03 冒険の書

 つい最近、己の出生の秘密……というより世界発祥の真実的な内容を知った。

 今回はこの世界の実父が…何故かひた隠す若かりし頃の秘事の暴露…になるのかな?

 とにかく、文書化してしまった親の半生の調査となった。


 肉親とはいえ他人の人生、本人が自慢タラタラ語るなら記憶の片隅に置いても邪魔にはならないと思うが、うちの場合はどうも“言いたくない”黒歴史の方向らしい。それを知るのに躊躇が無いとは言わないが、事が実家の伯爵成り上がりに関係するとなったら話は別だ。

 どーいった因縁が絡んでの話かくらいは知っとかないと、後々絶対、地雷を踏む。

 少なくとも俺の今生はそのくらいはタイトロープと思うんで――。


「……という葛藤の途中申しわけないですが、特異点・ウザイン・ナリキンバーク。これがご要望の〈ガーネシアン冒険記〉です」

「――おお、ありがとう。ツララ…さん」


 パーティ後に連絡を取り、翌日、何時もの図書館の一角にて所望したブツを受けとる俺である。


 先日より俺とツララの間には魔力的なパスが生じ、前世のSNSじみた短文のテレパシーに似た脳内会話や知識の伝達が可能になっている。

 ツララ曰く、彼女が代行する〈鑑定スキル〉とでも思えばいい機能の行使ができるようになったわけだ。ただ鑑定と言っても彼女の知らない事までは知ることは無理。しかし、俺自身がこの世界に密接に繋がっているため、時折は妙に知らん部分も普通に知ってるみたいに確認できる場合も起きる。

 ……そのあたり、まだ俺の特異点の能力が収束しきっていない影響とかなんとか。


 が、まぁ。

 何でも知ってる系女子に携帯で話す感じには問題ない機能である。

 ……向こうは容赦無く俺の心の深いとこを探りにきたりもするが……元より、前世も含め見知った女は全部そんなものだったので気にしたら負けと開き直った俺だ。


 …身体は14の思春期盛りだが精神の方は既に子持ちのオッサンもいいとこの俺。さらには貴族故にプライバシーの無い暮らしも慣れたし、ベッドの下の秘した空間も作ってないので世間様に隠したい性癖たーぁ欠片も無いのだ。(虚言)


「反射的に貴方の秘したい性癖一覧がこちらに伝わって来てしまいましたが、ここで言語化してもいいでしょうか、特異点・ウザイン・ナリキンバーク?」

「ヤメテクダサイ。死んでしまいます」


 図書館を管理するスタッフ側にとってツララは扱いの難しい腫れ物扱いだったようだが、その要因に俺が加わった事で面倒さ自体は増したらしい。

 ……が、同時に俺という要素は一部女性に対し圧倒的なアドバンテージがあるのも事実なので、その部分――甘味・菓子類といった成金物量攻撃の成果もあってツララの印象は好意的な方向にシフト中のことだった。


 司書の大半が女子学生故の荒技である。

 本来なら飲食厳禁の図書館内だが、貴族の利用を想定し個室の書斎のように区切れる閲覧専用の空間がある事で規則のハードルも下がるわけだ。


 ……と言うか、こういった施設は貴族社会によくある密室の会談用のソレとそう変わらんよなぁ……。


「地味に禁書中の禁書でしたよ。王宮が確保したものは全て焚書ふんしょ…しようとしましたが、装丁は全て火竜の皮膜紙製で燃えず潰えず。最終手段として王宮宝物庫に死蔵されていた腐死竜デス・ドラゴンの酸毒で溶かしたという曰く付きの逸品です」

「……そりゃぁ…まぁ…お世話をかけたようで」

「さらに言えば、それは私物をお借りしたものです。読後は当人にお返しください」

「お、それは誰の?」

「マルドゥーク・マーリニス。この図書館の館長です。彼くらいでなければ王宮より禁書を守れませんから」

「おおぉぉぉ……、了解した」


 なんと、マルドゥークかぁ……。

 まさかの聖女の旦那枠。加えてジジイ枠でもある男。

 外見年齢(表)は七十代近いシワシワじいさん。腰まで届く白髪の長毛、顔の下半分を胸元まで隠す白髭は見事に仙人じみたお爺ちゃんをしている。

 が、実年齢は御年200歳。確か何らかの高濃度の魔力塊に触れる事故を経て不老不死化。以後は隠者か名を変え世界各地を転々としていたという設定付きの化物になる。

 で、外見年齢(裏)なんだが……実はエルフでもないのに二十歳代にしか見えない美男子さんなんだよな。(表)の顔は変装の賜物。さすがは乙女ゲーム設定のキャラという。


 ……と言うか、少女マンガ特有の描き分けタイプのキャラ設定だと、完全に二十代の青年が白髭の付け髭つけた程度の変装なんでツッコミ処満載過ぎたキャラなのだ。

 因みに、担当CVは美少年や美青年、果ては宇宙人や赤い馬であっても凜々しくかっこよく演じる事で有名な男であった。


 ――と、脱線した。


 確かマルドゥークが図書館館長になるまで経緯は……

 現王の幼少期の魔術教師だった。

 そこから宮廷魔術士になり、引退して館長に……的な。

 引退とはいっても予備役軍人みたいな扱いで、戦時や騒乱時には現役復帰する…むしろ戦争の時期は大量殺戮兵器マンなやつになる。

 聖女が恋人に選んだ後は、マルドゥークのために聖女が心身共に聖女として動かないと平気で世界を滅ぼす魔王っぽくなる展開もあったなぁ。


 要するに、物語的には一番物騒なやつの認識でよろしい。


 そんなやつの私物を受けとってしまった俺。

 返却時にどーやったって対面せにゃならなくなった……俺である。


 ……自衛はどこまでの範疇が自衛だろう? 王都が半分くらい消えても許されるだろうか……?

 …なんで物騒な未来ばかり妄想するんだろ、俺。


 ともあれ、本読もう。本を。


 ガーネシアン冒険記は上・中・下の三部作構成で、一冊一冊がA3サイズ、厚みは10cm近くある重量物。装丁もやたら豪華で、さすがは公爵家が作らせたものという印象になる。

 ……ある意味、火竜の革ってのも納得というか? 長く持ち続けると手が焦げてくる気分になる。


 こんな本を図書館の外に出す気はさらさら起きんってわけで、俺に本を渡すと同時に去ってしまったツララの代わりに、近くの司書さんに言って閲覧用の部屋に案内してもらった。


 司書さんに連れられた読書スペースには既に先回りしたメイドたちのセッティングも済まされており、何時でも優雅な読書に集中できるようになっている。

 あと、何故かフラウやライレーネにリースベルと、隣に設けられた席にてお茶会モードで待機してるのも……メイド共がいるならと納得するしかない。


 ……もう慣れた。この展開。


「専用の書見台を用意致しましたので、こちらに」

「ああ、助かる」


 正直、こんな馬鹿でかくて重い本を手に持ち続けて読むのは不可能に近い。

 あと本当に持つ手が燃えるように熱い気がするので早々に手放したいのが本心になる。


 書見台は、木組みで作られた…オーケストラなんかでよく見る楽譜を立て掛け見開きで縦置きするようなやつだ。物が百科事典並みに大きいので俺の他彼女達も読めるくらいの空間的な余裕はある。

 ついでに言えばこの書見台、魔道具でもあって自動ページ送り機能つき。どんな原理だとか視線感知とか現代機器っぼい解釈を当て込むような野暮は言いっこなしである。


 立て掛けるように本を置くと勝手に表紙が開いていき、手の油分を拭う飾り布のページと最初の白紙の中表紙が直ぐに捲られ、本分最初のページが表れる。


 その冒頭の出だしは――――




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