54 ダンジョンアタック・インターバル

「ウザイン、この階層はどうですか?」

「ふむ……」


 22階層に降りて直ぐリリィティア様の確認。

 もちろん、この階層の魔物の反応は? という問いになる。


 まだ階段を降りたばかりなので付近に魔物自体が少ないのだが……ふむ、視える数体は怖じ気づいてる風な挙動とも思えるが、露骨に逃げる反応じゃないな。


「個体の強さが上がっているのか、前の階層ほど酷い惨状にはならなそうですね」

「そうですか。それはなにより……いえ、では私たちも気を引き締めますよ」


 リリィティア様にバトルジャンキー気質が出てそうな予感。

 騎士達への注意喚起はしてるから正気ではあるようだが。


「お前達もこの階層では接敵を念頭に動くように」

「承りました」


 俺もメイドたちに釘は刺しとく。

 使い魔達には……“速やかに、殺れ”。

 反応は“らじゃー”と勇ましく。

 ……いや、敬礼のポーズは要らんて。



 さて、この時点で自分の盲点に気づいた。

 最大で20メートル先までの探知範囲は、俺の魔法との相性が良くない事実。

 魔物が単体だった場合なら良いんだ。

 二足でも四足でも、それ以上の多足でも、動物系の多いここならば雷属性の強めを撃てば麻痺らせて制圧は容易い。

 しかし多数が相手で魔法が範囲となった場合には……被弾域に俺たちも含む可能性が大きくてねぇ。

 だから剣などの体術での迎撃が基本になる……という盲点。


「うーん、百人組手とかやってる気分になってきたぞ」


 登場する魔物は〈シェイプシフター〉の戦意高めなやつ。トロールが減ってオーガを多めに変わり、新規は〈ミストデーモン〉という人型シルエットの霧状の身体で物理攻撃が効きにくい魔物。


 これが発生のタイミングがシェイプシフターと似ていて対応を間違えやすいのが地味に嫌らしい。


 こちらの物理攻撃が効き難い反面、向こうも接敵後の攻撃に物理の心配は無いんだが、霧状の身体に触れると五感全部に機能低下のデバフが生じるという……これまた嫌らしい効果が来たり。

 オーガとの乱戦でそれだとキツい効果だ。


 俺自身は魔物に恐怖を振りまく結界効果で触れられるのは避けられてんだが、リリィティア様を守る役目の連中は弱体効果にやりづらそうだ。

 幸いなのは、そうしてる間にリリィティア様の魔術で一掃可能な程度の相手である事。


 どうやら、彼女にMP最大値を増やす処置をしてたかいはあったという事で。


 けどまぁ、問題として。

 今までは接敵を許さない対応がここで崩れたってのは、俺たちのパーティにとっての大きなマイナスになっている事実だ。


「ふーむ、リリィティア様。リーダーとして現状の対応はどう見ます?」

「そうですね……消耗はそれほどでも無いですが、継戦速度に不安はありますわね」

「やっぱり、そうですよね」


 何度か戦闘を繰り返して感じたものに、一戦を終えない内の追加の参戦――リンク戦――が出始めたってのがある。

 現状、迎撃時に一撃対応できてるのが俺、オッサン騎士、リリィティア様の三名のみ。残りは良くて二撃。それで倒せない魔物は手の空いた俺たちの誰かがトドメを入れている。

 使い魔達にはオート迎撃を任せているが、対象は主にリンクに来る方で、接敵したものには誤射の心配があるから放置させている。


「良い状況じゃないな。メイド隊、武装をもう一段……いや二段強化」

「了解しました」


 彼女等の使っている武器と防具は今でも自作のミスリル製。ただし、素材の品質のみに頼った“普通の業物”だ。

 それを一度回収し、俺も魔法のカバンを持っている体でアイテムボックスから別の物に切り替える。


「意匠は変わらないようですが、それは?」

「魔法剣の類ですよ。属性魔術の効果を帯びたやつです」


 正確には剣や槍の形をした魔道具。ダニングスの仲間なども使っていた武器の同類である。

 ただし、あちらはダンジョン産のドロップ品。こちらは俺が作った試用品の一部になるが。


「どうせ試作品だ。効果が消えても元の武器としての性能は残る。耐久テストのつもりで使い潰せ」

「御意」


 実のところ、これはリースベル用にと試作しといたもの。付与してる属性も苦労して聖属性を付けた。

 ライレーネのとこは麗光神でマニキュア。なら戦神のリースベルには武器かなぁという安易な発想のものでしかない。

 で、神殿関係なら聖属性でしょ、というやつだ。


 ミスリル素材なのは魔力付与に適しているってだけの話だし、何より俺が私的に持つ金属素材で一番余っていたからな程度だ。

 壊れても鋳潰せば良いからって気持ちあるからねぇ。

 実に気軽に使える……いや、使えていた。

 過去形だ。もう経費外の在庫は無いし。


「そちらの(女)騎士さんも、ちょっと剣を」

「はい?」


 ここで今さらでもあるが、それでも実家の戦力の元となる武器は持たせれないのが辛いとこ。しかし、一人戦力不足で置くのはもっと危険なんで応急対応くらいはやっとこう。


 使うのはリリィティア様にもやったマニキュアでの強化。でも塗るのは剣だ。刀身だけじゃなく鍔や握りまでラインとして引き、当人の手に触れさせて魔力の流れを確保する。

 ちょうど土属性の効果もつくし、剣の性能アップには良い結果になるんじゃないかな?


「それは、何か魔法陣を描いてますの?」

「いや、深い意味は無いんですけどね」


 手早くやろうと毛染め用の櫛で一気に塗ったせいか、剣全体が妙な金色紋様つきというデザインになったが偶然である。

 魔力の乗る経路が確立すりゃ良いから、別に綺麗に塗りつぶす必要も無いし……のつもりだったんだが。


「速乾性なんで数分はそのままで。その間、少し休憩もとりますか」


 ついでに小休止となる。

 各自携帯食や水分補給だ。

 騎士達はブロック状のもの……まぁ“カ●リーメイト”的なやつを。リリィティア様はどこからともなくサンドイッチを優雅に。

 俺とメイド隊は、騎士達と似ているが非なるモノ。黒くてちょい粘る、ヌガーバーなどを嗜んだ。


 ここは〈ローズマリーの聖女〉の世界。食の事情は現代と変わらない。

 携帯食として塩っ辛い干し肉を食うのは、それが似合うオッサン冒険者くらいなのである。


 もっとも、チョコやキャラメルで激甘のヌガーバーはナリキンバーク商会謹製の新商品ですが。

 紳士淑女が登場人物のかの作品では、こうした粗野なジャンク食はカバー外のものなのだ。



 ちなみに、物珍しい珍品を披露した結果、リリィティア様に献上する事になったのは当然といえば当然の流れなのだが。



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