第59話 やり過ぎでも当たり前

その後は、話し合いも順調に進み、簡易的にではあるが、冒険者ギルドの支部も設立することになり、建物自体はミハルが用意することになった。


 誰も気付いていないが、地表部分もダンジョンとなっているので、勝手に建物を置かれるよりは、自分で造りたいとミハルから申し出があり、ギルドとしても建築費も手間も省けるので何の問題も無い。


 先に移住してきた、ドワーフと蛇人族は、ダンジョンの脇道として作った洞窟に住み、その中を住みやすいように手を入れてきたので、ミハルも何も言わなかったが、ここにきて、元々のこだわりが強い性格がでてきたようだ。


 その、こだわりの強さゆえに、前世では、ブラック企業であるのを認識しながら、手を抜くことが出来ずに、自分を追い込んでしまったのだが、今は違う。


 口うるさい上司も、足を引っ張る同僚も、妥協をせざるを得なかった予算枠も、何も無い!

 思うがままに街づくりが出来るのだ、こんな楽しそうな事、他の人にやらせるわけが無い!


 ホクホク顔で、妄想にふけるハルミ。


「出来ましたら、商人ギルドも小さな建物でもよろしいので、ご許可をいただけますでしょうか? 」


 この街は、必ず発展する、ならば、我々商人ギルドも出遅れる訳にはいかぬと考えるドナーテル。


「かまわぬぞ、どの程度の大きさが必要のなのかのう?」


 ミハルは今まで黙って聞いていたが、これからどのようなダンジョンにしていくか、考えるだけで、テンションが上がってしまい、つい、口をはさんでしまった。


「お館様、失礼なながら、こちらのお嬢様は? どのような御方でいらしゃられますのでしょうか? 」


 親戚…はまずいよな、今は良くても、ミハルの見かけはずっとこのままだろうから……


「あの、この子はですね、…実は、こう見えても賢者の位を持つ、魔導師でして、……」


「何と、そのように幼いながら賢者でいらっしゃるとは! 」


 アダムさんまで、そんな身を乗り出せないで下さいよ。


「あ、いや、あの、見かけがこのように幼いのは、ですね、 その、……実は、火竜の呪いにかかっているので、……実際には、中身は、大人なんですけど……」


「火竜の呪い? ですか、そのようなものがあるとは。」


 ああ、もう、……大丈夫か、オレ?   ……もう、嫌だ! 


「いや、そのですね、はっきりとはわからないのですが、…そうではないか……と…、なので、原因がわかるまでは、……ここで、私の手伝いをしていただきながら、呪いの解呪についても、調べている……といいますか……なあ、ナナミ?」


 えっ、いきなり私?


「そう…ですね…確かに、火竜の呪いかどうかは、分からないですけど、見かけ通りの年齢ではありませんね。本来は私よりも年上でいらっしゃるのです。」


「……左様でございましたか。」


 こちらも、まだ少女と言っても良いぐらいの年齢だが、年齢にそぐわぬ落ち着きと気品さえ感じられる。


 何者であるのか、是非とも伺いたいところだが、あまり詮索しすぎてご不興を買ってしまうのも、得策ではなかろうな。


「かしこまりました。どうやらご事情があられるご様子ですが、お館様にとって信頼できる御方であるとさえわかれば、十分でございます。」


「うむ、全てを話すわけにはいかぬが、我はカイルとナナミの不利益になるようなことはいたさぬのでな、安心するが良い。」


「承知いたしました、これよりは、冒険者ギルドと同じく、我ら商人ギルドも何卒、よしなにお付き合いいただけますよう、お願いいたします。」


 うむ、うむ。とあくまでも腰の低いドナーテルに、上機嫌なミハル。


『良いではないか、わきまえておるのう、さすが商人ギルドのマスターじゃな。』


『ミハル、チョロすぎ……』


『何を言うか、このへタレが、もう少しましな口実は無かったのかのう。』


『本当よね、火竜の呪いって! 吹き出すとこだったわ。』


『しょうが無いじゃないか、だってミハルは、いつまでたってもその姿のままだろう、俺だって考えたんだぞ。』


『そういえば…』

『そうじゃのう…』


『二人のほうが、何も考えてないじゃんか。』


『それよりも、今日の夕飯は何にするかのう? 』


『それは、お客様が帰ってからでいいだろ!』


 とりあえず、冒険者ギルドも商人ギルドも、支部を置くことに決まったので、三日後に改めて訪ねて欲しいと伝え、準備をすることにした。



 …………三日後。



「なんじゃ、こりゃあ、」

「何とも、凄まじい魔力をお持ちでいらっしゃるようで……」


 両ギルドのマスター、アダムとドナーテル。


 分かります、分かりますとも。非常識ですよね、ドワーフと蛇人が移住してきてたので、人の往来はそれなりにあったのだが、荒野にぽつぽつとテントが張られていただけの土地が、荒れ地だった場所が、


 どこのリゾート地ですか? 


 美しい緑が、区画整理された街並みに映え、キラキラと陽の光を浴びて輝いているし、シュバーツェンの街との行き来もしやすいように、馬車泊まりも整備され、カイルの屋敷からまっ過ぐに伸びた大通りは、噴水のある広場に繋がっていた。


 ギルドの支部が、二つも、たった三日で出来る聞いた時でさえ、信じられない思いで、いやいや、これだけの屋敷を魔力で維持できるのだから、可能なのだろう、と自分を納得させたのに、まさか、街が出来上がってるとは…………



 …………予想外過ぎた。


 だ・か・ら・  やり過ぎだって言ったじゃないか!。


「これから更に移住してくる、獣人さん達の住む場所も必要だし、いいんじゃない?」


「そうじゃ、何事も初めが肝心じゃしな、ダンジョンは、熱帯も極寒の寒冷地も思うままに創れるのじゃ、これくらいは朝飯前じゃな。」


 満足気な二人にカイルの言葉は届かない、二人にとっては通常運転なのだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る