学校まであと5分
AWA
第1話 祐輔の場合
今日は卒業式だ、高校生活最後の日、俺は受験に失敗して明日から浪人生活に入る。
「ああ、高校生活楽しかったなぁ~」
部活には入らなかったが、3年間生徒会で年中行事の裏方に徹して来た。充実した日々だった。それだけにこれからの浪人生活は孤独で辛いものになりそうだ。耐えて行けるだろうか?中学3年の時に国立大学に進む事を決意して、みんなにも宣言して、高校時代は生徒会と勉強を両立してがんばって来たのに、受験に失敗してしまって情けない。
「これからの一年間、がんばって行かけるかなぁ~」
集中して勉強しないとなぁ~。そのために、一つだけ気がかりなことがあるんだよな。それは、学校の誰も気が付かなかったと思うけど、俺は久美子が好きだった。久美子とは同じ中学からの同級生で、中学の時はずっとクラスが一緒で、お互いに背が高かったので席も近い事が多かった。中学1年の時、いきなり隣の席に久美子が座って、何て可愛らしい子なんだろうと思って、それ以来ずっと好きだった。しかし、高校に入ると一度も同じクラスにならなかった。それでガッカリしていたのだけれど、久美子はAクラスの代表で生徒会役員になり、俺もBクラスの代表で生徒会役員になった。それ以来3年間二人とも生徒会を続けた。これは偶然の事で久美子が生徒会に入ったから俺も狙って生徒会へ入った訳ではない。それぞれのクラスで皆が推薦してくれたお蔭だ。しかし、この生徒会での3年間がとても良かった。生徒会を通して色々な経験を二人で分かち合うことが出来た。それで、また一段と久美子が好きになった。でも、なかなか好きだって、そんなロマンチックなこと言えなくて、いきなり言って、嫌われたり、驚かれたりして、今まで通り同じ感じで付き合えなくなったら絶望だし、今のままで十分楽しかったから、だから表面上は、普通に男友達と同じ様に接して一緒に生徒会を運営して来た。特に文化祭の運営は最高だった。今までに無い新しい事業を生徒会で発案して、先生や町の地域のみなさんに協力してもらったり、皆で築き上げた文化祭。久美子を始め生徒会の連中はみんな戦友みたいなもんだ。そう、その久美子も俺の志望してた国立大学を受けていて、学部は違たんだけれど受かっていたんだ。来年から離れ離れになっちゃう。久美子は何とも思っていないだろうが、俺はこのまま久美子と距離が離れてしまうことが受け入れられない。今日が最後で、もう二度と会えなくなってしまうかもしれない。そんな事になったらどうしよう。そういう恐怖が付きまとう。それを気にせず落ち着いて勉強できるだろうか?そんなの絶対に無理そうだ。
さて、そろそろ学校に行かなくては、通学路の途中で彼女に会うのも今日で最後、その時に「好きだった。いや、好きだよ。」って言っちゃおうかな?言っちゃいたい!言わなきゃだめだ!言わないと明日から勉強が手に付かない。振られたら、軽蔑されたら、落ち込んじゃうと思うけど、それでも言わないでいてずっと悩むよりいい。当たって砕けろだ。よぉ~し、勇気を持て!絶対に言ってやる!でも、あいつ何て言うだろう。何にも言わないで白けた顔をされるかもしれない。怖いよな。なんたって、美人なのに真面目で、勉強が出来て、今まで言い寄って来た男達に見向きもしなかったのだから。それだから、俺も振られるのが怖くて今日まで告白できないでいるのだ。しかし、今日を逃したらもう告白できない。一生後悔してしまう。断られたって、振られたっていいじゃないか、最後の最後の瀬戸際だ、みんなに知られてしまうのがちょっと恥ずかしいけど、それも、もう皆とも会わないし、そんなの関係ない。
ああ、もう少しすると彼女が向こうから歩いて来るはず。学校に着く前までに5分はある。二人っきりの間に「俺、久美子のことが好きなんだ」って言っちまおう。そうだ、そう心に決めた。
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