第4話 自己紹介 七海

 それはヒドイ、非道すぎる、聞いているだけでも怒りが込み上げてくる。

 けど、目の前の圧に押されて、俺は言葉が出てこない。身動きすらままならない。


 「それで、怒りが突き抜けた私にギフトとスキルが与えらえて、そのスキルのおかげでね、その場にいた人達、皆固まって動けなくなっちゃたの、で、でも、でもね、Lv,1だったからかな、すぐに威圧が解けて反対に拘束されちゃった。」 えへっ。


 ここで可愛さアピールいらないし、逆にあざといし、

 なんていうか、いろいろと凄い人だった。


 …お茶、飲んでいいかな…?


 「で、その時に自分の前世を思い出したんだ。こう、バァァアーって感じで、わかる?」


 わかりません。それでわかったら言葉要らないですよね?

 見た目以上に知識レベルが低いことは、わかりました。


「前世の記憶が一気にあふれ出して、混乱している隙に拘束されて、転移させられた?」

「そう、その通り、やっぱり、同郷っていいよね。前世持ちなんて滅多にいないし、良かった~、わかってくれて、」

ニコニコしてお茶を飲んでる。


 俺の名前と身分は確認出来ただろうけど、助けるとも力になるとも言ってないの に、 いいのか? 人がいいのか、バカなのか?

 聖女として育てられたから、悪意に疎いとかか?


 「ところで、前世ってどのくらい思い出したの?」

 と何気なく訊いたら、


 「あー、それね、私の前世、片瀬 七海。 27才。 

新宿西署、刑事1課 巡査部長。

新宿連続通り魔の捜査中、殉職いたしました。」


 衝撃の答えが返ってきました。

 ……はい?  このセクハラな体を持ち、セクハラに遭った女の子が刑事?

 しかも、巡査部長ってエリートですか?


 でも、なんか気のせいかな、背筋がビシッと伸びて見える。

 お胸はポヨンとしてるね。


 あー、なんかいろいろありすぎてキャパオーバーです。自分。


 「えーと、ごめんね、いろいろありすぎるのは自分でもわかってるんだ、

なんか、フレイアと七海の性格がまだ、ちぐはぐしてるというか、

自分自身もそうだし、状況も良く分からない部分も多いし、

とりあえず、身を隠す場所を探してそれからどうするか考えようと思ってたの、

迷惑かもしれないけど、ここにしばらく置いてくれないかな?」


 小首をかしげて、上目遣いに俺をみてくる。

 天性なのか、あざといのか、


 まあ、困ってる女の子を叩き出す趣味はないし、

 それにこの子を野に放したらヤバイ。確実にシュバーツェン家が絡んでくる。



  ◇前世持ちの転生者、

 ◇フレイムニル家公爵家ご令嬢、

 ◇聖教会の聖女、

 ◇ギフト:狂戦士ベルセルク

 そして、王宮にいるのがふさわしいような気品ある(黙っていれば)美少女で、

 どれ一つとっても無事な要素が無い。無さすぎる。


ため息を飲み込みながら、

 「別にかまわないよ、命まで狙われてる女の子を放っておけないしね。」

俺に選択肢はなかった。


 「やったー!」 

胸の前で組んだ手が、そのままバンザイの形になった。

白すぎた顔色に少し赤身が戻ってきて、

その水色の瞳がうるんで、ポタリ、と一粒の涙が落ちた。


 「あっ、な、泣いているのはフレイアだから、私じゃないから、」


 びっくりした。聖女の涙。  破壊力ありすぎでしょう。

 一幅の絵画みたいだった。 こんなん戦争起きても不思議じゃないくらい、

 思わず膝まづいて騎士の誓いをやりそうになったよ。 


 しないけどな。


 そして肝心の本人は、ふてくされたように目をそらしているし、耳が赤い。


 「泣いているのはフレイアで、しゃっべているのは七海さん?」


 「…そう。だね。 上手く言えないけど、私、七海とフレイアは一つの体に二つの人格が入ってる感じなの、前世の記憶を思い出してからは私が主導権、フレイアの存在は私の中に感じる。」

「…そう、水がしみ込んでいくようにゆうるりと溶け合っていくんです。

魂の記憶は本来は引き継がれない。輪廻転生、この世界に生まれ、死に、又、生を得る。その中で前世の記憶を持つものもおりますが、転生者とは異なる存在となります。それはお分かりですね? カイン様。」


 「ええ、存じております、稀に現れる転生者とは、この世界にない知識・技術を持ち、神と繋がるもの、と言われている。」


 にっこりと微笑み、


 「仰る通りですわ、そして、それは真実なのです。七海様と同じ魂を分け合うこの私も、カイン様も神のご加護を得ておりますの。ですが、英雄となるも野に埋もれようとも構わないのです。生き方を強制されてはおりません。ただ、在るだけで良いとの仰せです。」


 「そう、なん、ですか。」


 そこにいるだけで空気が違う、自分よりも年下の少女は、

 儚げな見た目よりも凛とした美しさが彼女自身を表していた。

 とまどうようなカインに向かって聖女フレイアはクスクスと笑う。


 「カイン様、お気づきのように今の私はフレイアでございます。」

 その言葉に自然と背筋がのびて姿勢が正され、アスガルド貴族の顔になる。


 「ですが、お気遣いは不要です。この状況でフレイムニル家の力が何の役に立つというのでしょう、逆に家の名前は仇ともなりましょう。私自身も、その、私の、体を差し出せという言葉には忌避感を覚えましたが、七海様の記憶が甦らねば、魔力を尽くしても逃げられたかどうかわかりません。今の私に必要なのは七海様の知識と経験なのです。カイン様のお力添えを得られなければ寄る辺なき身の上。どうか、お力をお貸し下さいませ。」


 聖女フレイアは、神に祈りを捧げるようにカインの前に片膝を折り、両手を胸の前で合わせて女神フレイアの印を結び、一度視線を合わせてから、深く静かに頭を下げた。


 慌ててカインは、フレイアに手を差し伸べて立ち上がらせ、代わりに自分が片膝をつく。


 「フレイア様、私、カイル・デラクタ・フォン・シュバーツェンは御身が定められた場所に戻るまで、かなう限りの助力をお約束致します。」


 フレイアから、淡い光がこぼれてカインに触れる。

そのまま、又、フレイアは意識の奥底へ戻っていった。

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