22 飯テロは秘かに… (5)
「ねえ、ウザイン。このスープパスタ──」
「売り物じゃ無いですよ。あとスープパスタじゃなくラーメン……モドキです」
ズルッと啜る食い方は敢えなく却下をくらい、あまつさえ優雅に食せるアイテムとしてレンゲまで(土魔術で)用意させられた。
……和食系で箸の食文化はあるからリリティア様も普通に使うんだが、より優雅にってことで匙を所望されたましたよ。
うん。
形をレンゲにしたのは…せめてもの……うん、何も言うまい。
「……それで、ウザイン。売るつもりも無い物を、何で、この場所でプレゼンしておりますの?」
「え? いや別に……深い意味は……?」
フラウたちを学内に戻す必要があったし、支店や別邸に帰ってまで試したいことでも無かったし。
適当な材料でどの程度再現できるかなー……なくらいの、興味本位で?
俺が悩む様子に呆れた表情をしたリリティア様が、ついっと箸の先で宙を差し……ってハシタナイですよ御令嬢様ぁ。
え? そうじゃなくて、そっちを見ろ、と?
視線を移す。
厨房を占拠し、先程メモったレシピの内容を精査しているメイドたち……の姿。
さらにその向こうには、昼を過ぎてなお刺激的な香りを放つスープの仕込みに誘われたのか、入り口や窓の陰から顔を覗かせる学生諸君。
「彼等はすっかり、新メニューのイベントの準備でもな気持ちのようですわよ?」
「……あれ?」
というか、
この一杯のためだけの事に何で延長戦に入ってんの?
「いえ、ウザイン様が“物足りない”と申されたので、であれば主の舌に叶う逸品をと」
…………やっちまったよーだぁ。
「“シナチク”と呼ばれる食材を発見しましたので、確認をお願い致します、ウザイン様」
「スープの材料に適しそうな物を用意しましたので何かご意見を頂けますか、ウザイン様」
「市井の商人より“なると”なる具材を勧められたので持参しました。ご確認を」
「同じく“背脂”なる具材を──」
「同じく“
「同じく──」
「同じく──」
「同じく──」
………………
…………
……
………………あ、れぇー…………。
メイド隊が燃えていた。
たぶん、俺の迂闊な一言のせいで。
というか、いつの間にか用意してない知らん具材まで集まってないかい?
あ、シナチクがあったのは単純に嬉しい。
ナルトがあったのは意外すぎた事実。
っつーか、市井の商人、実は隠れラーメン地下組織でも作ってないか?
このタイミングで集まる理由がマジで解らん。
「この濃い味付けならば、午後の鍛練などで疲労の大きい者たちに好まれそうですね。私には水気が多く量は無理そうですが」
「その割にツルツルいきますなぁ?」
小鉢でとはいえ、既に三杯はいってる人が何を言うのか。
「パスタ以外の具の少なさが減点ですわ。肉類のボリュームに対し野菜のバランスも悪いです」
……ホント、どの口が言うというのか。
「具は間に合わせでしたし。そもそも組み合わせの自由度があるものですからねぇ。あー、野菜ならトマトが良い感じに──」
「試作の28番目、になります」
既にどんだけ作ってるんだ、というツッコミは効くんでしょうか?
前世でも食った試しは無いが、巷で美味いと評判だったトマトスープベースのラーメンが届けられる。
当然といった態度でレンゲを差し込み、そのスープを一口。
「私はこちらが好みです。実の食感も良いですね」
「自由っすねー……」
「自由なものと言ったのはウザインでしょうに」
ぐうの音もでねー返しである。
で、結局。
メイド隊の頑張りは俺が“美味い”というまで終わらんようで。
午後の時間は延々と続く試食で終わることになる。
種類と量もバカにならないものになり、その場に居た者たちに饗された。
翌日から出されるメニューと勘違いされ、食堂の担当者に迷惑をかけることなろうとは、この時点では気づかぬ俺だった。
後まぁ、最後の方。
極々自然に混ざってたリースベルが、後日、食べられなかった試作があったと恨み事を言い続け、本格的にラーメン開発が始まったのは想定外の流れである。
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