24 身近な神話 (2)

「唐突に長口上し始めて、なんなんだ?」

「……意識の負荷を治めてと言ったのは、何も特異点・ウザイン・ナリキンバーグに限ったものでは無いのです。

 今の私は、思考と記憶に香取詩杏を含みます。私を通して過去の経緯を再確認する彼女の感じる情動は、かなり、意識の表層まで出てしまうのです」


 んー、それって、つまり。


「効くに耐えない黒歴史なら、自分が語った方がなんぼかマシとか?」

「いいえ、明け透けに当時の内心を吐露した手記の内容よりも、少しは威厳付きの脚色を加えれるという姑息さの現れですね」

「……容赦ないなー、自分の中身に」


 なんとなく“キリッ”といった感じの使命感ツララがした感じだが、気のせいだろう。


「加えて、特異点・ウザイン・ナリキンバーグが知る〈ローズマリーの聖女〉とは決定的に違う要素があることを伝えるタイミングとも判断しました。

 私の盲点です。貴方と香取詩杏は知らなかったんですね。〈ローズマリーの聖女〉のソシャゲ版」


「……え、ソシャゲ?」

「スマホやタブレット端末等で展開するゲームスタイルの──」

「いや、そりゃ知ってるが。……えっ、出てたの? そっち系でもっ?」

「はい。出てました」


 えー………………。

 知らんかった。


「あちらのプラットホームはゲームの物語性は二の次で、既存のゲームシステムをそのまま流用、もしくは派生型程度の違いで進行するよう、利用する物語のシナリオを改変するのが定番です」

「綺麗な言い方だが、要するに賞を取るような面白い小説を原作にして、クズな脚本家が低予算アニメかドラマにパクるようなもんだろ? しかも爆死確定の」

「身も蓋もない話ですが、その通りですね。ソシャゲ版は他のプラットホームとは別次元レベルの内容となり、しかももう一人の特異点は、その完結を見ないまま、この世界に来ました」

「……ソシャゲ版なんぞ、大概サービス途中でエタるとこじゃねーか。特に和製作品なんぞ最初から完成させる気も無いのが透けて見えすぎだよ……ああ、だから俺、関心も無かったんだな」


 別にソシャゲに限らないが、物語をアップデートで増やしてく延命タイプは基本的に楽しめないんだ。俺。

 今は中途半端だけど、いつかは(後任の誰かが)完成させますよーって運用気質がいい加減でな。

 内情を覗きゃ運用開始時に完成までのコンセプトなど無いってとこが大半なのだ。

 その場凌ぎの飾り文句を言い続けりゃ良い。

 定職について働き続けたいための綺麗事。

 創作業界の中に置くのが恥ずかしい、日雇い下働き根性が膨れ上がった下衆共の戯れ言だ。

 そのくせ環境はブラックで、現場スタッフが分単位で入れ替わるからクオリティも低いままだし。



「……特異点・ウザイン・ナリキンバーグ。内心が暗く淀んで渦巻いてますが、何かソシャゲに嫌な過去でも?」

「いや……そういった具体的な記憶は無いが……もしかしたら何かあったのかもなぁ」


 ……なんか暗黒面がブワッと広がったようだが……落ち着こう。


 ツララが言うには、ニルフォクス公爵のとこの天光神聖女で特異点となるルミナエラは、そのソシャゲ版の〈ローズマリーの聖女〉をこの世界に定着させる起点らしい。

 対して俺は、その他の設定に関係している。

 これは、ソシャゲ版が戦争モードを主題に置いて展開してたからのものらしい。

 学院時代までの大筋は俺の記憶が基本。でもその後の戦争時の人間も絡むため、いろいろ予定外の展開が起きがちになる……と。


 ふむ、つまり。

 俺が正規ルートっぽくない状況に右往左往させられたのは、大体ルミナエラのせいってことだな。


「短絡的です。正確ではありませんよ」

「……ちっ!」


「右往左往という意味では、トリシアが被害者でしょう。彼女が旅立った理由は、聖女の設定が改変されたことにより、娘のスバルちゃんがどう変化したかを確認せずにはいられなかったからです」

「……む?」

「南の方向には、後に〈豊穣神〉神殿の祖となる部族がいます。他にも各神殿の祖の地を巡り、叶うならスバルちゃんとの再会をという旅なのです」


 ああ、そうか。

 俺との再会の気持ちは一段落ついたものの、我が子とのとなれば、話は別か。

 そして彼女は理解していた。俺がウザインのモデルだったように、我が子をこの世界に組み込むとすれば、それは聖女になるのだろうと。


 ……が、結果で言えば、それも空振りだった。

 俺の転生と時期がズレたように、六大信仰がまだ聖女を頂かない時代では彼女の望みは……


「トリシアのやれたことは、結局は効率良く、後々都合良く活用可能なよう、神殿の基礎を築くことだけでした。

 後に六大信仰として存在するとしても、彼女の知らない要素で成り立たれるのは不都合と考えたのですね」


 ツララの語りと並行し手記の該当部分を読んでいく。


「……なんとも、思いきったというか、適当と言うか……。

 いいのか? 神様の正体がこんなで?」

「生きた偶像崇拝は便利ですよ」

「それでもなぁ……」


 トリシアが使い魔を使い始めたのはこの時期、旅の途中でとなっている。


 簡潔に言えば、神様の正体はコレだ。

 現地に棲んでたボス級の魔物を使い魔にし、人並みの知恵と意識を教え込んで鍛え上げ、最終的には肉体の制約すら越えた精霊のようなモノにした。


 ……なるほど。

 戦神が妙に人間臭く感じた理由はこれかと納得する。

 ちなみに、手記によると戦神の元の魔物は“柴犬っぽい狼犬”らしい。

 黒毛の体毛に眉毛つき。オマケに巻き尾。ただし体高は20m近くある……と。


「可愛いですね」

「……可愛い、か?」


 首が痛くなるほどに見上げないとな柴犬。

 ……果たして可愛いのだろうか?


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