災厄の竜

 竜。竜は強力なモンスターとして知られている。そしてその中でもトップクラスに危険だと指定されている竜がいた。


 それが災厄の竜。ポイズンドラゴンだ。


 ポイズンドラゴンはLV100に近いモンスターとして知られている。


 やっかいなのがその身体から吹き出す毒素である。ポイズンドラゴンは呼吸をしているだけで毒素を漏らす。

 

 その毒素は致死性のもので、ポイズンドラゴンが歩くだけで周囲に害を齎す。

 一説によるとポイズンドラゴンがただ歩いて回るだけで一国が滅びてしまったというものもある。

 

その有害性からポイズンドラゴンは通称『災厄の竜』と呼ばれるのであった。


「はぁ……」


 父親である国王からランスの捜索命令を受けた王子ニグレドはパーティーを引き連れて旅に出る事になった。


 もうすぐ冒険者の国リノンへの国境あたりへと歩みを進めている。


「なぜ私がこんな事をっ! くそっ! あの召喚士めっ! 理由があるならばなぜちゃんと言わなかったっ! あいつのせいで私がこんな目に遭っているのだぞっ! くそっ!」


 ニグレドは吐き捨てる。ランスは理由を申し上げてはいたのだが、それに対してニグレドは見苦しい言い訳だと断じ、取り合いもしなかった。

 

 しかし独善的な性格のニグレドはその事を忘れ、ただただランスに責任を転嫁していた。


「なんだあれは?」


 天高く、巨大な影が見えた。影が降りてくる。


 ドスン! もの凄い音が地表でした。


「ひ、ひいっ!」


 巨大な飛翔物が地表に降り立ってきた。竜である。紫色の竜。鼻息から紫の息が漏れている。恐らくは毒霧であろう。


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 毒竜は吠えた。ニグレドは相手のレベルを見抜くスキルを保持していない。その為その毒竜のレベルまではわからなかった。だが、直感的にどうしようもない相手なのだと理解する事はできた。


「王子! どうするんですかっ!」


「決まっているだろうっ! 逃げる以外の選択肢はない! 逃げろおおおおおおおおおおおお!」


「「「はい!」」」


 王子達パーティーは脱兎の如く逃げ出していった。


      ◆


「皆さん! 大変ですっ!」

 

 受付嬢のメアリーさんが騒ぐ。


「どうしたんですか? 受付嬢さん?」


「災厄の竜が隣国リンカーンとの国境付近に現れたそうです!」


「なんだとっ! あの災厄の竜が!」


「やべぇっ! 逃げないと」


 冒険者達が騒がしかった。


「何かあったんですかね?」


「さあ……何かあったんだろうな」


「気になりますね」


 サラと俺の二人はそう会話をしていた。


「来たぞ! 連中がっ!」


「S冒険者パーティー『紅竜騎士団!』」


「ああっ。紅竜騎士団ならやってくれるに違いないっ!」


「受付嬢さん……災厄の竜が現れたそうですね」


 金髪にロンゲの男はそう聞いていた。


「は、はい! 国境付近に現れたそうです!」


「我等Sランク冒険者パーティー『紅竜騎士団』にお任せあれ! 必ずや災厄の竜を打ち倒してみせましょうぞっ!」


「はっ、はいっ! よろしくお願いしますっ! 『紅竜騎士団』の皆様!」


「紅竜騎士団ならやってくれるにちがいねぇ!」


「ああ! なにせ奴らはこのリノン一の冒険者パーティー! 言わばここら辺で最強の冒険者集団だ!」


「……どけっ。邪魔だろうが。我々の存在が目に入らんのか?」


 金髪ロンゲが俺の前に立つ。


「ん? 貴様のその冒険者プレート、Sランクのものではないか。名はランス・テスタロッサ……召喚士か。貴様は」


「そういうあんたは誰なんだ?」


「なに? 知らないのか? 我らはこの国リノン一の冒険者パーティー。最強のSランク冒険者パーティー『紅竜騎士団』そして私がリーダーにして最強の騎士である聖騎士(パラディン)クロード様だ!」


 なんだか随分と口数が多く偉そうな奴だった。


「はあ……」


「貴様のようなぽっと出がSランク冒険者とは笑止千万。恐らくは測定用の魔晶石が故障していたのであろう。貴様はそこでぼーっとして待っていろ。この紅竜騎士団、そしてこの私の勝利を心待ちにしているがよい。はっはっはっはっはっはっは!」


 こうして紅竜騎士団は冒険者ギルドを去って行った。


「どうするんですか? ランス先生」


「嫌な予感がするんだ。一応後をついていこう」


「はい」


 俺とサラは紅竜騎士団の後をついていった。


 

 国境付近の事だった。災厄の竜ことポイズンドラゴンが闊歩していた。



「出たな! 災厄の竜!」


 ガアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ポイズンドラゴンが咆哮する。


「この紅竜騎士団、そしてリーダーであるこの私、クロード・トリニティが現れたからにはこれ以上貴様をのさばらせておく事は不可能だ! 私の華麗にして絶大! そして最強の剣技でこの世から果てるがいい! 魔道士ソフィアよ! とりあえずは魔法を撃って怯ませろ」


「はいっ! 火炎魔法(フレイムボルト)」


 魔道士の女が魔法を放った。

 

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 炎に包まれたポイズンドラゴンは吠える。


「怯んだなっ! 喰らえ! 我が最強にして最大の奥義! 聖騎士最強最大の超必殺技! ホーリースパイラル! てえええやあああああああああああああああああああ!」


 幾多もの聖剣による斬撃がポイズンドラゴンを襲う。


「死ぬがいい! 災厄の竜! といやあああああああああああああああああ!」


 実に18もの同時斬撃を行った。聖剣が華麗に走る。


「決まった! 完全に決まってしまった! お前はもう死んでいる! くっくっくっくっく! あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」


 クロードは哄笑していた。しかし。死んだと思っていたポイズンドラゴンの目に光が宿る。


「な、なに!?」


 ポイズンドラゴンの傷がみるみると塞がっていく。自動回復(オートリジェネレーター)だ。

 高位のモンスターは自動回復のスキルがある。即死させられないと次第に回復していって元通りになるのだ。


「ば、ばかなっ! 我がホーリースパイラルを喰らって生きているだと!」


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


「う、うわあああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 ポイズンドラゴンの反撃。

 

 クロードはポイズンドラゴンの毒息(ポイズンブレス)をまともに喰らった。


 毒状態になる。HPが段々と減っていくのだ。しかも猛毒状態だから余計にHPが早く減る。


「白魔道士スフィアよっ! 我の毒状態を治せっ! 早くしろ! 私が死んでしまうではないかっ!」


「はいっ!」


 白魔道士の解毒魔法でクロードの毒状態は解除された。


「ふう……危うく死んでしまうところだった。よくもやってくれたな、災厄の竜。貴様の健闘を称え、今日のところは見逃してやろう」


「逃げるんですか?」そう、魔道士ソフィアが言う。


「馬鹿者! 言葉を選べ! 見逃してやるといったんだっ! 今日は私も調子が悪い! 偉く腹痛がするんだ。あいたたっ。昨日食べた食事がどうやら当たったようだ。そういうわけで、私は見逃してやる! わかったなっ! 災厄の竜! 逃げるのではない! 見逃してやるのだ! 次会ったらこうはいかないぞっ! ではなっ!」


 スタタタタタタタタッ!


 紅竜騎士団の面々は走って逃げていった。


「なんだったんだ……」


 物影で見ていた俺は呟く。


「あっ! ランス先生! リノンの方に災厄の竜が向かっていきます」


「……仕方ないな」


 どうやら様子を見に来て正解だったようだ。俺は災厄の竜こと――ポイズンドラゴンへと向かっていく。

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