第58話 もう、遅い
試食会は、大成功だった。
ダンジョンの周りも、シュバーツェンの街も人の行き来が多くなり、活気づいている。
冒険者ギルドは、ダンジョンの周りに支部を置くかどうか検討を始めていた。
馬車を使えば二時間程度で往復できるが、どこのダンジョンでも、買取の場所はすぐ近くに用意されているからだ。
そうでもしないと大きなドロップ品を、持ち帰る旨味が薄れてしまう、例えば、お肉のドロップ品は、大きくて重いことが多い。
馬車を使えれば良いが、お金に余裕のない冒険者は三時間歩いて持ち帰るとなれば、まず、あきらめるだろうし、そんなことが続けば、ダンジョンに集まる人が少なくなってしまう。
それならば、ギルドで一括で買い入れ、馬車を用意したほうが効率的だし、解体専門の職人を派遣すれば日持ちも良くなるからだ。
シュバーツェンの街から、ダンジョンの街までは、領主権限の下、急ピッチで街道の準備が進められてはいるが、まだしばらくかかるだろう。
そして、このダンジョンの辺りはいままで特に、地名が決まっていなかったのだが、大反響の試食会を経て、イザカヤ・・・では無く、イザ・カヤルと呼ばれるようになった。
シンがイザカヤと言った言葉を聞き違えたらしい。
それに、イザカヤでは、???となってしまうが、イザ・カヤルになれば、美食の街となるので、そちらで定着したようだ。
これから、発展していく街の名前が居酒屋でなくて良かった、とカイルは心から思った。
カイルの屋敷に、ギルマスのアダムと商人ギルドのマスター、ドナーテルが訪れている。
「よっ、お館様、この間はご馳走になったな、どれも美味かったぜ。」
アダムの口調は、かなり砕けたものだが、それがカイルの希望だった。
「楽しんでいただけたようで何よりです。」
「お初にお目にかかります、私、商人ギルドのマスター、ドナーテル・エルロイと申します。」
「初めまして、カイルと申します、どうぞおくつろぎ下さい、若輩者の私には、かしこまった言葉遣いも不要ですし。」
「何をおっしゃいますか、先日の試食会には私も参加させていただきましたが、あのような短期間で、珍しい食材の数々を巧みに使われるなど、凡人に出来ることではありませぬ。また、この素晴らしいお屋敷もお館様の魔力で維持されておられると伺っておりますぞ。」
話をしているうちに、かなり前のめりになってしまい、アダムに軽く袖を引かれて、椅子へと腰を戻す。
ああ、そういうふうに見えるんですね、そりゃあ、いきなり見たことも無い食材を渡されて料理を作れと言われても難しいよな。
「お館様は、いったいどのようにして、あれらの食材の調理方法をお分かりになられたのですか?」
・・・・どうやってか、・・・・どう、
「実は、私、鑑定のスキルを持っておりますので、それで、・・・」
「鑑定スキル、もしや、・・・・Lv,4以上を、お持ちでいらっしゃいますのか? ああ、いや、初めて会ったものにお教えいただけるとは思っておりませんので、ご安心下され、・・・そうですか、・・・鑑定のスキルで、・・・それに、これだけのお屋敷を維持される・・・・」
あれっ、オレ、・・・やらかした? なんか、すっごい考え込んでるよ、この屋敷を維持してるのは、俺の隣に座ってる、このロリ魔女ミハルなんですよ!
『誰が、ロリ魔女じゃ、このヘタレが!』
『ヘタレって酷くない? ってか、ミハルも念話使えたんだ、知らなかったよ。』
『うむ、最近は魔力も順調過ぎる程に回復しておるからのう。まあ、そんな事より、こ奴は油断ならぬかもしれぬ、鑑定がLv,4以上あれば、
『・・・・・それって、何がまずいのかな?・・・・』
『このっ、ヘタレバカ! 鑑定でLv,3でも国家の重鎮クラスじゃ! それほど珍しいスキルなんじゃよ、忠告したじゃろうが! 』
『・・・・・された・・・?? ・・あっ、あの時、仮想空間に初めて入る時か!・・・ごめん・・・・俺が悪かったです。』
「あの、ドナーテルさん、私は確かに鑑定スキルを持っておりますし、魔力量はそれなりにあるのですが、これと言った特徴のある魔法は何も使えないので、・・」
ドナーテルさんが、クワッと、目を見開いて、怖いです。
「・・も、もしや、、、、全属性持ち・・・???」
「・・・・俺なんか、大したことないんですよ! ・・・もう、聞いてないね。」
更に墓穴を掘りました。
「はあ、カイルが全属性持ち・・?」
アダムさんまで・・・そんな顔して俺を見ないで下さい。
『もう、我は知らぬぞ。』
『そんな、神様、仏様、ミハル様、お助け下さい。』
『無理じゃ!』
『・・・・・そんな、・・』
『油断ならぬと教えたのに、迂闊すぎるわ!』
ごもっともです、ミハル様。
「ところで、お館様、正式にご領主となられるのは、いつ頃になりますでしょうかな。」
「王都から、王家の印が押された任命状が届くのは、二月かからないかと思いますよ。」
「左様でございますか、それはよろしゅうございました。」
この御方は、どれほどの才能を秘めていらっしゃるのか、空恐ろしいほどよ、あのようにさり気なくお話なされておられたが、もし、私が気づかねば、取引する価値も無し、と切り捨てられておったのか? なんと油断ならぬ御方なのか。
だが、もし、逆に信頼を得られさえすれば・・・この才能にして、この地の最高権力者。この齢にして、これほどの御方に巡り会えるとは、まるで、初めて行商に出た時の様に興奮しておるわ。この儂としたことがな、まだまだ、引退は出来ぬな。
どれほどの未来を見せていただけるのか、楽しみにしておりますぞ、ご領主様!
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