろうか。
背は私より少し高いくらいで、比較したら失礼なんだろうけど、体格は歩射の真逆といったところだ。ちょっと大人びて見える。
所々跳ねている長い髪は纏めることなく顔の前にまでかかって、紫の眼鏡の下には眠そうな目がとろんと垂れている。
放っておいたら今にでも寝てしまいそうだ。
「ん〜、すぅー、すぅー………」
「人が呼んですぐ寝るなっての!」
訂正、実際に寝ていた。
歩射に頭を叩かれて再び梢殺は顔を上げた。
「おぅっ!………って、歩射かぁ。また背縮んだ?」
「私に用があってよかったな。でなけりゃそのまま永遠に眠らせんぞ」
何というか凸凹コンビのような二人を、私と海金砂は何とも言えない目で見ている。
「お前龍虎祭のチームって決まってるか?」
「龍虎祭ぃ?あぁ、大食い対決だっけ?」
「決まってないんだな。よし、それならウチのチームに決まりだ。今度の体育から私のとこに来な」
「すぅー、すぅー………」
歩射の言葉に梢殺は寝息で返した。
「ほい、これで四人揃ったな。明日も体育あるし、先生にはその時報告すっか。よし、お昼ご飯にしようっと」
「「いやいやいやいやいや」」
私と海金砂はおよそ会話とは言えない会話を終わらせて帰ろうとする歩射を止めた。
たしかにある程度は適当でもいいとは思ってたけど、これはいくらなんでも適当すぎる。
というか私達に何の説明も無しか。一応チーム作ったの私達だぞ。
「色々ツッコミどころ満載なんだけど大丈夫なの?色々な意味で」
「なぁにいつものことだよ。詳しいことは明日の体育の時間でいいっしょ?んじゃそういうことで、購買行ってきまーす」
歩射は話を終わらせると購買へと駆けて行った。
「………大刀石花、やっぱり余った人とチーム組んだ方がよかったんじゃ………」
「言わんでおくれ」
もう私は知らんよ。
そして翌日の体育の時間。
「というわけで、この四人でチーム組みますから」
「海金砂と大刀石花、歩射に梢殺ね、了解。それじゃあ好きな所で練習してていいよ」
「はーい」
準備体操が終わるや否や歩射に引っ張られ、私達はチームの登録を終えた。止める余地は無かった。
そして昨日と同様体育館の隅で今度は四人で体育座りをして集まる。
「よっし!チームも決まったし、早速作戦考えていくか!」
「その前に説明でしょ?」
おそらく歩射は梢殺の能力も知ってるんだろうけど、私や海金砂は彼女の能力どころかどんな人なのかも知らないのだ。
無駄に仲良くするつもりはないが、せめて必要最低限の説明は欲しい。
「あぁ、そうだっけね。ほい梢殺、自己紹介」
「すぅー………すぅー………」
「他でもなく何で体育の時間で寝れるんだよ!」
「あひゃっ!」
壁に寄りかかってウトウトしていた梢殺を歩射が小突いた。梢殺が変な声を出して口を抑えてるから舌噛んだのかな。
「ふわぁ〜………ん〜?今どういう状況?」
「アンタの自己紹介待ち」
「自己紹介?えっと………名前は梢殺 貂熊で………あと何言うの?好きな食べ物?」
「小学生か。龍虎祭のチームなんだから能力とか武器の紹介しなよ」
「おぉ、なるほど」
梢殺はのんびりと立ち上がると、体操服のポケットから訓練用のタレンテッドキーを取り出した。
手元でクルッと回すと、出現した鍵穴に差し込み捻る。キーが光となって分散して再び梢殺の手元に集まっていく。
集まった光は長い線となり、梢殺の背丈にも劣らないほどとなる。それだけでは止まらず、光の線の頂上が横に突き出て刃物へと変わった。
光が収まると、彼女の手に握られていたのは大鎌だった。梢殺と同じほどの紫色の鎌だ。
「はい、武器はこんな感じ。能力はね………あっ、これでいいや」
能力を見せるものを探してキョロキョロして、梢殺は先生が授業の時に使っている折り畳み椅子に目をつけた。
梢殺は鎌を握ったまま椅子をそっと掴む。
するとその椅子は脱色されたようにスッと消えていった。思わず目を見開いてしまう。
「き、消えた?」
「あぁ………まぁそういう言い方も出来るかな」
妙に歯切れの悪い返事を返すと、椅子を握っていた手を大きく挙げて私の背後に回ると手を下ろす。別に特に何かを感じることは無い。
そして指を鳴らしたその瞬間、私は背中に突然重みを感じた。
「ッ⁉︎」
「うわっ!」
隣で様子を見ていた海金砂も声をあげる。
振り向くとそこにあったのは梢殺が握っていた椅子だ。折り畳まれて私の背中に立てかけられていた。
「こ、これは………?」
「私の能力だよ。触れたものの存在感を消すことができるの。視覚はもちろん、聴覚や触覚の五感や第六感にも効果があるんだ」
「はぁ………」
実際に体感させられた私はこれくらいのことしか言えない。たしかに私の背中に椅子が立てかけられても全く気がつけなかった。
「まぁ実際に物を消せるわけじゃないから、物質として残る以上、触覚は完全には消せないんだけどね。それでもこれくらいはできるよ」
なるほど。私は椅子を立てかけられただけだから何とも無かったが、私にぶつかったり足を引っかけたりすれば私は倒れてしまう。その時にはさすがに存在感は消せないだろう。
それにしてもとんでもない力だなぁ。この力なら人の意表をついた攻撃が簡単にできるようになる。
歩射が梢殺はクラスの中でトップの実力者だと言うのも分かる気がする。
って、もしかして………
「昨日のお昼休みに、私達が梢殺の姿が見えなかったのって、能力使ってたから、とか?」
「いいや、それは生まれつきのものだよ。コイツ昔っから影薄いんだよな」
「だから授業中寝ててもバレないのだ」
「威張るな」
へぇ、あれで生まれつきのものなんだ。中々変わった人だこと。でも授業中寝ててもバレないのは羨ましいな。
「まぁ私の能力は以上かな。そっちはどんな感じなの?というかそもそも誰?」
あぁ、そうか。私達も教えないとだった。というか歩射に予め話しておいて欲しかった。
「私は大刀石花 三狐神。こんな感じのことができるよ」
私は座ったままキーを起動させると、自分の背中に裂け目を出現させた。私の背中に立てかけられていた椅子が裂け目に落ち、元にあった場所へと転送される。
ずっとあのままじゃ辛いからなぁ。ちょうどよかった。
「おぉ、空間移動かぁ。そっちの人は?」
梢殺の視線が今度は海金砂に向いた。海金砂はその視線にたじろいだが短く答える。
「私………キーは使えない」
初めて話す人で緊張しているのか、表情が固くぶっきらぼうな言動にも見える。しかし梢殺はそんなこと気に留めなかった。
「え?あぁ、そういえばあなたいつも見学してたっけ。なるほど、そういう事かぁ」
納得したように梢殺が頷いた。そこに海金砂を見下す表情は見えず、ただ適当に聞き流してるようにも見える。
「まぁ、よく分からないけど同じチームって事らしいし、よろしくね」
「は、はぁ………」
独特すぎる梢殺の雰囲気に海金砂は困惑するしかなかった。
「言ったろ?このチームの最後の面子はコイツしかいないって」
おっとりとした笑みを浮かべる梢殺を見て歩射がニヤッと笑った。
なるほど、海金砂のことを知っても気にしないからこそ引き入れるつもりだった、ってことか。
「っつーわけで、これにて自己紹介終わりだな。それじゃ、これから私ら四人で優勝目指して頑張ろーぜ!」
「私、別にそこまでの熱は無いかな」
「私も………」
「ふわぁ〜、眠〜い」
「お前らちょっとはやる気見せろよ!」
こうして私達はチームを組んだ。何はともあれ、最悪なケースは逃れられたと言っていいだろう。
龍虎祭だけでの即席チーム、どうせすぐに終わるし私もすぐに忘れるだろう。
私のそんな思いに反して、私達が後に日本で知らない者はいないほどのチームになることを、この時の私達はまだ知る由もなかった。
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