日常は諺のようにはいかない。
めがねのひと
プロローグ 天長地久
「…ぃ…おい!」
「んぁ」
気持ちよく寝ていたところを誰かの大声で叩き起された。せっかくの安眠を邪魔しやがってと思いながらまだ寝足りないと閉じようとする瞼を無理やりこじ開けると、そこには今まで待っていた仕事仲間がいた。
「早いな」
「んーまぁな、早く行かないとお前さんがまた仕事場でぐーすか寝ちまうと思って」
「しょうがないじゃん夜なんだし」
「夜じゃなくても寝るだろお前…」
呆れたように言うと仕事仲間は私の横に無造作に置かれた椅子にドカリと座る。
「まだ焼け切ってないのか」
「結構多い…から」
「欠伸しながら言うなよ」
残骸を焼く時に出るパチパチとした音はこちらの眠気を誘発させてくる。だからそれに従うだけなのに仕事仲間はいつも怪訝そうにこちらを見てくるからそこだけウマが…意見が合わない。
「よくこんなところで寝れるよな」
パチパチよりも近く、バリバリと袋を開く音が割り込んでくる。そして間髪入れずに特有のパサついたものをむさぼる音が聞こえてきた。
「こんなところで健康食品食べる人に言われたくない」
「晩飯食べ損ねたんだよ」
さっきのお返しと言わんばかりに噛み付いてやると言い訳が帰ってくる。
「それにしてもまぁまぁ多いな」
炎に包まれた肉塊を眺めながらいつものように風に吹かれる。換気のために割ったガラスから入り込む言われるよりもしぶとい秋風が冷たく髪の毛を揺らす。そろそろ切らなくては。
「ほら、毒ガスでプシューってやっちゃえばいいのに…っつってもあれだろ?」
「ロマンがない」
「へいへい…」
「あと単純に毒ガスは高い」
屍の山が鈍い音を立てて少しだけ崩れる。それでもまだまだ焼き終わる気配はない。
「まぁこっちとしては後処理のことを考えてくれるやつは大歓迎なんだけど…毒ガスは残ってたりするから俺もあんま好きじゃないし」
「ガスマスク買えばいいじゃん」
「やだよただでさえ視界不良なのにさらに見えずらくなるんだし」
駄々をこねる子供のように言って最後の一口を放り込む。
「まぁこっちの仕事はもう終わったし、任せてもいいんだけど」
「はー飽きもせずにかき集めるもんだ」
「まぁ稼ぎ口だからね」
横に置いていたリュックサックを膝に置くとガシャガシャと重たい音を立てる。軽いチャックを開くと今日の戦利品がどっさり。小さい小さい事務所だったからそんなに収穫はないだろうと思っていたが、思いのほか、小さな懐に莫大なモノを溜め込んでいたらしい。まぁだからポロッと溢れ出ちゃって、目をつけられたんだろうけど。
「武器屋ねぇ…しかも何、随分と小洒落た内装にしてるんだろ?」
「その方が面白いじゃん」
「それはそうだけど」
「ま、もし興味あったら来てよ。友達割りにしてあげるから」
そう言うと「まぁ考えとくわ」なんて素っ気ない態度を取られる。
目の前の肉塊が灰になるにはまだもう少しかかりそうだった。
意味
天地が永久に尽きないように、物事が変わることがない様。
(暗転)
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