第65話 体力だけじゃダメなんです

イブルさんは無事に、バンダナを手に入れ、ナナミの元に戻ってきて、アナさんは、魅了が解かれて無事に復帰はしたものの、しばらくの間は、ぼーっとしていたので、ハットリくんが大変そうだったな。


 イリアンさんは上手く逃げ回っているが、猫又のコウガがついていなかったら、何度かバンダナを取られていたかもしれない。


 挑戦者達は、5人が相手だと思い込んでいたが、実は猫又達が陰から手助けしているのだ、そして、それがわかった時のみんなの反応がそれぞれ違っていて面白い。


 すぐに体制を立て直す者、文句をいいながらかかってくる者、そんな中で、開始前にチームを組んでもいいか聞いてきた子が、7~8人程でイリアンを包囲している。


 全員同じ年ぐらいのようだが、お世辞にも綺麗な身なりとは言えない子達ばかりだった。


「あの子らは、スラムの子達かもしれぬな 」


「ミハル様のおっしゃる通りなのにゃ、あのリーダー格の子がエルミオで、全員スラムの子達なのにゃ 」


 相変わらず、不思議な動作を続けながら、得意顔で答えるサイゾーくん。


「サイゾーくんは、相変わらず優秀じゃのう、」


 ミハルの褒め言葉に、口元が緩みひげがぴくぴくと動いている。


「エルミオっていうのか、この子は技術的にはまだまだだけど、皆を上手くまとめてるようだし、きちんと育てたら強くなりそうだな 」


 三人がコウガの相手をして、何とか足止めをしているようだ、もちろん、コウガは本気じゃないよ、本気出したら、一瞬で終わっちゃうからさ、コウガは体術のエキスパートだからね。


 イリアンも同じように三人に囲まれているけど、見るからにちびっ子の相手は、とてもやりずらそうで、じりじりと間合いを詰められている。


 一人が、イリアンに飛びかかって行ったが、それは軽くかわされた、残り二人も次々に向かっていったが、同じように軽くかわされる。


 しばらくは、三人がかりで向かっていってるが、その程度ではイリアンも余裕だ。


 初めはがむしゃらに向かって行くだけだったが、だんだんと三人の連携が取れてきて、動きも良くなってる? 


 コウガの相手をしている三人も、さっきより動きがいい?


 後で、ただ一人参加せずに見守っているエルミオから指示でも出ているのだろうか?


「主様、あの子供達は何やら、術を使っておるようですな 」


「やっぱりそうなのかな、子供達の動きが良くなってるというか、イリアンさんとコウガの動きが鈍くなってるようにも見えるんだよね 」


「そうじゃのう、コウガは猫又の中でも、一番身軽なはずなのじゃが、動きにキレがないようにもみえるかのう 」


 そう言ってる間にも、イリアンさんの足が覚束なくなり、明らかに様子がおかしい。


「イリアン、しびれ薬だにゃ、キアン草の粉が巻かれているのにゃ 」


 コウガの言葉に慌てるイリアンだが、もうだいぶ吸い込んでしまったようで素早く動く事が出来ない。


「キアン草だと、それを乾燥させてばらまいているのか、やられたな、……だが、こいつらはなんで無事なんだよ 」


「おそらく、風魔法で操っているのにゃ、子供達と我ら二人では体格が違うから、我ら二人の頭の高さに合わせて操っているようにゃ 」


 まじかよ、子供達だと思って舐めてかかっちまったか、やべーな。


「その通りです、さすが神獣様ですね、」


 後で控えていたエルミオが、近づいてくる。


「正確には、神獣ではにゃいんだけど、この子達の洋服に強い匂いを染み込ませたのも作戦なのかにゃ? 」


「人間の言葉をしゃべれるのに、神獣様じゃないの? それと、匂いはその通りなんだ、ごまかすために、匂いの強い花や草を集めて、染み込ませたんだ 」


「傷つけたらいけないって言われたけど、キアン草の効果は一時間ぐらいだから、大丈夫だよね? 」


 もう、抵抗を止めたイリアンが自分からバンダナを手渡した。


「確かに、傷はついてねーから大丈夫だと思うぜ、でも、一応、ナナミ、 あの開始の前に説明してた女の人には、念の為言っておいたがいいぜ、ナナミはズルした奴には厳しいけど、素直な子供には優しいからな……たぶん 」


「たぶん、なんですね、」


「ああ、……たぶんな 」


「わかりました、 ありがとうございました 」



 他のメンバーはと見ると、イルガーは危なげなく、挑戦者達をさばいていき、シノブはあまりにもひまだったので、半目をかろうじて開けているが、ぽかぽかとした陽気の中、お昼寝モードになっている。


 噴水に腰かけていた、バルサはドローウィッシュのもたれかかり、完全にお昼寝している。


 ヨコヅナとサスケが二人についていて、猫というよりは、中型犬並みの大きさのヨコヅナが張り手をぶちかませば、衝撃波が起こり、その隙をつこうとする連中には、サスケの手裏剣が飛んでくるので、誰も近づけない。


 ドローウィッシュも暇そうに、アクビをしながら終了の合図を待っていた。


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