花開く才能の鍵
MC RAT
第1話 タレンテッドキー
「一、二、三、四、五、六、七、八!」
ここは高校の体育館。準備体操の号令がこだましている。それが終わると先生が指示を出した。
男子は外で体育をしてるみたいだが、私達女子は体育館の中だ。
「よし。それじゃあ今日のペアを言うから、作って広がって」
指示通りに私は近くにいた女子とペアを組んだ。
全員一度は無理なので、何組かに分けて行う。数人が適度に広がり間隔を空ける。
「なぁんだ、私のペア
私とペアになった女子が呆れたようにため息をついた。いつものことすぎて反応する気も起きない。
「全員ペアは作れたか?それじゃあ、キーを起動させろ」
次の指示が飛ぶと、みんな体操服のポケットから一つの鍵を取り出した。上に丸い輪があって、いかにも昔の鍵といった感じのものだ。
私の目の前の女子は手にした鍵でくるりと円を描いた。
するとまるでペンで紙に描いたように、空中に円ができた。さらにその円は鍵穴のような形に変化していく。
その鍵穴に鍵を差し込んで回すと、鍵は光の粒子となって彼女の元に集まった。
その粒子は増えていき、やがて大きな斧へと変化した。彼女はそれを握ると軽く振る。
みんなもそれぞれ同じように鍵を回して、自分のアイテムを作り出す。
剣、槍、鞭、装飾品。色んなアイテムがみんなの手に作り出されていった。
まだ武器を持ってないのは私一人だ。
「
先生に名指しでせっつかれて、私はため息をついた。
また嗤われるんだろうな………
私は暗い気持ちを何とか鎮めると、ポケットから鍵を取り出した。
我が国の最新兵器・タレンテッドキーを。
時は20××年、世界を巻き込んだ戦争が起きていた。
きっかけは国境を巡った問題や政府の重要人物の暗殺、資源を巡った侵略など、あらゆる国での問題が同時期に起きたのが元になっていた。
やがて点々と起きていた問題が一つに繋がり、世界大戦へと発展していった。
しかしみんなそんな事はもうどうでもいいとばかりに争いは激化していった。
『我が国が勝てば全て終わる』と、どの国も戦争に躍起になっていた。
草原は焦土と化して、ミサイルは飛び交う。人が殺され銃声が鳴り響く、そんな光景が当たり前となっていた。
昔のように学校では群に入るための授業が設けられて、男は皆戦争に駆り出された。
『人類が絶滅する時が、この戦争が終わる時』
そんな事まで言われるほど、戦争は止まらなかった。
しかしある日、日本がこの争いを終わらせた。一週間で。
どうやって終わらせたのか?別に難しい方法じゃない。
目には目を、歯には歯を、武力には武力を、というだけだ。
その国は武力を用いて全ての国を屈服させた。人を恐怖で震え上がらせて、戦闘心を捻り潰した。
そして全世界を掌握して、世界のトップに君臨した。
もちろん世界各国がこんな横暴を許すはずがない。
しかし抵抗も虚しく、どの国も膝を折って負けを認めた。それほどまでに強力な力が戦争を粉々にした。
中には核兵器で抵抗しようとする国もあった。スパイを送って内部から崩そうとする者も。
しかしそんなものは、子供のわがままと何も変わらなかった。
核兵器がおもちゃに見えて、スパイはむしろ敵国の情報源となった。
それほどまでに力は強大だった。これまでの常識を覆すほどに。
その真実に世界中が耳を疑った。
戦争を終わらせた軍の人間達は、銃を持っていなかった。ミサイルなど一機も使わずに、作戦も極めて単純な正面衝突。
その代わりに、皆一つの鍵を持っていた。
タレンテッドキー。それが全てを終わらせた。
その鍵は、開いた人間に凄まじい能力を持つアイテムを与えた。
超怪力、高速移動、テレキネシス、そんな超人的な能力を持った軍勢が攻めてきたのだ。どの国も驚愕して膝をついた。
そして戦争が終わった。平和とは程遠い形で。
しかしこれで争いは無くなり、形は違えどまた昔のような落ち着いた生活を取り戻せる。
誰もがそう思った。
でも、それは新たな争いの始まりでもあったのだ。
日本政府は、あろうことかそれを国中にばら撒いた。
国民の自衛とさらなる改良のためのデータ採集、というのが政府の意見だった。
『上に立つものが国を支える時代はもう終わりました。これからは、皆さんの才能がこの国を支えるのです』
国のお偉いさんがこんな事を言っていた気がする。
政府は求める人間にタレンテッドキーを与え、これまで学校で導入していた軍の授業はタレンテッドキーを用いたものへと変わった。
こうして全てではないにせよ、多くの国民がタレンテッドキーを手にした。
当然国もただそれを傍観していたわけじゃない。『TK法』と呼ばれるものが施行された。
タレンテッドキーの管理方法だったり、犯罪目的等やキーを持たない者への攻撃、一方的な使用の禁止が決められた。
しかし逆に言えば、それ以外は無秩序といってもよかった。
タレンテッドキーを使用した戦い『キーバトル』が無秩序に行われて、誰もが領土やお金、成り上がるために戦っている。
次第にヒエラルキーが生まれ、それを元に組織ができた。組織は自分達のテリトリーを仕切って、さらに広げようと争いは広がっていく。
しかしある意味それは崩壊寸前の国の再生には役立った。力の強い者が人々の安全を守る代わりに支配しまとめたのだから。
こうしてタレンテッドキーを中心とした、新しい世界が作り出されたのだ。
そしてここはとある高校。件のタレンテッドキーを使った授業中だ。
使っているのは学校が支給した訓練用のキーで、殺傷能力が抑えられている。
このままぼーっとしてても仕方ない。私もタレンテッドキーで円を描き、鍵穴を出現させる。
鍵穴にキーを差し込んで回すと、キーは粒子となって私の手元に集まる。
そして私のアイテムを生成………しなかった。
光の粒子は私の手元で集まったまま、何も形作る事はなかった。
まただ………また失敗かぁ。分かってたけどさ。
いつもこうだ。私にはアイテムが無い。
キーの故障ではなく、私にはアイテムを生成する力は無いようだ。当然特殊能力も。
「海金砂、またダメなのか?………はぁ、仕方ない。そこから離れて見学してなさい」
「………分かりました」
私はみんなの中から離れて、体育館の隅に座った。
周りの人達は私を見てクスクスと笑って隣の人と私を指差して話している。馬鹿にしたような笑みがいくつも突き刺さった。
この国はタレンテッドキーの強さによるヒエラルキーがあるが、学校も遜色ない。
強い人ほどみんなから尊敬されて、弱い人はイジメられる。しかもキーの能力を使われることも。
その中でも私は論外と言えるだろう。アイテムが生成できないんじゃ、スタートラインにすら立てていない。
だから誰とも馴染めずに一人でいる。すっかり慣れてしまったことだ。
「それでは、始め!」
先生の号令で立っている生徒が模擬戦を始めた。
「はぁっ!」
「よっと!」
「やぁっ!」
みんなそれぞれのアイテムを手に特殊能力を繰り出している。宙に浮いたり、炎を発射したり、怪力で殴ったり。
私はその様子をただ呆然と眺めていた。
そんな体育の時間も終わり、時間は過ぎていった。
SHRも終わり周りの人達は放課後の予定なんかを話しながら友達と帰っている。
私もとっとと帰ろうとした時。
「ねぇ、ちょっといいかなぁ?」
後ろからふざけたような声が聞こえた。私には関係無いと思い、構わずに前に進む。
「ねぇってばぁ、無視しないでよ」
再び声がして私の前に一人の女子が笑いながら出てきた。今日の体育の時間で当たった人だ。
後ろを見ると男子が三人と女子が二人いる。私を取り囲むようにしてイヤらしく笑っていた。
「………何でしょう?」
「別にぃ。ほら、今日の体育で相変わらずアンタ何も出来なかったじゃん?放課後暇なら、アタシらが鍛えてやろうかなぁって」
ヘラヘラ笑いながらその人はタレンテッドキーを見せびらかした。それは訓練用ではなく、本物のキーだ。
こんな事を言われるのもこれで何度目だろうか。この後の展開も大体読める。
「別に、大丈夫ですから」
「えぇ、何それ?人がせっかく親切に言ってやってんのに、それなくない?」
後ろにいた男子が私の肩を掴んだ。その力は強く、とてもふざけてやってるようには思えない。
「俺らが鍛えてやるって」
「ほらよっと!」
「ぐあぁっ!」
斧の柄で腹を突かれて、私はその場に蹲った。普通の女子が出すことのできない力に私は吐血する。
既に制服は擦り切れて汚れている。身体中から血が出て意識がまとまらない。
「おいおい、ちょっとは抵抗しろよ。これじゃ訓練にならねぇ、よっ!」
「ぐふっ!」
男子の一人が装備したメリケンサックで私の顔面を殴った。鼻血が止まらなくなり、地面が血で汚れる。
「ったく、この無能が!弱いクセに俺らと同じ学校に通いやがって!とっととやめちまえ!」
「ぐっ!ぎゃあぁぁぁッ!」
電撃を放つ能力があるのか、私の身体を電流が駆け抜けた。
「ねぇ、私にもやらせてよぉ!おりゃっ!」
「がはッ!」
いつもこうだ。入学して一ヶ月ほどになるが、キーを使えない私にとっては、当たり前の日常だった。
何人かの学生に人目につかない裏路地まで無理やり連れて行かれて、訓練という名の暴力を受ける。
初めは先生にもそれとなく相談していたが、高校生のタレンテッドキー使用の印象や学校の評判を悪くしなく無いのか、取り合ってくれない。
プライベートでキーは持っているが、使用することができないから抵抗することも出来ない。いつもボロボロになるまで痛めつけられる。
いつもならそろそろ終わる。その後は身体を何とか動かして帰るだけだ。
そう思っていると
「なぁなぁ、ボロボロになる前に、ちょっとソイツ俺に貸してくんない?」
一人の男子生徒が前に出てきて私に近寄る。
「ん?何すんの?」
「いや、せっかく女なんだしさ、単に痛めつけるだけじゃ勿体ないじゃん」
そう言って彼は私に近づきながらズボンのベルトを緩めた。
その瞬間何をさせるかを理解した私は、生理的嫌悪感から震え上がった。
痛みだけならまだ耐えれた。しかしこんな事をされたら、私はもう耐えられない。
「へぇ、いいな。俺もいいか?コイツ顔は悪くねぇからな。最近溜まってるし、ここでスッキリさせっか」
「マジで?ちょ、アタシらそんなの見たくないから周り見張ってるわ。ヤるならさっさとヤっちゃってよね」
女子達が離れると、男子達が私を取り囲んだ。
全身が粟立ち、恐怖で身がすくんでしまう。
それでも逃げなければと、痛みと恐怖に抗いながら必死に身体を動かした。
「んだよまだ動くのか?おい、暴れられても面倒だし、抑えつけとけよ」
「お前が最初かよ。まぁいいけどさ」
手足を押さえつけられて私はいよいよ何も出来なくなった。これからされる事を想像して、必死に抵抗しようとする。
「い、いや………やめ、て………」
「ヒッヒッヒ、唆る反応するじゃねぇか。けどまぁ、恨むんなら俺らと違って才能の無いテメェを恨むんだな」
そう言って私に覆い被さった。
これも全部、私のせいなのだろうか………私に才能が無いから、こんな世界に生まれたから、全部私が悪いんだ………
絶望でもう身体が動かない。この現実から目を逸らすことしかできなかった。
「そんじゃあ早速………」
覆い被さってきた男子が、私の身体に手を伸ばした………
「よっと!」
その瞬間、どこからか声が聞こえたかと思うと、一筋の光が私に飛んできた。
その光が私のいる地面を切り裂くように突き刺さった。いや、実際に切り裂いた。
生まれた光の裂け目にいた私は、物理法則に従ってその裂け目へと落ちていった。
眩い光がに目を閉じると、一瞬宙に浮いたような感覚がした。
次の瞬間ドサッという音がして、私は誰かに受け止められた。痛みで身体が跳ねる。
「ッ!」
「あぁ、ごめん。怪我してる人にこれはマズかったかな?」
私を受け止めてくれた人の声がして、私はそっと目を開けた。
まず目に入ったのは、私と同じ高校の女子の制服だ。校章の色からして同学年だ。
背は私より少し大きく、髪は背中の当たり前伸びている。どこか垢抜けたのんびりとした雰囲気を持つ人だ。
その手には刀が握られており、タレンテッドキーを使用したことがすぐに分かった。
「一応死んではないみたいだね。よかったぁ」
彼女のくりっとした目が私のことをジッと見つめている。
それが彼女
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