56 ダンジョンアタック・折り返し

 一時間活動したら小休止を20分前後。そういったペースで22階層を移動する俺たち。

 俺とメイド隊は少々のズルをして疲労知らず。意外やリリィティア様も持久力はそれなりに。しかし、全身甲冑プラス盾持ちでガード戦闘がメインな騎士二人は、定期的に休みを入れないと体力的にキツいのだ。

 なんせ戦闘の疲労は心身共に来るからね。

 で、それを3セット、約四時間を経過したころに23階層への階段へと到着した。


 今回は魔物のガチ逃げ大行進は……無かったとは言わないが小規模だったようで、その場所に駐屯する部隊にも余裕あり。

 しかも元凶オレが居ることで魔物も近寄らなくなり、平穏(?)に情報共有をする事ができたりもした。

 一応、ここで21階層と22階層の踏破済みルートの情報も上げておく。地上で情報共有されるのは彼等が帰還後の話になるが、嫌な話、彼等が確実に帰還できる保証は無いので、やれるとこでは重複してやっとくのが大事なのだ。


 駐屯人員は学生と冒険者の二系列がいたので、学生の方にブレイクン先輩たちの安否確認をする。すると、予定ではこの階層に居るはずだと知る事ができた。


「リリィティア様、どうします?」

「そうですわね……」


 実のとこ、時計を確認すれば今は午後の3時ごろ。20階層から転移で地上に帰るとなれば、そろそろ帰還行程に入らないとならない。


「貴方たち、ブレイクンの移動経路は聞いてますか?」


 ダニングス率いる冒険者たちが最深部と例の目標探しに傾向する反面、学生はダンジョン内の地図経路の把握を中心に動いている。

 そのため、現場の地図の精度は俺たちの持つものより数割は高いものになっている。

 実際、学生の大半はこの階層を最前線と位置づけ活動中。地図の埋まりは俺たちが報告したのも含めて8割強となっていた。

 それを確認しつつの返事によると……


「枝道の詳細と、未帰還者の痕跡探しか……」

「これは待機よりも、私たちの帰還を兼ねた合流をという流れでしょうね」


 ブレイクン先輩たちの行った方向は俺たちが選択しなかった、当時の未確認経路の一つ。そこはもう開通確認ずみに変わっていたが、細かい枝道までは未確認というルート。

 しかもこの階層で行方不明になった冒険者の痕跡があるのでは? とも推測されているポイントも含まれる。


「ブレイクンらは今日を含めて三日の調査予定が申請されています。そしてここの駐屯部隊に配されてましたね。今やっている任務はその一環でしょう。であれば、途中で遭遇できる確率も高いと思います」

「どっちも帰還ルートってのが妙に皮肉な」


 俺たちは地上へ。先輩らはこの駐屯地へ。

 まぁ、遭える保証も無いのだけど。


 そして再び始まる移動の行程。

 ただし魔物との遭遇はグッと減ったな。

 集団戦にもつれ込む事も無くなったので、遠目に確認ではたものはアルミラージ組の狙撃か、俺、リリィティア様の単体対象の魔術で対応。隠形で接敵してくるのだけ俺中心で斬り倒すスタイルでの移動距離は意外と捗った。


 ……と?

 位置的にそろそろ21階層かというあたりに、魔物じゃない反応だ。


「リリィティア様、おそらく先輩達らしい反応が出ましたね」

「あら、どちらに?」

「そこの左の壁の向こうですよ」


 見れば10メートル先に横道があり、たぶん、ぐるっと大回りして壁の反対側まで通路が続いてるんだろう。そういった場合は壁越しでもオレの探知は機能するし。

 ただし、スタートとゴールは解っても途中の経路は解らない。

 あと、その反応に動く気配が無いのが少々気がかりだ。

 それも含めて全員に詳細情報を報告。


「手っ取り早く行きたいですが、壁ぶっ壊してってのは却下しときますよ。それやると向こうに生存者居なくなるんで」

「……わ、解ってますわよ」


 たぶん、案として言おうとしてたな……とは突っ込まない。

 だいぶ無礼講が通常になってきたが、その分、向こうは物理の対応が増えてきた。

 意外と淑女の拳って効くのだなと知った俺だ。

 抉るように顎先や鳩尾に来るのよ。容赦無く。


 これは可及的速やかに迂回かな……と決めかけた。

 だが変な質問が予想外のとこから来た。


 “あれ、穴開けないんだ?”


 ……的な、素朴な疑問風のやつで。


 問うのもアホらしいソイツらは毛玉なアルミラージの使い魔ぁズである。


 一応、ダンジョンの壁が絶対に壊せない系のオブジェクトじゃないのは知っている。でなきゃこの大崩落とか起きていない。

 が、特殊で不思議な防護作用で異様に頑丈だってのも知っている。

 だから穴を開けたいならば、再生や修復の追いつかない大破壊で一気にという感じなのだが……それを具体的に意識して使い魔に伝えてやった。

 それで納得かと思いきや、返ってきたのは“えー、囓ればいいのに”という否定の意識だ。


 ……え?

 ……囓る?

 何を? 壁を?


 疑問が山盛りになった俺の意識に、今度は使い魔からの具体的な意識が来て……なんか、無性にやるせない気持ちがぁ。


 なんでも、だ。

 アルミラージを始め齧歯類の特性をもつ魔物は、通常能力として“カタイモノ”に対しての貫通性能が働いている。

 これぞ理不尽の権化というか、対象が硬ければ、もしくは堅いほどに、その前歯や角が凶悪さを増すのである。

 ……つまり、要約するとダンジョンの壁の天敵。


 試しにやってみろと一発、壁に向けて角を撃たせてみたら、見事な弾痕が開いたという……。


 ただ、射撃だと角――弾頭――が本体と離れる事で効果も減じ、完全な貫通は至らない。

 最も効果的だというなら“囓り”であり、だからこそ、俺にそう進言してきたというわけである。


 ……というわけで。


「これは……今日最大の理不尽ですわ……」

「そこは激しく同意しますよ……」


 カリカリショリショリコーリコーリ。


 手乗りサイズのウサギが奏でる、なんとも不思議に食欲をそそるような咀嚼音と共に削られていくダンジョンの壁。

 大人が蹲れば潜れるサイズにラインを引くように、歪な楕円の円周状に切り取られていくそれは、まるで金庫破りが金庫の扉をバーナーで焼き切るのに似ていたり。


 やがて開いた大穴の向こう、ケガ人を抱え蹲ってたブレイクン先輩たちの唖然とした表情を確認し、たぶん、俺たちも似たような顔をしてんだろーなぁと思ったりする俺だった。



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